私の…
「あなたは私の息子なのよ?」
「は……?」
おれは目を見開いていた。
少し意味がわからなかった。
理解が遅れる。
言葉が出ない。
なぜこんな奴が?
そんなわけない。
俺の母はアンジュ。
魔に愛された娘、アンジュだ。
孤児院で育てられ、壮烈な過去を送った彼女だ。
それは仮面だ?
そんなわけがない。
俺は母や、父リハンの暖かさを知っている。
本当の子供でなければあれほど愛せるだろうか?
正直怖くなった。
俺も父からの愛が掠れていた。
本当の愛がわからなかった。
でも母の愛は知っていた。
本当の愛を2つも知っているのは欲張りなことだろうか。
だが、考えれば彼女に矛盾点がある。
彼女は俺に乳を与えなかった。乳母もいなかった俺は何かのスープなどを口に含み、栄養を摂取していた。
彼女は与えられないと言っていた。
「まさか…ほんとに?」
俺の言葉を聞くとよほど嬉しかったのか、こちらへ近づき頭の上から足の先まで、その細い指をゆっくり這わせる。
「ええ、そう。そうなのよ。私はリハンさんと愛し合っていたの。でもね、そう。」
あの時を懐かしむかのように話す彼女は一拍開けて、
「あの…あの女……あの、あの醜い女…あの、おんなが!」
「うぐかあっ!」
急激に魔力が濃くなった。
俺の『静風』がいとも簡単に解除された瞬間だった。
頭に強烈な痛みが侵入する。
手足が震え、視界が徐々に狭まる。
(本気でマズイ…!!)
これまで当たったことのない魔力の風が体全体にぶち当たる。
今までの魔力は俺に対する魔力だったのか、今は多分母に対する魔力だろう。
それだけ恨みや怨念が、アンジュに対して存在するのであろう。
「……ね?私とこない?それでね。あの女をぶっ殺すの。素敵よ。母親の真似事をしてきた女が爽快に腸をぶちまけるの…。それで、リハンさんも……リハン、彼には相応の罰を下すわ。私の事を裏切った罰なの。」
魔力が弱まった。
どうやら空気中の魔力を乱すのは彼女の気分らしい。
女は俺に手を差し出した。
「私に利用されるのよ。」
それは完璧な命令だった。
俺に有無を言わせない圧倒的な力量の差。
俺を煽る挑発的な視線。
弱者と強者の運命が曲げられないことを暗示していた。
「へぇ…。んじゃあ、母さん。大人しく捕まってよ。」
俺の言葉が意味不明だったのか彼女は首をかしげる。
「…ん?どういう意味かしら。あなたが私を捕まえる?そんなことできるわけ……」
嘲笑しながら片目を開け俺に視線を落とす仮面女の後ろに近づいていた彼を俺は見逃さなかった。
数秒前から魔力の波長は弱まり、そこをついて『静風』を発動。
技付のパワー、拝見しようか。
「おっらあ!!!」
デルマンゴが女の背中を思いっきり殴り飛ばす。
女からは息が漏れ、確実なヒットを示す。
デルマンゴもてごたえはあったようで薄っすらと顔に笑いが含まれている。
「あ、アハ!いいわ。いいわよ!そうでなくっちゃ。そうでなくてはならないの!私のことを楽しませてよ!」
右手に渦々しい魔力を探知した。
視界でもそれを捉えることができる。
彼女の右手から発せられた黒のオーラは俺が蘇生させようとした老若男女に纏わりついた。
「な、なにしてんだ!」
「使える駒は使っとかないと?」
途端、彼らはフラフラと立ち上がった。
そしてゆっくりとこちらへ近づく。
歩き方は映画で見たゾンビそのもの。
恐怖の前に嫌悪感を感じた。
そしてそれは既に人間であることを辞めていた。
瞬時に我々へと近づき、右腕を振る。
俺はそれをバックステップで避ける。
俺がいたはずの場所には風が起きた。
「坊主、一旦下がってな。ここは俺らがやる。」
いつの間にか仮面はいない。
さっきもそうだったが、黒服に命令を出しているときは彼女自身動けないのか?
もしくは何らかのデメリットが存在するのやもしれない。
既に復活した他のメンツ達は見事な連携で元囚人達を斬り捨てる。
何かの感情はあったかのようにみえたが、その気持ちを押し殺し、共に儀式を超えてきた者達を天国へ導いたようだ。
だが、報われなかった囚人達の気も知らない黒服達はその進行をさらに続けた。
その攻撃はあっけないものだ。
デルマンゴが大きな振りで前衛2人を押しつぶす。
大技の隙を見て黒服が飛びかかるが、マントに覆われた体が瞬時に切り裂かれた。
多分ニリンさんが使える魔法の一つ『霧風』。
薄白い風の矢が、対象に向かって飛ぶという魔法だ。
そんな魔法の連発を恐れたのか、ニリンさんを黒服達が剣で襲う。
しかし彼らはニリンさんの方へと向かわずそれぞれバラバラな方へと歩き出した。
全く何もない場所で短剣を振り、空を切っている。
それはアイルさんの『波風』が発動されたことを示していた。
30をほどの黒服を3分で片付けた彼らの目には殺気がちらついていた。




