喪失
「………………」
何度も何度も蘇るように目を覚ます。
その度天井の汚れを見つめながら夜中まで重い瞼をゆっくりと潰す。
体も動かない。
心臓すら止まって感じる。
あまりに生きてる心地がしなくて、仮面に頼んだこともあった。
殺してくれ…と。
しかし返ってくる返答はいつも同じ。
俺が胸に剣を刺す前に迫ったが、にやりと頬を吊り上げ口を開ける。
「むりよぉ。もう少しでこっちのやることも終わるからその時まで我慢できたら解放してあげる。」
の一点張り。
俺は既に抵抗もしない。
そんな気力は残っていない。
魔力は気力やヤル気、努力とは違う。
魔力は1日寝れば回復するが、毎日毎日鋭い激痛を体に取り込むのはそう容易ではない。
毎日早朝に目を覚ませば体は動かず、置かれた飯も食う気力がない。2度目に目を覚ます時は黒い服の側。
深夜アニメにのめり込んだときは、何度カワイ子ちゃんの膝枕で起きる事を夢見ただろうか。今ではすっかり顔も見えない黒の変質者が目覚まし時計となっている。
そんなことがあり、俺のストレスはコンテナのように体へとのしかかり、メンタルは擦り切れたゴボウのように、か細く頼りないものになった。
歩いて剣を刺し、寝る。
たまにご飯を食べては魔力に余裕持って寝る。
とうに村からの助けは待っていない。
どうにか、どうにか逃げる手段はないか。
どうにかウィンターを助ける方法はないか。
などと考えてはや3週間ほど経った。
いや、本当に3週間かどうかはわからない。
途中から何日経ったのか数えていないからだ。
もしかすると俺はもう3歳になっているかもしれない。
誕生日会とか現世でもう一回したかったな。
田舎にいた時は母さんと妹と3人でやってたっけ。
紫乃のやつ高校に入ってからは自分でバイトして稼いだ金で巷で話題のケーキとか買ってきてくれるんだよ。
最後の誕生日ケーキは俺の嫌いなショートケーキだったけどな。あいつ知ってて俺に買ってきたんだぜ。
でいつも紫乃は一つ多く買ってくるんだ。
「いつ、とーちゃんが帰ってきてるかわからないでしょ?だから毎年買っていくんだよ。とーちゃんの分だけないとか可哀想でしょ。」
あの時はどんな気分だったんだろうか。
父の名前を出されて嫌な気分だった?
紫乃が殴られた事を思い出した?
いや、親父とは一回でもいいから酒を飲みたかったんだっけな。
一緒に飯食って、ビール飲んで、ケーキ食べて、紫乃が成人した時には俺の初任給を持って4人で飯食いに行こうって。
「……くそ、おやじ……」
「おい、おきろ!儀式の時間だ。」
俺の顔はどんなんだったんだろう。真面目な顔だったのか。これからの儀式に嫌気がさして殺気を沸かしていただろうか。もう儀式か、と時流れに嫌悪感を抱いていた表情だったか。
歩いて門前に来た時にはいつもの表情に戻っていたと思う。
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黒服に連れられていつもの場所に着くと俺が一番乗りだった。いつもは他の人たちが先に来ているのだが、今日は違う。いつもの倍以上の黒服達が王の間の外にも関わらず待機していた。
完璧にいつもと何かおかしい。
そう気付いたのは門から王の座に入る寸前だった。
黒服に両腕を背中へ捻られたと思えば、両手を手枷で縛られた。
俺の他に囚人は誰1人いない。
黒服達は俺の周りを囲むように列を成し、短剣を掲げる。胸の前に光の反射した鉄剣がカチャリと音を立てる。
ギギギと初めて儀式を行った際に唸っていた鉄と床の擦れ合う音がゆっくりとスローに鳴り響く。
徐々に差し込む王の間の光はいつもより暗い。
夜の実家よりくらいかもしれない。
整列し、美しく揃った足踏みと更新が宮殿のような王の間に轟をあげて室内を包み鳴らす。
中心まで俺たちは歩き、その後王の座の方へと体を向けられた。
黒服達は瞬時に散会し、側にある席でいつも通り待機する。俺はその場で膝をつかされた。
周りの状況を判断するため、視界を周囲にあてる。
両手に黒服達が列を成し微動だにせずこちらを捉えている。そして何故暗いのかというとシャンデリアに暗幕が巻かれていたからだ。
そのせいで光がシャットアウトされて、外よりも暗かったのだ。
王の座にはまだ誰も座っておらず、誰かがいる気配もない。それから、誰も来ずにもう15分ほど経った。
この姿勢を保つことにも集中がいかず、ついつい足を崩す。
黒服達に姿勢を正されると思ったが、特にそんなことされることもなく静かだった。しんと静まり返って俺が体の位置を変える音だけ反響する。
1時間ほど待っただろうか。
急に黒服達から異様な感じが放たれて、俺はついつい姿勢を正す。目の前に剣は置かれておらず、魔力剣が使われることがないと知って余計にだらりとしていたのだが、急にオーラを放たれたので俺も目に気持ちが入る。
そして王の座の後ろからゆっくりと姿を現したのは俺がいつも儀式で見ている囚人の人達だった。男の人、女の人、まだヤハーナさんと同じぐらい年の女の子、男性、女性。全員で8人が整列していた。
その容姿にすっかり人間は残っておらず、歩き方は乗ったりとした速度で、目に黒目はほとんどなかった。はっきり言って呼びかけても無駄。
そう思ってしまった。
「んふ♡テルマッド君もすぐにこうなるのよ。どう?ドキドキする?緊張してきた?」
最後の1人が整列した時だ。
最後尾から少し遅れて仮面女がやってきた。
あいつは儀式の際、仮面を外さない。
それがまた気持ち悪いのだ。
「んなわけないだろ。俺はお前を絶賛地獄に落としたいわ。」
言葉数ばかりの抗いをする。
そうでもやってなくっちゃ、今すぐあの人達のようになりそうで怖いのだ。
「地獄?というのはよくわからないんだけど今から最悪な結末ってのを教えてあげる。しっかり頭に入れるのよ?いい?」
そう言って彼女は自らの手から俺に何回も何回も突き刺した特殊魔力剣を取り出した。取り出す様はまるで魔法のようで、青い光を発光し、非常に美しかったことが頭に焼き付いている。
「さて、儀式の始まりよ!」
にやりと笑った彼女の顔は俺の心臓を一番恐怖で戦慄させた。




