足音の敵
ブックマークがまた一件!ありがとうございます!
今回は短めです。
俺の心には何もなかった。
喪失感ってのも感じられなかった。
あると言えば俺の心臓が泣き叫ぶ音だった。
何も感じないし、何も視界に入らなかった。
ただ、ただ涙を嘔吐した。
目の前は真っ暗だった。俺が目を瞑っていたからかもしれない。耳を塞いでいたからかもしれない。リンダさんの手の平で視界を隠されていたからかもしれない。その状態がいつまでも続けば楽だったのに。ずっとそうしていることができれば、どれだけスッキリできただろうか。
気づけば俺は宙を舞っていた。目を瞑っていたから、正確には宙を飛んでいるように感じた。
しかしそれは感覚ではなく現実だった。
あまりの浮遊感と痛みに俺は目を開ける。周りを見渡せば視界が涙で歪んでいるが、ウォール街に立する家々の屋根が一望できた。しかし、この小さな体は重力に逆らえず真下へと落下の岐路を辿る。
「がっ…!!」
できるだけ頭を守ろうと左肩で地面を受け止める。電光強化は既に施してある。それでも2歳児の体にはすごく響く。響かない方がおかしい。
左肩を庇いながらすぐに身体を起こし、周りに目を凝らす。あの異世界特典ってのも気になるし、ばあちゃんの遺体がある場所でこんな事はしたくないが、今は一刻を争う。
俺は姿形の見えない誰かに襲われている
宙を飛んでいた時に微かに痛んだ右腹が今はじんじんと強く痛む。思いっきり鉄パイプで殴りあげられたような痛さだ。って言ってもわかんないか。
この時立てた仮説は2つ。
1つ目は子供が泣いている現場を見て、どこかしらのヤンキーが俺から物品を盗もうとした。
2つ目は、ばあちゃんを殺した張本人。犯人はは再び事件現場に戻ってくるとはこのこと。俺はこっちの線が怪しいと思っている。普通のヤンキーが俺をあんなに吹き飛ばせるわけないし、俺の視界から隠れることなんてできるはずがない。
なら丁度いい。
自分から探す手間を省けたよ。
「殺ってやる…」
ゴシッとまぶたの淵に浮いた雫を左の手で払いのけ、もう一度目を凝らす。どうやらウチの影女先生と似たようなことができるみたいだけど、パクリは良くないよ。ミマーフル先生に怒られちゃうよ。
目を閉じ、全神経を耳へと集中させる。どんな音でも拾おうとする。風の音。スラムの路地の人間の声。ゴミが道を転がる音。こちらに歩いてくる1つの雑音。
「炎よ、鳥となり姿を晒せ『不死鳥の伯爵』」
俺の背後に路地いっぱいの広さを持った深紅の怪鳥が姿を現した。その姿はいつかの魔法少女が使役していた赤鳥。それは使役者の俺ですら熱さを感じ、チリチリと肌が焼ける。
「 ゆけ 」
ピイイイイィィィィと綺麗な鳴き声を携え、風をも巻き込んだ蝶はその足音の音源へとぶつかる。鈍い音が響き、地面が爆裂、この状態だと肉片すらも残らない…はずだ。
「…ほう?子供のくせに丈夫なのだな?」
「っっ!?」
爆音と共に砂煙が立ち込めた6番目の路地には俺以外の生存者はいない…そのはずだった。あの足音の主を溶かしたつもりだった。
でも、奴は生きていた。コツンコツンとブーツで歩いた時に鳴る耳障りな足音が薄暗い道に響き、茶色の煙の中から薄っすらと、その姿を現した。
その男は煙の色のようなコートに全身を隠し、頭には黒のハットを深く被って、口以外顔のパーツが見えにくくなっている。なんといっても、身長が非常に高い。俺を高い高いすると4mまで届きそうだ。あんな奴にされたかないけど。
「ボクを殺したくはないが、見られっちまったのは、いくら子供でもまずいからな。消させてもらう。」
その男が言い終わるとボロボロだった地面が男の周りに隆起し、土が大きな矢のようになる。その矢が10本ほど周りに現れ、男が右手をあげると全ての矢が俺を的にした。
あ、やべえ。
「あの少年を突き抜け『土竜の矢切」




