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またお前か。

「は!?」


うっすら意識が回復し、我の意思が揚々と期間を果たす。既に目の筋肉細胞を動かせるようにまで戻っていた。

先程まで起こっていたことが頭に駆け巡ると、俺は反射的に体を起こす。


その体は重く、自由もきき辛い。

すでに体の魔力はカラカラ。

1デシリットルも残ってはない。


絶対的不利な状況で視界の先にいたのは、儀式の際に王の椅子に座っていた仮面だった。

そして今いる場所は王の間。

大小きらびやかなシャンデリアがこちらを照らさず地面へ落下し、その原型をとどめていない。


昨日行われた儀式の時に黒服達が列をなしていた場所も壁が崩れ、外の月明かりが此方を炯々と照らし映している。


周りに黒服達はいない。

俺と仮面、たった2人。


どちらも口を開かない。ただ見つめ合うだけ。

この空気は慣れたものだ。

なんせ田舎の老人方はこれから話すことを忘れて1時間ほど思考しやがる。


場所は外であったはずなのだが、多分俺が気絶している間に黒服共がここへ引っ張ってきたんだろう。


そしてあの女は一体なんなのだ。


黒服を使役し、ウィンターを捕らえることができ、いつの間にか彼女と入れ替わることができる。


「あら、おはよう。テルマッドくん?」


俺がそんなことを考えていると仮面が急に口を開いた。そしてどこか聞いたことのある声の高さで俺に話しかける。


「またお前か。」


ゆっくりと仮面を外し、顔全体が露わとなった彼女は先程の陰湿ババアだった。


「お・ひ・さ ♪」


「さっき会ったばかりだろうが…」


俺は魔法を行使しようと手を動かすが、どうやら手錠がかかっているらしく鉄の擦れる不快な音が響き渡る。


陰気女を見る俺の膝元には定例の儀式時に俺から魔力を損大に吸い取った大剣が横になっている。


その装飾剣は先刻見たときよりもさらに見た目が豪華になっており、何か普通な感じがしない。

俺の勘にすぎないが、嫌な気持ちだ。


「そうだわ、テルマッドくん。君をここへ呼び出したのは私にいいことするためじゃないの。」


「いいことするとか初耳だがな?」


彼女が全く意味のない話を適当に流しながら雷撃(サンダー)を唱えて枷を外そうとするが全く外れる気配がない。


「あん、テルマッドくんったら。その拘束用手枷は取れないわよ?特殊な魔法陣を5重ぐらいに組み込んであるもの。」


自らの右人差し指を顎に当てて目を細めながらネタバレする。


「へぇ、すごいや。おねえさんはそんなハードプレイがお好きなんだね。」


「そうよぉ?男の子はまだ対象外だけどね?」


俺はふふっと苦笑いしてから本題に入る。


「ねぇ、おねえさん何者?魔力吸い取って何しようとしてるの?黒服の人たちはなんなの?」


「一度にいっぱいの質問はしてはダメってママから教わらなかったのかしら?」


「残念だけど、うちのママは一般人とはかけ離れてるから…」.


そういうと黒髪女はにやりと君悪い笑みを浮かべる。


「そうね。アンジュにそんな高度なことを教えることができるとは思わないわ」


彼女からは俺の母の名がでた。

いや、待て。なぜ知ってる?母は教会孤児院で育っているので交友関係などはわからないが、孤児院を出たすぐに『月蝶』に入ったと聞いた。


それにあたかも母のことをよく…よく知っているような言い振りはどう考えても俺をアンジュの息子としてみているようにも感じる。


「難しいこと考えちゃやーよ?いまからイイコト、するんだから。」


そう言って彼女はこちらへゆっくりと歩みを寄せる。

大きなイスから立ち上がり、自身の足で傾斜の緩い階段を下って、俺を見下す位置につく。


「そんなところで見つめらると非常に不愉快だね。」


俺が吐き捨てるように彼女を罵倒する。

すると彼女はうふふと呟き、更に強い眼光で俺を刺した。


いや、刺したのは眼光ではなかった。

悪意でもない、善意でもない、殺意でもない。


左手だけで俺を持ち上げた女はさっきまで俺の前に飾ってあった大剣で俺の心臓部を抉り刺したのだ。


血は流れない。痛みも感じない。

謎の虚無感に煽られながら黒髪の女を見る。

俺は持ち上げられているせいか、見える世界が何十センチも違う。女の顔も目の前にあった。


その顔は笑っていた。


回復しかけていた視界が眩み始め、脳が作用を拒否し始める。

何かを出したい。身体中がむず痒く、嘔吐の一つでもしたいが、出すものも取り入れていない。


胸のあたり…つまり俺の心臓部に大きな剣が刺さっており、そこからはゴボゴボと黒い煙が宙を舞っている。おそらくこれが魔力。

先の儀式で他の人達もこのようなものを胸から出していた。


俺の体からは既に消え去っていたと思っていたが、まだまだ余裕はあったみたいだ。


すぐに煙の出が悪くなり、視界は点滅を起こしていた。瞼を筋肉が支えることも困難となり、目を瞑る。

身体中の力が外へ煙として出て行く。


ゆっくりと剣の抜かれる感触がした。

痛みはない。しかし苦しみはもう既にない。

苦しむものが体に一滴も残っていないからだ。


最後の最後の足掻きで女を見た。

その女は黒い煙を身体中に纏わせ、それを吸っていた。




こっちが落ち着いてくると新連載のお知らせをしたいと思います。

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