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憂鬱

「…………」


まだ薄暗い檻の中で俺は目を覚める。

服装は昨晩とそのまま、仰向けに俺は転がされていた。小さな鉄格子から入ってくる青い光が徐々に緋色へと変わっていく。


「……いとおかし。」


風が吹き抜けてこないので、昨日と同じ俺が潰した檻なら既にそこは埋まっているのであろう。

なかなかに仕事がお早いことだ。


牢獄の中じゃなくて絶景の前とかだったら、そんな古典単語だって本音で言えたのかもな。


とりあえず状況を知ろうと状態を起こすために、左手の繋がった右腕をあげる。

がしかし、


「んぐ……っかねぇ…」


小さく溜息が出る。

体がビクともしない。

まるで筋肉の筋が全く通っていない感じ。


首も動かない。視界はずっと同じ、汚い天井の一点。

この筋力がすべてなくなる感じ…ああ、思い出した。


「あの女に全部とられたのか。」


黒い髪の女は儀式の時にいつもいた仮面だった。

結局逃げることも叶わず、あいつに捕まり、装飾剣でぶすりと一撃。


あれは儀式の際に使われたものよりさらに吸い取る魔力が大きかった。


魔力切れで体が動かないなんて初めてのこと。

手を見るとまだあの手錠がついたままだった。

俺の手の平から出た雷撃(サンダー)がどれだけ手枷を攻撃したかを焦げている黒炭が物語っている。


「これからどうすんだよ…」


ヤハーナさんは助けに来ない。

もちろんヤハーナさんが来れないのだから村のみんなが助けに来るはずがない。


大体『月蝶』が見つけられないとかどうなってるんだ。この大陸では無敵の情報網を所持し、国に匹敵するほどの戦力を盾とする彼らが子供1人見つけられないなんて信じられない。

それに俺は団長の息子だ。

こんなことパパが許すはずがない。


それに、このままここにいるわけにもいかない。

俺にはやるべきことがある。親孝行もしたい。

そのためにはここで魔力を吸われきって死ぬわけにはいかない。

それに俺の自分勝手な事情で巻き込んでしまったウィンターをほっとけない。


2歳児にだって申し訳の心ぐらいはあるさ。


俺は再び瞼を閉じた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…き……お…………ろ…おきろ!」


「はっ!」


大きく耳元で囁かれ頬を殴られた俺は殴られた場所を押さえながら痛々しく起き上がる。

まだ体はだるい。視界は安定しているが、王の間へ歩く足取りは重い。


ぞろぞろと王の間へ入る門の前には檻に捕らえられていた人々が集まってきていた。そこにウィンターの姿はない。俺たちが昨日使ったのは門の横にある小さな扉だったが、これを使うのは黒服のみらしい。

儀式はここから始まっているのだ。


皆揃って目に色がない。

今の調子でいけば俺もこの運命になるのは近い。

そんなこと絶対に阻止せねばならない。

ウィンターもかなり前に来たと聞いた。彼女もそうなるのは間近に迫っているだろう。


しかし助けるためのビジョンが見えない。

今から吸われてしまえば絶対に魔力は残らない。もう一度脱走するにも昨晩と違って警備はうろついているだろうし、いろいろと罠も仕掛けてあると予想されるので困難を極める。


「聖なる魔力に万歳!悪しき我々に力の剣を!」


そんなことを考えている間に俺たちは横一列に並ばされる。目の前には見慣れた装飾剣が色とりどりの光を反射して、我々の体を一貫するために今か今かと待っている。


黒服達の万歳コールが鳴り響く中で、攫われた人達は慣れた手つきで次々と剣を我の胸に突き刺していく。

その姿は2回目とはいえ、異形。

なかなか心にくるものがある。


それも俺がこれからすると思うと、また嫌悪感と吐き気に襲われる。


そんな中で周りを見渡すと既に俺1人だけとなっていた。所々に放置された装飾剣を黒服達が素早い動きで片付けていく。


そして彼らから出た黒い煙は仮面陰湿女の元へと集まり、女はそれを吸い込む。

魔力の見た目が悪いせいか、既に気分は悪いが更にエグくなりそうだ。


「あれれ?どうしたのかな、テルマッドくん。」


俺の目の前に置かれているのは昨日の儀式と同じ…ではなく昨晩、脱出失敗の際、仮面女に胸を貫かれた1本と同じだ。エメラルドグリーンの大きい宝石が埋め込まれているのですぐにわかった。


同時に俺はこれから毎日この剣で魔力を吸い取られることも把握。それにこの剣の魔力吸収量は他のものとは比べものにならないことも、身を以て体験している。


しかし、


「…………っくそ…」


俺のメンタルは強い方だが、あんな辛いことを好き好んでできるほど傭兵でもない限り、鍛えられちゃいない。


俺はうつむき、顔を曇らせる。


「……そう。ならわかったわ。連れてきて。」


女が一声かけると、陰湿ババアが座る王の座の後ろから黒服が1人の少女を連れてやってきた。俺とあまり背の変わらない彼女はは随分と怯えて、目が移ろいでいる。


「テルマッド!!」


俺の姿を一目見ると涙を溢れさせて俺の元へ走ろうと一生懸命もがくが、黒服10人に抑えられれば自慢の怪力も意味がない。


「あなたには選択権を与えるわ。」


小人族の少女を左手で引き寄せて、頭を撫で、頬を撫でる女はにやりと微笑み、


「まず一つ目。今持ってきた普通の魔力剣を突き刺す。でも、ウィンターちゃんは横にある特殊魔力剣を自分に突き刺す。」


「…っ?!」


「2つ目。あなたが男の子らしく特殊魔法剣を体内に入れる。そしてウィンターちゃんは魔力剣を胸に突き刺す。」


それはつまり…俺が辛い思いをすれば彼女は普段と同じ量の魔力でいい。

しかし俺が楽すれば彼女は確実に堕ちる。


堕ちるとは他の囚われ人のように感情のないような容態になってしまうこと。俺の推測では魔力を吸われ続けるとああなってしまうと予測している。

それにウィンターはかなりの魔力を吸われているはずだが、あの高レベルのおかげでなんとか今日まで持ちこたえたのだろう。


そんな彼女に特殊魔法剣と呼ばれていた大きい装飾剣を体に当てればどうだ。俺の要領ですら持たないのに、傷つけられたウィンターでは何回と体が持たないうちに堕ちてしまうだろう。


ちなみに俺のような幼体はかなり特殊で魔力の回復量が異常なのだ。基本時間経過で魔力は回復するが食事や睡眠、つまり欲求を満たすことで生体のなった生物は魔力の回復を可能とする。


そのため、生体となったウィンターや、他の大人達は魔力回復が追いつかなく、身体に影響するほどまでの魔力を吸われることになってしまう。

その結果があの人達だ。


ああなってしまえば、元に戻るまで精神的な面や、魔力的な面でかなりの時間を必要とし、浪費してしまうだろう。


俺のせいで彼女がそんな辛い思いをしていいのか?


「……はっはは。もちろん決まってるじゃねーか。」


こんなに冷静になれるなら答えなんて元から決まってる。俺のメンタルはプラチナより硬いからな!


「ダメよ、テルマッド!まだ小さい君にそんな…」


「…くはっぐ……がっ………」


目の前の視界は黒が一瞬で暗躍し、小さな体を支えられなくなるほど筋力が思い通りに動かない。そして次第に脳の思考回路まで焼き尽くされる。


「んあぁ、美味しいわ。やっぱり君の魔力は最高よ。」


「そりゃどうも…」


最後に体が浮遊し、ウィンターの泣き叫ぶ声が聞こえて闇の底へと落とされた。



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