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結末

 


「あぁ…り、ハン?ああ…りはん、リはん、りはんリハンリハンリハンっ!!!」


 怪物が狂ったように暴れだす。

 壁に自らの手を当てて崩壊を促す。

 そして崩れた石を手に取り、リハンへと投かんした。


 人外の速度で飛ぶ瓦礫は大砲よりも威力はずっと大きいであろう。

 しかし、その弾はリハンに当たることはない。


「ふんっむ…。」


 少女の間に立つ大男が左手で受け取ったのだ。

 そのまま勢いに任せ、渦々しい得体に投げ返す。


 瓦礫は轟音と摩擦に耐えきれずルートに当たる前に砕け散った。

 砂煙が地面へと全て舞い降りた時、中央に武装された男女達を率いて立っている男が口を開く。


「久しいね、ルート。」


「アアアア、ああ?アァ…」


 リハンがそう告げると目の色が曇る。

 横に立つリハンと一生を遂げると決めた女性…アンジュがそっと彼の手をとる。


「ぼくは大丈夫だよ。それより君は?」


 にっこり笑いかけるリハン。


「私も…大丈夫よ。もうかつてのルートお嬢様ではないわ。」


 しゅんとした顔のアンジュの頭をリハンが撫でる。

 そして前を見た。


 ルートは奇妙な鳴き声を出しながら魔力を高めていく。

 そして大きな闇色の球が放たれた。

 しかしリハンには当たらない。


 キュルキュルと強大な魔力の球は消えていく。


「ありがとう、アンジュ。」


「私にかかればこんなもんです。」


 球が消えた瞬間、リハンの後ろに立っていた『月組』たちが音を立て、地面を蹴り、ルートに近づいた。


 わずか数秒でルートは包囲される。

 個々の強さは王国騎士団長に匹敵…いや、わずかながら超えているかもしれない。


 そして1人ずつ攻撃を加えて行く。

 見事な連携に、それは歴戦を超えてきたものだと感じさせる。


 しかし、その攻撃をも受け止め、反撃するのが人ならざる者である。

 そして今まさに反撃を受け止め、着地した女性に魔力弾を撃ち込んだ。


 本能のままに勝利を確信する。

 残りあと9人…圧倒的戦力の2人を除けば十分蹴散らせるレベル。


 ルートは次の標的へと視線を移す。

 そして魔力弾を撃とうとしたその時、爆発的火力が後方から生じた。

 ルートが最初に倒した雑魚からである。


 魔力弾を生成しつつ、後ろを振り向く。

 目の前には大気を割って走る炎の蝶とぶつかる寸前の距離にあった。


 空気が大きく揺れる。

 いつのまにか周りを包囲していた団員達は距離を取り、リハンの元へ集まっている。


 そして炎の蝶を現象させた張本人は魔力弾を食らったのにも関わらずけろっとしている。


「おい、シナミィ。少しローブが汚れてるぞ。」


 団員の1人がローブを着こなし、大きなハットを深く被り込んだ女性の裾を見ながら指摘する。


 疑問の声を出しつつ、シナミィと呼ばれた魔法少女は生活魔法を使って、汚れを落とした。


 緊迫していた空間がほんの少し和みを運ぶ。


「これで少しは落ち着いて話せるかな?」


 蝶が立てた砂煙に向かい、いかついメンツの長が声をかける。


「リハン……りりり、りはん…どうして私ではいけなかったのですか?

 どうして私ではなく、彼女を選んだのですか?」


 未だ姿は見せず、汚れた砂煙から声のみ聞こえてくる。その声は先ほどまでの発狂ぶりとは違い、随分落ち着いていた。


「それは簡単なことだよ、ルート。

 僕は単純に君の研究が怖くなった。怖気付いてしまったんだよ。」


 すこし団員達に動揺が走った。

 しっかりと今までは理解してなかったが、あの団長が怖気付く?

 そんなことがあるのか、と。


「そんなの理由ではない!!」


 突然雄叫びのような声を上げ、空気中の魔力量が変化する。

 団員達は一瞬で戦闘態勢へと切り替えた。


「私が聞いていることはそんなことではないわ。

 どうして、テレスを選んだのか、ということよ?」


 返答次第では魔力が暴走しかけないと、その問いにこの場に意識のある者達は皆悟った。




「僕はね、選んだとか選んでないとか、そんな話では君の疑問を片付けきれないと思うんだ。

 君は犯してはいけない領域を侵したんだ。」


 リハンは目を伏せ、そうつぶやく。


「僕は君をすごく強い人だと思ったよ。

 他の貴族達に何言われたって、何されたって、自分のやってたことを曲げない。」


 目を開け、最後に言い放った。


「僕はテレスに君を止めて欲しかったんだ。」


「でもでもでもでもでも!!

 リハンは強い人が好きなんでしょ!?

 私はあなたの一番になろうとしたのよ!?どうして私を見捨てたの!?」


 段々と煙が落ち着きを取り戻し、そう人間と変りないものが姿を現した。

 目には大きく雫を伴い、よく聞けばしゃっくりをあげている。


「見捨ててなんてないよ?

 僕がいつ見捨てたというんだい?」


 段々と答えるリハンに苛立ったルートは全力の魔力弾を団員達が追撃できないような速さで放った。




 しかしリハンは万人の持つただの右手でそれを受け止めた。


「ほら、今君を2人で助けにきたじゃないか?」


 ニコッと微笑んだリハンはとても輝いていた。

 横に立つアンジュは涙を流している。


 そして、ルートはアンジュに小さく言い放つ。


「遅いじゃないの…」


「すみませんでした、お嬢様。」


 ささやかな鳴き声が幻影の森に響き渡る。

 きめ細やかな雫が彼らを元の世界へと誘った。

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