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儀式

鑑定結果の画面をそっと閉じた俺は彼女を見据える。

俺の少し手をつけた分の朝食を取ろうとしていた彼女は俺の視線に気づく。


「な、なによ!食べないならいいでしょ?」


「いいよ。いいけど……君は何者?」


ウィンターの目がたじろぐ。

あのレベルが普通の子供とは思えないし、まだ俺のレベルを見ていないがあれほどのレベルを持ってすればここを出ることも容易だったはずだ。


昨晩そのことを聞いた時はお茶を濁された。

聞きたいことは多い。


「わ、私は……」


「おい、でろ。」


彼女が何かを言いかけた時だ。いつのまにか檻の扉が開き、先ほどの男が立っていた。


「……わかったわ。今その話は後よ。来て。」


そう言った彼女はおれの手を引き檻の外へ出る。

そうすると他にもいろいろ檻があることがわかった。どれも大きさはおれが入っていたものと変わらず小さく、暗い。


しかし魔力を捧げるとはどういうことなのだろうか。

この世界の人は魔力によって生きていると言っても過言ではない。魔力は血液や臓器と言ったものに対価する。


そんな物を欲すものは一体どんなやつなんだ。


「さ、出ろ。」


そう言って男はある門の前で立ち止まった。大きな門で大人2人が思いっきり押してようやく開くような重さを感じる。


いつのまにか俺たちの周りには他の檻から連れてこられたのであろうか人達が10人ほど集まっていた。そして周りには俺たちの倍以上いると思われる黒服が周りを囲んでいる。


前にいる男が1人でその重い音を鳴らす門を開ける。鉄が床と擦れる音が鳴り響き、中から風が吹いてくる。


門の奥は一言で表せば…王の間。

周りには幾人もの黒服がこちらを凝視し、人間ではなく物としてみているように思える。


床は赤いレッドカーペットが直線に敷かれており、その行く先は一段高い場所に腰を下ろしている黒服だ。しかしそれはここに来て見たことのない容姿をしていた。


黒の装束は周りの奴らとそう変わらない。少し長い程度だ。しかし顔には奇妙なお面をつけている。どこかで俺が見たことのある…そうだ、思い出した!


王のような風格の黒服奴がつけているのはこの国の聖騎士団が崇拝する唯一絶対神アリナス。

それは天地が逆になり、人が人でなくなった時現れるこの世界の神。


これは村の書物に書かれていた物だが、このお面になっている顔が怖すぎて覚えていたのだ。お面は金に縁取られて光のないこの部屋で煌々と輝いている。


「 並べ。」


そう指示され、俺たちは横に2列。綺麗に並ばされて目の前には豪華な剣が置かれる。全てが違う装飾を施され、かなりの値打ちがあると見える。


そして俺たちは膝をつかされて正面を向かされた。

すると目の前に腰を下ろしていたお面がついに口を開ける。


「聖なる魔力に万歳!悪しき我々に力の剣を!」


そうお面野郎が女性の声で叫ぶと周りの黒服共が一斉に復唱してをあげる。


「「万歳!万歳!万歳!」」


すると周りに人々は前に置かれた剣を取り目を瞑る。

そして、


「ぐはっ…」


「がはっ……」


「お、おお、おい!」


彼らは自分の左胸に突き刺したのだ。この状況からのがれたかったからか。

いや、しかし自害する時でも、あのように何のためらいなく剣を己の胸に突き立てれるものか。


真っ赤な血が突き抜けた体から吹き出した……ということにはならず、紫色の煙のようなものが背中から突き出た剣先からづるづると湧き出てきた。


その煙はゆっくりした形で仮面の下へ集う。煙が王の座を一周した時、仮面はそれを一気に吸い込む。

剣を突き刺した者たちはそれを確認し、剣を引き抜く。


「さ、私達も。従わなかったら…死ぬわ」


小さな彼女は躊躇いもなく胸に剣を立てる。あんなものを体内にいれて声を上げないなんて、よっぽど酷いことをされたのであろう。


「できなかったら私が代わりにやってあげるわ。」


剣を抜き、同じ場所に煌びやかな装飾剣を置いたウィンターは未だ戸惑う俺に代役を提案する。しかしそんな役をいくらレベルが高いからといってこんな少女に任すわけにもいかない。


「だ、大丈夫。」


周りを見ると先程まで並んでいた人々は魔力を捧げ終わったのか再び入ってきた門へと黒服たちに連れて行かれている。残っているのは俺たちだけだ。


王の間に残っている黒服と仮面の視線が刺さる。正確には彼らの目は隠れている。しかし、なんらかの力が俺の背中をチクチクさせる。


嫌な気分だ。


「んぐっ…!!」


意を決し、胸に剣を入れ込む。身体中を襲う猛烈な痛みと神経を溶かす破壊的な鋭さを覚悟して挑んだ入刀だが、そんな痛みは一度も伴わなかった。


「あ、割といけ……」


特に痛むわけでもなく、意識を失うわけでもなかったので嬉々とした表情で吐きそうな顔のウィンターを見ようと左に顔を向けたその時だった。


「は、が…は…ぁあ…」


体から何かが抜ける感覚。いや、痛み。臓器、血?そんなものではない。身体中の「何か」が抜かれた。俺は皮だけになったのか、そんなことを思わせるような脱力感、怠惰感。


頭が棒で掻き回されたようにぐらぐらする。目の前がチカチカと点滅する。つい床に手をついてしまう。

すぐに俺は剣を抜き、目の前に投げ捨てる。


どこかで感じたことのある症状。目の点滅する感じ。右も左も分からない脳の反応処理速度低下。

完璧な魔力切れの状態だ。


そのまま俺の上半身は地面に倒れ込んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「だ……ぶ、……じょうぶ?……大丈夫?」


「はっ!……な、なんだウィンターか。」


目を覚ますと再び檻の中だった。またあの黒服に運び込まれたのであろう。鉄の窓から入ってくる光は既に強い光線を放ち、昼を示している。


「な、なんだとはなによ!魔力抜かれてぶっ倒れてたくせに!」


「むむ……じゃあなんでウィンターは倒れないんだよ!」


「慣れたのよ!こんなことに慣れたくはなかったけどね!」


ふん。と言って部屋の隅に三角座りをするウィンター。あれでLv.173を信じることができるだろうか。

しかしこの子と仲違いになってしまうと情報収集が困難となってしまう。


ヤハーナさんが情報収集が大事だって言ってたもん。


「ごめんごめん……でさちょっと聞きたいんだけど」


「別にいいわよ。で、なに?まだ太陽の儀式について聞きたいことがあるの?」


彼女はこちらに寄ってきて正座し、首をかしげる。


「違う違う。…その……なんていうか、君は何者なの?ほんとに。」


その質問に彼女は顔を下げ、顔を暗くする。

しかしこれは聞いておかなければならないことだ。俺は今魔法が使えない。魔力が圧倒的に足りないのだ。夜になれば再び貯蓄されるが、それまである程度睡眠をとらなければならない。


聞けることは早めに聞いておかなければ。脱出に協力してくれるかもしれないし。


「わ、わたしは……小人族(ドワーフ)。」


「…………」


「……や、やっぱり!やっぱりあなたも私をそんな目でみるの!?ねぇ…なぜなの?なぜ皆小人族を否定するの?なんで…みんな人族じゃないとダメなの?ねぇ、教えてよ!ねぇったら!」


俺は黙り込む。この世界での小人族は脳が小さく野蛮な異人。人族が信仰する神はこのような野蛮民を見捨て人族のみを助ける。それが聖サントラル宗教王国が民衆に説く聖書の内容。


「ほほほ、本物だぁぁあ!!!」


「ふぇっ?!」


しかし俺は違った。何てったって異世界。もちろん生で見るのは初めてなわけで、こんなの興奮するに決まってる。背が小さく幼げに見えたわりに謎の高レベルだったのはそういうことか。


小人族は背が小さい。その字の通り、成人でも8〜10歳ほどの身長しか持ち合わせていない。別に俺に幼女趣味はないが、一度は会ってみたかったのだ。本物の小人に。


獣人はもう結構だが。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、離してよ!」


俺は勢いあまって抱きついていた。しかし、我に返ったウィンターに弾き飛ばされコロコロと向こうの壁に体がつく。


さすが小人族。見た目に合わず怪力でその鍛冶能力は耳長族(エルフ)を超えるという。だから職業に鍛冶職人と明記されていたのか。


「ご、ごめん。でも小人族(ドワーフ)に会うなんて初めてで。」


「なんでテルマッドは私のこと嫌わないの?大人なのにこの身長だよ?気持ち悪くないの?」


彼女は目頭に大粒に溜まった雫を薄汚れた服の袖ではらって俺に質問する。


「え、なんで?可愛くない?」


今は顔も薄汚れ、髪の毛にも泥が付いているという始末だが、磨けば必ず可愛くなる。幼女感独特の擁護感が溢れてきそうだ。


幼女趣味はないが。


「かかかか、かかわいい?!私が?!な、ななに言ってるのよ、こんな小さい子に可愛いなんて言われてもそそそんな、嬉しくないわ!」


超絶にどもる彼女に俺は自身の言葉を振り返り、顔を赤らめる。

だってむちゃくちゃ恥ずかしいじゃん?!


「そういう意味じゃなくて!だから…そのえっと、守りたくなるっていうか、ずっと見ていたいっていうか…」


「ずずずずっと?!ななな…まだ大人をからかうには早いわよ!」


俺はこっちに来ていつの間にこんな自信家になってしまったのか。


「ぁ、ありがと…」


しかしウィンターは赤らめた顔を下に向けた後に聞き取ることも困難な小さい声でそう言った。


俺はこの言葉を取り残すことはなかった。


「どういたしまして!」


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