天使降臨
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「さて私の番だな。」
なんて強さだよ…俺の最高威力を当てても傷ひとつねえ。それどころか俺の槍を右手で掴んでやがる。多分壁を貫きながら速度が失せたのは、このおっさんが掴んだからか。
俺の体内魔力は持ちそうにない。その証拠に世界がチカチカと点滅を始め、一歩を踏み出す足が震える。恐怖からか。それとも疲労からか。それすらも考えられないほど思考能力が低下していた。
「く…そが…」
「おや。残念だな。楽しかったぞ、ボク。」
男は俺の周りをボコッと隆起した土で囲む。俺は俯きになり、今にも手放しそうな意識をフル稼働させて、成長した土を見た。その岩石は細くそして鋭く変形し、8体の龍が俺を中心に舞った。
「ふっ、ではな。」
「「おい、ちょっとまてよ!!」
おっさんが俺に8体の龍をぶつけようと手を振り上げた時だった。他のスラム路地から見に来ていた人々が、俺たちを止めた。
「おい、殺すぞ?」
息することすら危うかった俺でも感じる殺気
「ひっ?!……そ、その子は子供だぜ?いくらなんでも殺す必要はないんじゃないのか!?」
「そうだぜ、旦那。おい、そのガキを運んでやれ!」
彼らの勇敢な行動に俺は胸を撃たれた。
ゴリゴリの筋肉に運ばれて6番街路地の入り口へと戻る。その間俺は目を閉じた。多分もう安全だ。いくら殺し屋でもこの人数に見られては手出しできない。
「殺すと言ったはずだ。」
その瞬間哀れな悲鳴と共に俺の頬に何かが付着した。俺は地へ投げ出されて筋肉の壁に守られることは、もうなくなった。もう開かないと思った目が開いた。
「…あ、ああ…」
「さて次はボクだ。」
目の前には既に見慣れてしまった赤一色だった。俺のために抗議してくれたおっちゃんも今やどれが体がわからないほどに醜く残酷な肉片へと姿を変えている。
その男は路地を形成していた側面の壁を土魔法で解体する。既に住まわせる使命を終えた家の中身があらわとなり、家の主な材料となっているレンガが四方八方に飛び散る。
『土龍槌』
『土石嵐』
彼は地属性の中級魔法を用いて土のハンマーを作り出した。打ち出の小槌を一回り大きくしたほどの大きさだ。それを片手であしらう。その後、家々のレンガや路地の道を作っていた石で頭上に20mほどの長さの竜巻を作り出した。
「ボクをあの中でじっくりと殺してやる。ここの人達の死を弔いながらあの世へ行け。」
「はは。……クソが…死んじ…まえ……」
彼の目を見ることは叶わなかったが、その見えない眼球には怒りを乗せ殺気を纏わせていた。そんな彼を俺はもう見ることができなかった。完璧な魔力切れだ。そのトンカチで殴られれば上の竜巻へと突っ込む前に意識は既に消え失せているだろう。
「威勢のいい少年だな。短い人生は楽しかったか?」
俺は答えなかった。前世を入れれば短い人生ではなかったし、この状況になって、とても楽しいとは言い切れなかった。だがその楽のしさの倍の数、新たな人と関わることができた。新しいパパやマミー。リンダさんや各師団長、ロザリーに学校の先生達。いろんな出会いがあった。
ならもういいんじゃないか?
せっかくの異世界転生だったから日本で得たものなんかをガンガン作って大儲け!なんてことも考えてたわけで、やりきれない気持ちも無しにしもあらずだが、人生に一度することのできた魔法行使。美人の頬へキッス。
今考えれば楽しかったな!!
「はぁ、はぁはぁ…はぁ…ごろ…せぇ」
「でわな。」
彼が鉄槌を横に振り被るのを空気の流れで感じた。ハンマーはゆっくりと時間をかけて、おっさんの肩上まで登る。その槌は空気を壊し、全身の骨を破壊する速さで落下に身を任せながら振り上げた。
ガンッッッ!!
え?
俺の意識はまだ正常だった。視界は暗転していたが耳や鼻、肌で周りのことが少し理解できる。
俺は生きてる?
この状況下でも俺は冷静だった。
左手を伸ばすとそこには冷たいハンマーが速度をなくしていた。俺のからだに触れる寸前だった。
武器を辿るとそこには小さく細く頼もしい足があった。そこから感じる心臓の脈拍はどこか暖かかった。
「坊ちゃま……はぁ。もういいです。少し寝ていてはどうですか?」
「あ、はは…ありがと…ヤハーナさ…」
「いえいえ。おやすみなさい」
微かに呆れた音色と優しさが混合した声が俺の心を優しく撫でた。この少女に俺は絶対的な信頼をおいていた。その安心感からか、意識を手放すことはそう難しくなかった。
俺の小説って結構厨二ですよね(笑)




