脱出路
「どうするのよ…」
今俺たちの前には一つの小さな扉がある。
何の変哲も無いただの引き扉だ。これまで入ってきた扉と変わり無い。
一般人なら。
ある一定の周波数で皮膚にピリピリと何かを感じることがある。人は体から魔力を放出することは無い。あるとすれば、それは魔法を行使した際のみだ。よって人から感じる魔力はない。
なら何から感じる?
この青白く光る壁か?それともウィンターが首から下げているネックレスか?
いや、違う。
何処かで感じたことのある魔力の周波数。
それはアントラキスタス邸襲撃の際、紅黒蒼石が安置されている場所へと繋がるあの扉の前でも同じ痛みが俺の皮膚をつつく。
「この扉…罠が貼ってある。」
「……?!わな?!わなってあの生き物をはめる?」
「うん。正確に言えば結界だけど。」
この手の罠はかかれば即死、もしくは警報がなるシステムだと獣人のお姉さんが言っていた。
ここは迂闊に手を出すべきではない。
「解く方法とかってわかるの?」
彼女がドジっ子でちゃっかり罠に触れるとかしなくてよかった…
「うん、わかるちゃわかるけど、それに適応する人が誰なのか…,」
この前の結界はダリアネスさんが魔力の適応者だったため、結界を苦なく通ることができた。しかし今回は別。ウィンターが適応者なわけないし、あるとすれば黒服…もしくは仮面だ。
「てきおうするひと?」
ウィンターの頭からはてなマークが飛んでいたので丁寧に結界の説明を加える。
「なるほど、なるほど。強行突破ってのはどうなの?」
わくわくした面持ちで俺に提案する彼女。
「いやいや、黒服達の強さがわからない以上無理できないよ。」
あいつらが仮面の命令で俺を襲ったのだとしたらかなり強い。まずあの猿共に化けていたとすればかなりの変身魔法を扱えるし、ヤハーナさんがあいつら相手に苦戦していた。
俺も一対一なら負けることはないと思うがあの人数の猿を見る限り黒服もあの儀式以上にいると思われる。
「じゃあこの魔力に適応するひとを連れてこればいいのね。夜明け前までに。」
「そういうことだね。」
まずここの折に捕まっている人々は予想に入っていない。なら、黒服がちょうど1人の時にウィンターが何処まで戦えるかわからないが引っ捕えるしかない。
早速俺たちは行動する。
俺たちはこれまで全く出会うことのなかった黒服達を探し捕らえるため王の間へと続く廊下へと出る。
その廊下は他の廊下より板が丈夫で何処となく小綺麗になっている。
「ねぇ、なんで足音がならないの?」
彼女が小さな声で尋ねる。
先ほどから小さな音でウィンターは足音がなっている。いくら丈夫な板でも木が軋むのは当たり前だ。
しかし、俺は全くならないのだ。
「うーん、なんでだろ…」
俺はぴょんぴょんとその場で跳ねてみる。
すると…
「ちょっと!跳ねたら流石に音なるでしょ!」
聞こえるか聞こえないかの声で叱られる。
なんと足が板に着くたび雑音が発生したのだ。
「んあ…ごめんごめん。」
そんなことを気にしている場合ではない。そんなことをしてる間に王の間に着いたのだ。
「開けてみる?」
「ここは意を決して行こう。」
俺がゆっくりとドアを開ける。
中いつも通りの一本道絨毯。その先には仮面が座っていた大きな椅子。その絨毯のサイドに敷き詰められた小さなイス達。
「何にもないわね。」
彼女が呆然と言ったとおり何もなかった。あるのはイスと胸に突き刺した剣のみ。
仮面がいる気配はなく黒服なんてもってのほか。
王の間は暗い。
窓もない。
そしてムカムカする。
出口のないもどかしさ。
あの剣を我が胸に立てろと言われそれに従った俺。
なんの戸惑いや躊躇もなく仮面に従う他の収容者達。
「大丈夫?顔色悪いわよ?」
それにしてもウィンターは可愛らしい。多分俺は嫌な顔をしている。一昨日の夜あったばかりの俺にここまで優しい。
待て、泥沼。それも罠か?彼女はあいつら黒服の手下……いや、そんなはずはない。
もし手下ならなぜ剣を自分の胸に突き刺した?
わかった。これは全て父さんが仕組んだ試練か!
そして彼女や黒服達は仕掛け人。みんなで俺を騙していたのか!
「ねえ、お取り込み中申し訳ないんだけどあっちから来たみたいよ?」
俺は何も信じられなくなっていた。自分の思っていた以上の焦りが気分を侵食していたことに気づかなかった。
情緒不安定。
頭がイカれている。
そんな言葉がぴったりだった俺にウィンターは話しかけ、王のイスを指差した。
「おいおい、マジかよ。」
王のイスがゆっくりと横にずれる。
そして俺の気分に一層追い打ちをかけるように彼女達は登場した。
うーん…難しい。




