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これからだ。

遅くなりました!

「これを盗めたのはいいですけど、これからどうするんですか?」


近づいたのをいいことに俺のことを撫で始めたダリアネス(ダリアン)さんを引き剥がして、これからのことについて質問する。


「うん。実はこの石の入っていたショーケースに仕掛けがあるらしいんだよ。」


そういって彼女は先刻まで紅黒蒼石の飾ってあった、突き出たショーケースを思いっきりてっぺんから下へ殴り入れる。


「……」


「ふぅ。さ、下に降りてー。」


今行われた奇妙な現象に俺の理解力はついていけず、言われた通り下へジャンプする。地面に着くまではそう遠くなく、2mほど。


「ここは?」


周りを見渡すと綺麗な装飾が隅々まで施された部屋の真ん中だった。どこか気品を感じるベッドに天井のかけらが散らばる絨毯。しかし俺の足元はぐらついている。


見るとシャンデリアを思いっきり踏んでいた。かるくうんびゃく万はするであろう代物だ。やっべぇと思いつつ横へ避けた俺は落ちてきた穴を見る。どうやらシャンデリアが浮かんでいた天井をダリアネスさんがぶっ飛ばしたらしい。


「ここはアントラキスタス邸の使用人部屋だよ。あいつはスラムから巻き上げた金で使用人までにも豪華な暮らしをさせてるんだよ。」


それはいいんじゃないか?と思うが人の主観で物を言って悪い方向に転がるわけにもいかないので黙っていることにする。


「さあ、まずはこの部屋からだね。金品は全部私に渡して。一部屋一部屋全て漁ったあとに暴れちゃうぞ☆」


「……まじすか。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ほい。ここの部屋はこれぐらいですよ。」


「よし、全部の使用人部屋終わったね。次は亭主部屋だよ。」


なんとか終わった。正直もう腰がもちそうにない。タンスや使用人の金庫を開けるために中腰になるから身体中の関節が悲鳴をあげている。


もちろん使用人部屋が全てもぬけの殻だったわけではない。次の使用人部屋に行くまでの廊下でも警備の衛兵によく見つかった。それでもなんとかして全ての部屋から金品を巻き上げた。


なんとかというのは聞かないでほしい。


「んー!亭主部屋はどこにあるんですか?」


俺は体を後ろに曲げ腰の音を鳴らす。すっかり小さい体に慣れてしまった。これから成長痛なんかに悩ませられるのは結構やだなー。なんて思う。


「うん。今アントラキスタスは留守なんだ。今回起こったスラム襲撃事件の対策でウォール街の貴族会議に出席してる。」


「それが?」


俺はそれがなんのことか?と質問する。


「ということは亭主部屋は誰もいないってわけっ…!!」


そういって彼女は腰にかけている銃の一つを取り出し、天井へと向ける。


「い、いや流石にそれはバレますって。」


「だいじょぶだいじょぶー。」


へらへらと笑う声に対してその顔は真剣だ。


『無音銃』


そう唱えると銃の側面に描かれている魔法陣が緑色に発光し回りだす。その状態で彼女は引き金を引いた。


スンッスンッスンッーー静かにダリアネスさんは銃を発射した。空気を弾がかする音だけ聞こえる。音に反して銃の体長は大きく、威力も比例して高い。その分重量もあるはずなのだか、ダリアネスさんはそれを片手で持ち、射撃するので筋力の概念を疑ってしまう。


たった3発で天井が綺麗に崩れる。その瓦礫が地面へ着く前にダリアネスさんがしっかりと受け止める。その瓦礫を床に置き体が跳ねる。


「ん…っしょっと。さ、上がるよー。」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


すごい跳躍力を真似できず『電光強化』を自身に施し、彼女に続く。かなり高い壁を身体強化なしで飛ぶ時点で既に人外だな。


入ると共に強烈な異臭が俺の鼻をえぐる。これまで嗅いだことのない最悪な匂いだ。とても貴族の部屋とは思えない。


なんの部屋だと周りを調べると大きなベッドがあり横に小さな机がある。窓は大きく、外からは何も見えないようにカーテンで閉められている。光の一筋も見えないので特殊な糸を使っているのだろう。


俺は小さな机に鼻をつまみながら机に近くづくと、この異臭の原因がわかった。


「ここはあいつの寝床だよ。毎晩掃除もしないでお盛んなことよね。」


机には瓶が溢れるぐらい並んでおり、その瓶には全て同じ文字で赤色のマークが描かれている。

このようなマークはどの世界でも一緒なんだな。

しかし、2歳児にその話は少々理解しがたいぞ?


「こっちだよー。」


隣の部屋に通ずるドアがあり、それを彼女は開ける。俺は一刻も早くそこから出たかったのでダリアネスさんより早く外に出る。そこは書斎室のようで先程までとは違い、紙の良い匂いだ。

まるで地獄と天国


「さてさて、これだよ。これ。」


そういって彼女は書斎の扉と対に構えている書斎机の引き出しを探り、ある紙の束を見つける。難しい文字が並び、読み取れる文字だけをとって読む。


「いいひと…のはんばいかかくに、ついて…?」


「いいひとじゃなくて、この場合は奴隷って読むんだよ。これはアントラキスタスが売ってきた奴隷のリストなの。」


奴隷?俺は今ある知識を使い、奴隷について辞書をめくる。確かローマ帝国やその辺の時代の時に市民権も与えられなかった、いわば人間の家畜的存在。いや、その存在すらもなかったと言われていた悲しい過去の歴史だ。


その奴隷がこの世界にもいるのか?


「奴隷って…あの雑用ばかりさせられている?」


「おおー。よく知ってるね。そうだよ。貴族のゴミ共は裏路地(スラム)から人を拉致して、その人達を他の国の領主や貴族に売るんだよ。」


「ひどい……」


俺が生きていたあの現代日本では奴隷という制度はなく、国際的に人種差別や病気に対する差別などを禁止している。そんな世界の俺には全く現実味のない話だった。


「ま、これを聖騎士団に渡せばここも1発ってわけ。金品も奪ったことですし、そろそろ暴れちゃいますかぁ〜☆」


彼女はこれまで見せたことのない真剣な顔から随分嬉々とした表情にガラリと変化する。


「ダリアンさんの方が表情忙しいじゃないですか?」


「あははー。」


顔を少し朱に染めて頭についている耳をカリカリとかく。そのまま彼女は出口であるドアの元へ歩く。その両手には腰に乗せられていた魔法銃が2丁握られている。


本当(マジ)にやる気かよ、この人…


「ねぇ、まだ迷ってる?」


俺がついて行くべきか迷い一歩踏み出すことを躊躇していた時、ダリアネスさんは立ち止まり後ろを向きながら、俺にそう投げかけてきた。その質問の答えに俺は迷った。


多分ここで逃げれば俺は彼女に消される。このアントラキスタス邸を、1等地全てを焼き尽くす前に俺を殺すだろう。


だが、ここでいかなければ、俺はいつまでたっても、個の存在を確立し、主張することもできず、結局のところ親孝行や最強の盗賊団ってのも夢や希望以前に単なる想いで終わってしまう。


覚悟を再び決めなければならないときかもしれない。


「いえ。行きましょう。建物の破壊なら任せてください。」


それは俺の決意の表れでもあり、彼女を信頼するという一方的な約束でもあった。


「うん!その意気だよ、『月蝶』!!」


「…バレてたんすか?」


「あたぼうよ。」


そう彼女が笑う。つられて俺も頰が自然とあがり、ふふっと声が漏れる。


「あれ…?まだ取りきれてないものがありますよ?」


俺が背後を振り向き机の後ろにあった金庫を見る。既にそれはダリアネスさんによって金庫という存在意義をなくしており、中身はほぼ空っぽだった。


その下にダリアンさんが運ぶ際に落としたのであろう緑の宝石が目一杯に埋め込まれているネックレスが置いていた。それを拾い上げたその時だった。



≪異世界固定職業の条件を達成。条件を満たしたことにより称号を獲得。称号の取得により固定職業スキルが開放されました。≫



「?!」


「どったの、またまたー?」


「あ、いえ大丈夫です。行きましょう。」


今回ばかりは流石に声を耐えることができた。まただ、またあの機械女の声が流れる。この時点で俺はある法則に気づいた。


今更ながらだが、この声が流れるのは俺が盗みをした時のみだ。毎回流れるわけではないが、俺の予想では多分一定回数盗みを行った際に新たな称号を手に入れることができるのだ。


これはますます鑑定をしたいところだがお楽しみは後にとっておこう。



もし称号による効果が俺に多大なメリットになるならば、ますます盗みがやめられなくなりそうだな!

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