抵抗
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「我々神に認められし者達…今尊い命を魔に捧げ、魔に送る。」
ゆるりとした階段を俺の側から離れて上り終えると女は再び黒服達のいるこちらを正面とし叫んだ。
俺はこんなにも体に制限をかけられているのに対し、黒服達はその言葉を待っているかのように一斉に剣を高く高く、頂点へと上げる。
「おおぉぉおおお!!」
女は両手を広げ、その場の喧騒を一瞬で静かに空気とさせる。
黒服達は短い剣を胸の前に構えて、スッと先程までの姿勢に戻った。
美しく揃った黒服達を見て満足したように元仮面女は8人の囚人達が虚ろな顔で並ぶ王の座の前へとゆっくり歩み寄る。
奴は俺から見て右手の方より、1人づつ絶望に浸された彼らの顔を拝む。爛れた頬を撫で回し、人々の周りを品定めするように一周する。
「あぁん…素敵な笑顔ね。」
全く笑っているようには見えない40代ほどの男にそう声をかける。
その男はそこまで背が高いわけでもないが、体格はガッチリとしており、腕や腹の傷から察すれば相当な力を持つ何かと戦い続けてきたのだろう。
いまや、あのような姿になってしまったことが哀れだ。
「これから貴方達はアリナス様にお仕えするの…」
全ての囚人の顔を拝見し、何か一言二言告げた奴は二、三歩ほど後退し、8人の方を向く。
アリナスとは仮面女がつけていたあの仮面のモチーフとなった神のことであろう。
やはり奴はアリナスという神の教徒らしい。
それも誠に熱心な。
「さ、体を自由にしなさい。一瞬で終わらせてあげるから…」
どんな表情かは後ろから見て取れない。
しかし俺の予想はついている。
絶対に笑っている。
奴は右手をブンッと大きく振る。
振り終えると光の小さな玉が弾けとんだ。
手の中には俺がいつも苦痛を味あわされた特殊魔力剣…とは違う剣が握られていた。
全長は見た感じ約80cm。
剣筋が壁にかかっている蝋燭の火に反射し、俺の目を虐める。その美しい太刀をみると随分綺麗に手入れされているのがわかる。
装飾もまた見事で、剣のグリップは金が塗られ、白の装飾が施してある。
柄と刀身とを繋ぐ場所には紅色の宝石が大きくその面積を担っている。
肝心の刃部は刀身から宝石まで全ての邪悪な黒に染まっていた。見るだけで全身が震えだしそうな純黒の葉先から雫がしたたるように金色がその肌を一筋濡らしていた。
俺から魔力を吸い取る時に使った特殊魔力剣とは訳が違う…そんな恐怖心が芽生える。
「ほ〜ら…あたしをよくみて?」
先ほどのゴリゴリおじさんの下を向いていた顎を持ち自身のほうへと向け直す。
「あ…あぁあああ…ぁぁぁあ………」
「んふ…♡」
何もない虚無に、何もあるはずのないゼロの空間に何かを求めるように…助けを欲しているように、無力に口から音と涎が出ている。
陰湿女がドレスの中から唯一絶対神アリナスを模した仮面を取り出す。あの黒剣を右手に、奇妙な仮面を装着した様子はまさに神を思わせるほどの戦慄を俺に施した。
「こっ…ちよ!」
そう言いながら女は俺のいる王の間の中心へとゴリゴリおっさんを蹴飛ばす。
ゴロゴロと階段を転がり、手が自由ならば届く距離までおっさんは投げ飛ばされた。
「う、うゔ……ぅあぁああ…」
再び立ち上がろうとするおっさんに女は上から蹴りを入れる。
「どう、テルマッドくん?あなたもこれからこうなるのよ……ふふふ。」
左手で首を抑えた女はそのままおっさんを宙へ持ち上げる。
女性がとても軽々しく筋肉おじさんを持ち上げるのでついその場だけ重力が働いていないように見えた。
「んがあ……がああ…あ、ああ…」
「私の下僕となりなさい。」
女の身長より少し高いところまで上げられたおっさんは女が首を持つ手に自分の手を重ねて、苦しいと訴える。
もしかするとまだ自我が残っているのかもしれない。
しかしそれを確認する機会もない。
何故なら俺には強大な魔力が随時ぶつかっているからだ。
体を起こそうにも動かない。
首のみを前に向けて状況を把握しているのだ。
赤の他人でも目の前で命を落とす場面は見たくはない。死体は見ることができても命が失われる瞬間など見たくはない。
「こ…うか、い……後悔してしまうから…」
「どうしたのテルマッドくん?早く首絞められて欲しかった?んー…ちょっと待ってね。あの8人終わってからすぐしてあげるから」
人が魔に堕ち、魔人となる時心臓を何らかの方法で貫き、魔人の魔力を体内に促す。魔人の魔力は強力で邪悪。よって心臓の修復も早急に行われる。
今の場合、人一人分の魔力を彼女が与えるわけなので、相当の魔力を必要とする。
それはもう俺に当て続けた魔力の波を抑えないといけないほどに。
女は俺の言葉に一瞬振り向いた後再びおっさんを見て右手を動かした。
奴は右腕を肩の後ろまで引く。
途端、剣が菫色に発光し始める。
「ぐあっ……」
俺はその刃から圧倒的な魔力を感じた。
俺に今まで当てていたのは奴が保持するほんの小さな魔力。
しかし今はためいている魔力の波は俺を直接刺激せずとも、微量の魔力を当てられるかのように体の神経を襲った。
しかし耐えることができる。
人は慣れをする。
いつも使用している歯ブラシから新しい歯ブラシへと変えた時の違和感は数日後には感じない。
ドジっ子幼馴染と何年も一緒にいるとその属性は自分の中でセーフラインには入らないという。
ドジっ子幼馴染はいなかったが。
「おっさん目を覚ませぇぇええ!」
ありったけの声量を乗せておっさんに向かい叫ぶ。
明日には声が出ないだろう。
助かったとしてもヤハーナさんには掠れた声がバカにされるかもしれない。
『放電』
すごく弱い電撃を放つ。
俺の放電は威力を調整できる。
そして俺の周りの範囲にもその電撃を及ぼすことができる。
俺がなぜこの場面で放電を放ったか。
それは微力ながらもおっさんに魔力を流すためだ。
弱い威力ならおっさんが傷つくこともなく、電気化された正の魔力を全身で受け止めることができるのだ。
しかしこれは苦肉の策。
どう転ぶかは神のみぞ知る。
俺はこの抵抗に全ての運をかけた。
「やだびっくりしたわぁ。次テルマッドくん殺すわよ?」
「こ…の……はなしゃが…れ!」
「よし!」
おっさんが目を覚ましたのだ。
筋肉が隆々とした腕で陰湿ババアをひと殴りする。
女は突然のことに驚き、おっさんを手放し、後ろへ下がる。
「坊主がやったのか?」
「う…う、ん…」
サンキューなと一言おっさんが俺に声をかける。
正直成功はしないと思ってた。
この方法、魔力を受けることはできるが電気化した魔力を自分の魔力に適化させて吸収する必要があったのだ。
そしておっさんには電気系統の魔法が使えた。
魔力が枯渇した体は普段では起こり得るはずのない心肺蘇生を俺の電気化魔力で行ったのだ。
人間の体は奥が深すぎるな。
でもこれで一気に形勢が逆転しそうだ。
まずこの危機を脱出するためにおっさんのステータスを鑑定する。
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デルマンゴ Lv.46
ステータス
攻撃力 : 168
防御力 : 132
俊足力 : 40
魔法攻撃力 : 37
職業 : 冒険者
所持スキル : 怪力 魔法使い
所持魔法 : 『電池』 『技付・雷』
【称号】なし
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「おっさん……」
「なんだァ、坊主?」
「いい魔法もってんじゃん…」




