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無意味な覚醒


大きく息を吸い取り、再び肺の空気をゆっくりと抜く。

それをいくらか繰り返したのち、目の前にいる敵を見定める。


奴は私より1mをほど大きい。

私は獣人族の中でも大きいほうだと自負しているが、奴を見るとその自信も奪われてしまう。


それにあの分厚い装甲。

魔力が具現化し、何重にもバケモノの周りを強固なものへ変えているのだ。


私の右手には一本の刀が握られている。

刀身が真っ赤に火照って、血を欲すように音を鳴らしている。


「私がこの剣を使うことになるとは…。」


奴は凄い。私が相見えた中でもトップクラス、いや、頂点に君臨するだろう。

なぜなら使ったことがないからである。


『魔刀・有知(ゆうち)


まだ人類の記憶に新しい【有知】の魔人。

その魔人にとどめを刺したのがアルドゥトス家第一当主であるライル=フィン=アルドゥトス。


隣国と接するウォール街近辺に出現した500年ぶりの魔人。出現する場所はランダムだったが、場所が場所だけに魔人の存在は不味かったのだ。


サントラル宗教王国は当時、アンギラス大帝国と小競り合いを始めだした頃だ。

そしてウォール街は聖サントラル宗教王国とアンギラス大帝国の国境。


即刻サントラル王国はこれに対処する必要があった。元々国境ということで、ある程度の戦力を置いていたのが、幸か不幸か速く対処できた。


のであろう。

有知の魔人は現れた中で一番厄介な魔人と後世に伝えられるほどの存在。たかが、軍隊ごときで倒せるようなものではなかった。


なにせ、敵は知能があるのだ。


ウォール街の駐屯騎士団は見事に殲滅。これでウォール街は陥落すると思われた。

しかしウォール街を守ったのはウォール街貴族の私兵団達だった。


よっぽどのコトがない限りはその駒を動かさない貴族だが、さすがに利益より命の方が大事だと思ったのか、重い腰を動かした。

私兵団をあまり期待していなかったのが、国家の思いだったが、それを軽く上回る成績を残した。


巧みな連携を生かし、ウォール街への侵入を防ぎ、後ろは崖、前は大量の兵士。既に有知の逃げ場はなかった。


しかし、魔人は魔人。圧倒的な火力にモノをいわせ、ニンゲンの数を着々と減らしていった。

そこで立ち上がったスラムの人々。

スラム軍を指揮したその獣人こそ、のちに、貴族の称号をもらう、ライル=フィン=アルドゥトスであった。


鍛治術で有名だったライルの友人である小人族が、アルドゥトス家のために、倒した魔人の魔力を込めて鍛えたのが、『魔刀・有知』である。


「ンハァ〜」


ポツリとダリアネスは淫らな声を漏らす。

瞑っていた目を開けるとその眼球は赤く充血している。

いわゆる魔力ブースト。

魔力を魔人の体に適正する魔力に変換し、一時的に魔眼を発生させ、攻撃力を上げる。


瞬きをする間も無く怪物の前に立ち、その紅太刀は振るわれた。

一瞬下に落ちる使命をおった太刀に魔力の壁が争う音が響く。


何重ものガラス音が耳鳴りを誘い、空気が揺れた。


奴の体を見るとダリアネスが斬りつけた部位、顔から腹までの体からシュウシュウと煙を出している。

そこから黒紫の液体がポタポタとこぼれ出している。


バックステップで再び距離をとる。


大きく後ろに後退するやいなや、向こうも距離をすぐに詰める。

反撃と、近距離で魔力の波を乱射する。

それを有知で魔力を喰い、受け止める。


しかしそれに意識がいきすぎた。


「きゃっ!?」


横腹に一撃入れられる。

奴は魔法だけでなく、体術もできるのか。


仮定していなかった攻撃に虚をつかれた思いになる。普通の拳ではない。

あの並々ならぬ魔力が何重にも貼られているのだ。


いくら魔力吸引のおかげで攻撃力がブーストされているとはいえ、防御力が上がるわけでもない。


女性に比べると大きい巨体が軽々と飛ぶ様は、見るものに恐怖を与える。

この場合見るものはヤハーナしか居ないのだが。


そのヤハーナはただ寝てただけというわけではない。

実はしっかりと仕事をしていたのだ。


『相殺眼』『相殺眼』『相殺眼』『相殺眼』『相殺眼』


予想以上に破片や、魔力がこちらに飛んでくるのだ。もちろん自分の身を守るのは容易だが、自分には守るべき相手がたくさんいるのだ。


あいつがなんとかしているうちに打倒方を考えなければ。





☆☆☆☆☆





「いたぁい……」


いつのまにか強固に魔力を敷き詰めていたバケモノの突発的な攻撃に驚いたが、今度はこっちの番だ。

飛んで突っ込んだ壁から瞬時に這い上がり、両手の銃を放ちまくる。


一方は爆裂を放ち、爆音を掻き立てる。


もう一方は銃声どころか、引き金が弾く音すら聞こえない。


奴は鉄の嵐を真正面から受け止めた。

爆裂が爆裂を呼び、無音が爆裂にかき消される。


鼠の体表のような色のした煙に自身の刀を備えて、飛び込む。



再び、大きな轟音が部屋全体に響き渡った。


その一部始終を爆風によって飛ばされた瓦礫を消しながら、見ていたヤハーナは勝利を確信した。


「さてもうそろそろ行きますか。」


壁から這い上がり、うーんと背伸びする。

ダリアネスはかなり元気な様子で立ち上がったヤハーナに疑惑の目を向ける。


「え、ええ?なんでそんな元気なの?」


「あったりまえです。あなたみたいに脆くはないですからね?」


ダリアネスは少し考えたあと、何かに気づいたようにあーっと声を出した。


獣人の女性がなさけのない声を出した同時だった。


『アアアァイイイイイアアアァァア!!』


かよわい?2人の体に強烈な魔力の風が吹き当たる。

正確には彼女らの膨大な魔力を吸い取ったのだ。


強力な魔力を吸い取ればもちろん強力となる。

しかし意識のある強人から魔力を一方的に奪うことなど容易にできるであろうか?




ルートがニンゲンを手放した瞬間だった。





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