仮面の奥
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「あぁん。予想外よ!」
肢体がバラバラになった黒服達がそこらに放置され、死臭が漂っている。
俺はこの歳で慣れたものだが、アイルさんやニリンさんは自らがこの状況に落としえたはずなのに今更ながら目をそらす。
デルマンゴは余裕そうだ。
事実どこからか湧いて出た仮面にメンチを切っている。
「なあ、ねえちゃん…」
デルマンゴは未だ得体の知れない仮面に声をかけた。
「んん〜〜?? なにかしら?」
「あんた…一体なんなんだ?」
俺たちはその質問に驚いた。
この状況で真意に迫る必要があるのか。
それはこいつを倒した後でもいいのではないのか?
しかしデルマンゴがこの問いかけを仮面にしたことで、皆のかけていた冷静さがある程度戻ってきたように見えた。
そして彼女の答えにまた、息を呑んだ。
「う〜ん…ま、いいわ。教えてあげる。」
人差し指を顎に当ててそう放つと、こちらに向かって2.3歩近づく。
「私は一言で言うと魔人。」
『魔人』
その単語に俺たちは過剰反応した。
魔人とは人の理性を忘れ、魔に堕ち、魔を生き甲斐として、魔を求める生物。
ある地方では悪魔と呼ばれ、ある国では魔を制して人を助ける天使とも呼ばれる異質の存在は、500年に一度のペースで姿を現わすと言われている。
魔人が現れれば村が滅び、都市が滅び、国が滅びた。
それはまさに『厄災』。
人々は恐れ、逃げ惑い、叫び狂った。
一番近い魔人の出現は今から266年前。
それはこの世界に住まう者達の周知。
魔人の出現と、その悲劇を忘れないために、奴らが現れるその年が新しい元号となるのだ。
現に今の年号は『有知266年』。
266年に発生した魔人は意志を持ち、脳を持ったことから『知的魔人』と呼ばれ、当時の猛者達が苦戦に苦戦を重ね、倒したという。
その『厄災』が今、この目の前に存在するのだ。
身震い?
そんな甘いものではない。
こことは異世界におり、魔人の恐怖を感じたことない俺はそこまでビビることはなかったが、やはり小さい頃から叩き込まれたのであろう元囚人達は今にも泣崩れそうなことになっている。
俺は彼らになんとか再起してもらうため、彼女の今の言葉を弁明する。
「お、おいおいおい。なんであの人の言うことを信じるの?だって魔人の出現は266年前だよね?だったら、ある程度の誤差があるとしても230年は発生しないよ?じゃあ、どうしてここにいるんだよ?」
俺の大声に驚いたようだが、しっかりと耳に入れたらしく、
「そ、そうだよな。こいつがデマだって可能性も否定できないしな!」
「そ、そうですわ!ペースが急に変わるわけありませんもの!」
「確かに、みんなの言う通りだよ。」
そう、各々が言うが、その言葉には影があった。
やはり自信を持って違うと言い切れない理由が存在した。
それは『儀式』のことだ。
大きな装飾剣を用いた自虐行為。
それによって具現した黒の煙。
その後に起こる魔力切れのような症状から見るに黒の煙は魔力。ヒトの胎内に宿した魔力だ。
そこまでは相手を弱らせる手段としてわかるものだが、それの後が問題だった。
彼女はその煙を喰ったのだ。
魔人とは魔力を食べ、生きる存在。
空気の中で魔力は無限にあるとされ、魔人はそんな自然魔力までも喰らう。
そのため奴は寿命を知らず、幾度と討伐隊を送り込み、ようやく倒せる怪物。
人を殺して魔力を吸い取るのは嗜好のためだとされている。魔人とは本来何も食わずとも生きていけるのだ。しかし歴代の魔人達は必ず国を襲い、人を食べた。
一説によればヒトの体内魔力を喰わないと生きていけないとも言われていたが、その多くは謎に包まれたままだ。
話が逸れたが、魔人以外には魔力を摂取する生物は見つかっておらず、人間が魔力を吸い取る例なども見られていない。
しかし、目の前にいる女は魔力を喰った。
いや、もしかすると口に入れて消しとばしたのかもしれない。
だが、彼女の喉が微かに動き、通る様を見れば俺たち囚人達は信じるしかない。
そのため俺たちは確信を持って俺の言葉に賛同することができなかったのだ。
かくなる俺も自身の言葉に疑惑が含まれていた。
「あら。全く信じてくれないのね。みんなとは長い時間一緒に居たのに…」
両手を豊満な胸の前で組み、我々を見下すような目線でみる女はこう続けた。
「あたしはね、元人間だったの。」
そう続けた彼女に俺たちはいつの間にか釘付けになっていった。
「あたしはね…ある人に振り向いて欲しくて、見て欲しくて、少しでも気づいて欲しくて、頑張って頑張って勉強したわ。それはもうおかしくなるほどにね」
そう言ってケラケラ笑う目の奥は寂しかった。




