かすかな希望
「坊主、もういいぜ。かなり体が動くようになってきた。魔力もたっぷりだ。」
放電をしながらアイルさんの戦いを見ていた俺は圧巻していた。
彼女はとても器用だった。風魔法の特徴を理解し、効率よく魔力を消費。
しかし黒服を削る量は減っていない。
かなりの使い手に当たったようで内心ガッツポーズ。
「あの城ちゃんだけにゴミどもを相手させるのは気がひけるぜ。」
おっさんも右手や左手を回して、再戦の準備を整えている。この2人がいれば仮面までたどり着けるであろう。仮面を潰すため、まず戦力を増やす必要がある。
どんな些細な力でも構わない。
とりあえず数。彼ら2人であの黒服はやはりキツい。
精神面的にも。だから、仲間という立ち位置を増やしてあげるのだ。
「お、おおおお!」
放電のパワーを少し上げるとおっさんが変な声を出した。
「びりっびりくるぜ!」
デルマンゴは右手に技付を纏わせて立ち上がった。
準備満タンのようだ。
「んじゃ、よろしくお願いします!さっきみたいな暴走はやめてくださいね!」
笑いながらそう言うと彼は、
「わかってらあ、坊主。嫁や息子の分まで頑張ってくるぜ。」
そう言って彼は駆け出し、一番手近にいた黒服を木っ端微塵にした。
俺は少し遅れて先ほどまで『温風』を当てていた男の人の元へ行く。
先程とは違って、かなり回復したように思える。
やはりこの世界での魔力は生命を繋ぐ大事な歯車となるものみたいだ。
『温風』を当てながら彼らの戦いを見る。
おっさんに黒服2人が斬りかかる。
1人吹っ飛ばしたが2人目は背後から。
しかしその2人目は流風によって態勢がずれる。
そこをひと殴り。
5人の黒服が目にも留まらぬ速さで迫ってきた。
やはり流風が厄介だと認識したみたいで、アイルさんを狙う。
しかしそこには鉄壁の盾。
手が届く範囲に侵入した者達を容赦なく叩き潰す。
アイルさんがデルマンゴにありがとうと一言付け加え、新たに詠唱を始める。
デルマンゴも、にっと笑って再び黒の群れに突っ込んだ。
「ぐ……う…?」
そうしているうちに俺が温風を当てていた人の意識が戻ったみたいだ。
黒色の髪の毛に赤色の目。
適正属性は風のニリンさんだ。
170前後の背丈で丸っこい顔が特徴的だ。
「目を覚まされましたか!」
「え…ええ?」
まだこの状況をしっかりと把握していないようだ。
半分虚ろな目でこちらを見上げている。
俺は彼の肩を持って今の状況を説明する。
「いいですか!よく聞いてください!あのお二方が戦っているのが見えますか?」
「う、うん……えっ?!なんで?!どうして戦ってるの?!」
かなりパニックになっているが魔力的に余裕が出てきたらしい。リアクションが大きくなった。
「あの人達のことはもちろんしってますよね?」
「う、うん。一緒に捉えられていた人たちだけど。」
「いいですか?黒い服の奴らをぶっ飛ばしてみんなで脱出するんです!だからあなたにも支援をお願いしたい。」
目を瞑り、少し彼は考えると…
「わかったよ。しかし君は?僕たちが守らなくてもいいのかい?それとなんであの人たちと僕と君だけは…その、…正常なんだい?」
俺は大きく笑いながら答えた。
「全部終わってからお話しします!」
その笑顔と勢いに押されたのか、そうかい。と残して2人の元へ走って行った。
俺はこの人たちの事をみんな知っていた。
というか、見慣れていた。
いつもいつも儀式で顔をあわせることになるし、彼らもお互いのことを見知っていたはずだ。
そしてどう考えても黒服達を押しているこの状況。
皆一刻も早く逃げ出したい心情の中、勝てる試合に手を貸さない者などいない。
『波風』
早速彼は呪文を詠唱し、風属性中級魔法を唱える。
『波風』とは指定した一定の範囲に視覚、聴覚、脳機能の波を狂わせることのできる魔法。
基本音は波を成し、耳へと侵入する。
視覚は光の反射が波となり、目に入る。
脳が体全体の機能に命令を送るのもまた波。
それを狂わすことにより、視覚が歪む。
聴覚が働かない。脳波が流れ、命令を下す順番を乱す。
かなりの支援魔法だが、これには弱点が2つある。
まず、密閉した空間では行使ができない。
なぜなら乱す風が無いからだ。
しかし風魔法を用いるとまたそれは別。
今なら流風が常にアイルさんによって流されている状態であるため使えることができる。
そして2つ目。
相手が同じ魔法を持っている時、もしくは『乱風』という魔法を所持している時。
それは何かというとつまり対魔法だ。
先で説明したように、対魔法とは魔法を魔法で打ち消すもの。
『乱風』という魔法を所持していれば空気の流れを乱れさせることができ、行使者が風を操る自由を失ってしまう。よって、身体的波長を乱すことが可能なのだ。『波風』を持っていたとしても原理は同じ。
しかし今、その魔法の対象は黒服。
彼らの戦いを見ていて、魔法を行使した痕跡はなく、使ったところも見ていない。
多分対魔法される事はないだろう。
あと抗体を持つ可能性も低い。
魔法を行使できないのなら抗体も持たないはずだし、今までの魔法にもなんらかの反応があるはずだ。
脳波を乱すということは彼らの戦闘力が格段に落ちることを表す。これで黒服達は戦闘不能だ。
「ちょっと遅いわよ〜?」
あとは仮面女だけだ。
俺はそう確信し、ニリンさんの横にいた女性に再び鑑定をかけた時だった。
「うぐっ……」
「こ…おお……」
「きゃっ……」
「うわわっ!」
急に魔力の誇張が強くなった。
体を襲う不快感に既視感を覚える。
ニリンさんの『波長』自体を完璧に崩され、そのうちに黒服達は前線を下がる。
「く…そ……ここまで、きた…の、に?」
頭痛に顔を歪ませ、女を見る。
そういえば、存在感のなかった彼女に今更ながら悪寒が走った。
それと同時に彼女はデルマンゴ達をスルーし、俺の前に立っていた。
「テルマッド君、興味深いわぁ……」




