逆転
「さあ、儀式の時間よ!」
いつもの時間、いつものように黒服目覚ましで意識が覚醒し、いつもと同様に朝ごはんを摘まず、いつもみたいに門の前まで連れてこられた。
そしていつものように門の中へ向かった。
だが、いつものように剣が俺の胸に刺さることはなかった。
目の前に並ぶ8人の老若男女達。
そのどれもが目に光を失い、体に炎が灯っていない。
口からは唾液が垂れ、目玉が今にも飛びおちそうなほどに深く揺れている。
彼らの奇妙な姿は俺の目をえぐると同時に、強かった恐怖心にも拍車をかけた。
俺もああなって……いや、その前に彼女だ。
俺が特殊魔力剣を彼女の代わりに請け負って魔力をババアに捧げていたが、ウィンターだって普通の魔力剣を儀式の度に体へ入れ続けていた。
儀式が行われるたびに彼女の目の色はどんどん霞んでいた。
それが示すのは数年間ここに幽閉されて魔力を体の芯から削ぎ取られてきた彼女に残っている魔力量はほとんど僅かということ。
その少ない光が崩れそうな今ウィンターを支えている。
しかしその光明も今や薄れがかり、いつでも闇に明かりを落としてしまう可能性がある。
そんな状況の中始まった儀式は少し不思議で怪しすぎた。
俺のみが集められた門前に、いつもの2倍の黒服達。
剣をかかげる彼らはまるで蟻。
女王に使える従順な軍隊。
そんな彼らを従えて今から何をしようというのか。
外見に恐れを出さないようしっかりと前を見据え、仮面を睨みつける。
しかし女は俺のことを見もしない。
いや、気にもしていないのか。
今日の奴は仮面をつけていない。
長い黒髪を腰まで下ろし、綺麗な輪郭はしっかりと顔面を縁取っている。目は少し吊りあがり、口元は終始ニヤついている。
その口からは歯並びのいい歯が見え隠れし、赤い舌が薄淡い紅色の唇をぺろりと舐める。
すると、
「はあぁぁああん……」
「はっ?!」
奇妙な喘ぎ声を出し、その場で彼女は崩れ去った。
唐突なこと過ぎたので俺は今まで真剣な顔を繕っていたが、つい後ろを取られたように驚き、声を発してしまう。
「う、ぐがご…ぐっん……がぐ…」
びくびくと体を痙攣させて地に手をつき、苦しみに悶える。その姿はとても見ていて気持ちのいいものではなかった。
漆黒の髪の毛の外からでもわかるように、奴の吐息は激しく、マラソンを走った後のように強い呼吸をしている。
「がはぁ…はぁ、はぁはぁ……ぐ…」
急に痙攣が止まる。
同じく吐息で髪が揺れることもなくなった。
しかし、未だに床を見つめて座り込んでいる。
「うわっ…」
そして、何故か俺に何かの力が働いた。
全身に風が当たり、体が震え、肌がヒリヒリ…というかパチパチしてくる。
俺の吐息が早くなり、目の照準が一点に合わない。
「な…んで……」
胸がぐるぐるとし、吐き気が頭を襲う。
汚物が喉の淵まで届き、それを出そうとするが叶わない。元々嘔吐する物なんて俺の体になかったのだ。
何かの力は俺にそんな幻覚までをも感じさせた。
「あっは☆」
ゆっくりとしたスピードで蘇生するように陰湿ババアは立ち上がった。長い髪の毛が顔を隠してはっきりと表情は見られないが…
確実に笑っていた。
「どーしちゃったの、テルマッドくぅん…??」
「か…はぁ……はぁはぁ……」
「しんどそーな顔してだいじょうぶ?」
女は緩い角度の階段を一歩ずつ降りてこちらへ歩みを寄せる。
「ね?」
一つずつ距離が縮まる度に体への異変は大きくなる。
やはり陰湿女がこの強大な魔力を発していた。
今までに感じたことのないほどの魔力。
魔力というより一種のオーラのようなものにも感じる。
奴は俺の肩に触れた。
「あぁぁあああ…」
重くのしかかる重圧。
体の中の魔力が循環を心臓の鼓動と共に最高速度まで加速する。
ついに俺は上半身を床に勢いよく倒す。
全身から汗が噴き出し、寒気が身を侵食していく。
呼吸も加速。目を瞑り、現実から目を背けるが閉じても同じ。奴の笑った顔がループする。
「ああ…あああ…ぁぁぁああ!」
口からの唾液は自身で止めることが叶わず、力を振り絞り、届かない距離にいる黒服へ吐きつける。
「どう?ねぇ?どんな気持ち?どんな気持ちなのかな?」
ケラケラと笑った奴は俺の顎から頬を撫でて首をかしげる。
「……最高の殺気だよ…」
それは奴の失敗だった。
俺が話せるよう発する殺気と魔力を少し緩めたのだ。
そんなチャンスを見逃すわけがない。
掻き回された魔力をすぐに一点へ統一する。
体に電光強化を施すように全身の統制された魔力を電流へと変えた。
『放電』
俺から青白い光が発光する。
この魔法は発動者の周辺に高電圧の電流を流すことができる。
これは電光強化の応用で全身の内面に流していた電流をそのまま外に出したのだ。
外に出す方法はいたってシンプル。
例えば『雷撃』を手から放出するときは体からいらないものを外に出す感じ。
『放電』は全身からムダ毛をすべて外に引っこ抜く感覚。
「おっらぁああああ!!」
バリバリと空気が震え泣き喚く。
すべての魔力を変換し終えると俺に触れていた奴は黒く焦げていた。
そして周りには殺気を放った黒服達が俺の周りを取り囲み、剣をこちらへ構えている。
俺はそれを火の上級魔法で……
「あっらぁ…リハンさんとの子だって聞いてたから警戒していたけれど、予想の範囲を上回ったわ…その威力の魔法なら中級魔法ぐらいかしらね?」
黒こげになったはずなのに…
全身が焦げた奴は動くこともできなかったはずなのに…
なぜ奴はそんなに笑っているんだ?
一気にクライマックスまで書き切りたいと思います。




