ヤハーナさんはすごく忙しい
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今回はお待ちかねのヤハーナさん視点です。
「さあ、頑張ってくださいね、坊っちゃま!」
「うん!行ってきます!」
ふぅ、お見送りの仕事も終わりましたし、宿に行きますかー。今回坊っちゃまは最終試験に挑まれます。これは本当にすごいことで、私があの子と同じ年齢の時はまだ鼻を垂らしてましたから。
私は本路地を歩き今回泊まる宿「極楽」を目指しています。「極楽」はウォール街の隠れた名湯として現在ヤドランカーの間で有名になりつつある温泉宿のことです。値段も格安で完全予約制!
蛇足ですが、以前宿泊した酒場の宿はご飯が美味しいことでちょっぴり有名なんです。
ああ、ヤドランカーとはですね。ヤドは宿のことです。そしてランカーは走るという意味です。直訳すれば宿を走る人ということになり、本質的な意はいろいろな宿を愛してやまぬ宿愛好家…ってわけです!
実は私もその1人で、かなりの宿をこの歳で回って参りました。『月蝶』の地域ネットワークを使えば他の街宿情報もたくさん入ってきます。
宿の凄さは半端ないです。行き着く先が見えません。宿は人の体を…心までをも癒し、人類に必要不可欠である睡眠食事入浴なんかを一度にこなせる神秘的かつ実用的な場所なのです!
さてさて宿語りはまだ序盤ですが、そろそろ「極楽」が見えてきましたね。ふむ、立地は悪くないですが幾分入り口が本線から1本離れて裏路地へと少し近くなっているため、怖がって入らない人が多いみたいですね。
でも安心!この宿の店主ジャッジさんは元A級冒険者なんです!参考程度にですが、私1人でA級3人分の戦力です。そう言われると私結構強い?ってなっちゃいますけれど、師団長はS級5人分とか。なんとか…
まあまあ、A級ともなればスラムの人達で寄ってたかっても蹴散らされますし、この宿は少しだけ裏路地とパイプで繋がってますから下手に手を出したりはしません。
女の子でも安心ですね!
早速お宿に入ります。店の入り口上看板には綺麗な字で「極楽」と書かれておりその装飾も、後ろの路地の治安が悪いとは思えないほど立派です。
ドアは引き戸ですか。これまた風流を感じますねー。
「いらっしゃいませー。ご予約のお名前をお聞きしても?」
この人が店長のジャッジさん。優しそうな笑顔で疲れ切った旅人を癒してくれます。口調も丁寧で元冒険者とは思えないほどです。体はすごく筋肉ですが、それは気にしないでおきましょう。
「お待ちしておりました。それではヤハーナ様のお部屋へと案内させていただきますね。」
案内されたのは『天楽』という2階にあるお部屋。中に入ると右手にトイレと洗面があります。奥の襖を開けるとすごく広いお部屋が見えました。その面積は第3師団長バッガスさん50人分!
奥手にはバルコニーがありこの店の特徴である湯がありました。外に設置してある浴槽からは温泉の匂いがなんとも私の鼻をくすぐり誘ってきます。
右手には中庭が一望できる窓がありその下に布団が2人分ひかれてあります。枕の素材感からして相当いい布団なこと間違いござらん!
口調がおかしくなってしまうほど風呂に入りたい衝動を全力で抑え貴重品などを金庫にしまっていきます。その金庫には念のため呪いを2重にかけます。1重でいいだろ?念には念をですよ。
今日はわりかし涼しげな気候だったため上着を着用していました。その上着を押し入れに吊るしシャツ一枚で敷かれていた布団へとダイブ!
「うはぁ…きもぢぃ…」
おっと危ない危ない。このまま寝てしまっては坊っちゃまの危険を察知することができません。私は準備体操をしながら布団の上から中庭が見える窓から外を眺めます。ここの中庭はとても美しいのです。綺麗な木々で装飾された草原から吹き抜ける風は眠気を再び呼び起こしてしまいそうでした。
「よし、やるか!」
私はいつも通り『探知網』を使いピンポイントで坊っちゃまの魔力を探します。狭い範囲で地道に魔力を探すため『情報処理』はつかわなくていいのです。
今頃は一等地の門前近くでしょうか。
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「……ヒット!」
この見つけた時の喜びと謎の優越感は今でも探知を止められない理由の一つです。宿には負けますけどね。
お、もうそろそろ1等地突入ですね。
といういいところでした。坊っちゃまが門をくぐると同時に1階で音が鳴りました。凄まじい音でした。私はすぐに探知をキャンセルし、一階へと走ります。
1階に降りると5人の若い衆が剣や弓、杖を持ってジャッジさんと見合ってました。既に他の宿の客も見に来ており、その人々は宿の従業員によって守られていました。若者たちをみるとウォール街の新人さんなのでしょうか?
えらく緊迫した感じですが……
「お、お客様…少し上の方へ上がってもらえると助かるんですが。」
「おい、何でそのねーちゃん達を泊めれて俺らを泊めることはできねーんだ?!あ!?」
「いや、何度も言っていますが、ここは完全予約制でして…」
なるほど。あの若者たちが急にここへ押しかけてきて
泊めてくれず逆ギレ…全くガキンチョですね。年齢的には私とそう大差ないわけですが。
すると彼らはガンガンと剣を打ち合います。完全にジャッジさんの方が有利ですがそれは一対一の話です。相手は5人。魔法を行使する者もいてなかなか接近することもままなりません。しかし流石はA級です。魔法が宿内の壁に当たる前に剣を振り相殺します。他の従業員たちも客の方へ飛んだ矢や魔法を消しとばします。
そんな華麗な連携同士の戦いを見ていた私にジャッジさんから声をかけられます。
「お客様?!まだそこにいらしたんですか?!早く上へっ!」
ジャッジさんは若者たちと剣を交えながら私に上へ上がるよう伝えてくれます。その言葉に甘えてくるりと後ろを向き階段を上がろうとした時でした。
何と階段の数段上に先ほどの若い衆リーダーと思われる剣士が私の方を向いてキメていたのです!私もそろそろ色目を使われる歳だということでしょうか?
なんだか寂しいですね、老いって。
「なあ、ねーちゃん。俺らと一発ヤってかねえ?」
「お客さん!!…ぐっ!」
私はその提案について一瞬理解が遅れました。店長さんにかけられた声も処理をしきれませんでした。その理解が可能となった時には既に彼の唇が私の唇に触れようとしていた時でした。
「どっちのヤるですか?」
「グボッガッはっ…」
私は疑問を口にします。あと、そんな簡単に乙女の唇をやるわけにはいけません。ましてやこんな非常識なガキにです。自分のことを過信しすぎたあまりの出すぎた行動を起こすバカです。
ま、店長とやりあってるあたりかなり強いPTなんだと思いますが、リーダーが私の鳩尾パンチで一撃ってのは戦力的にどうかと思いますね。魔眼も一切使ってないですし、最近の冒険者の質はどうなっているのでしょうか。
「おにいさん、どっちのヤるか聞いてるんですが?」
「うぐっ…ず、ずず、ずみまぜんで…じた…」
私は彼の額を思いっきり、かかとでえぐりつつ同じ質問を繰り返します。やはり少年たちには立派な大人になって欲しいですからここでの更生が大切です。盗賊の私が言うセリフではないですが。
「「り、リーダー!」」
「いまだ!!」
私がリーダーをボコボコにしている残酷な場面を見た彼らは案の定リーダーの無惨な姿に呆気を取られていました。その一瞬の隙をジャッジさんは見逃しません。手に持っていた短剣を彼らの首筋に当てて4人の若者をノックアウト。
流石ですね!
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「ありがとうございました、お客様。お手を煩わせてしまって誠に痛恨の極み。食事と入浴のレベルをサービスさせていただきます!」
「おー、ありがとうございます。」
私は赤色の服を着たリーダーのガキを気絶させて元来た階段を再び上がります。後ろではウォール街の警備兵も出動して一騒動となっていました。
ふぅ〜。今日もこの街は平和です。
可愛すぎますね。
この子を書いている時が唯一の安らぎでしょうか?
後編へと続きます。




