目覚め
暗い暗い暗い暗い
どんどん落ちて暗黒が眼前を支配している。
目は開かない。瞼の外から入ってくる光もないところを見ると目を開けたところで外界も真っ暗だろう。
ずっとずっとおちる。ゆっくり、ゆっくり落ちる。
それはもう生クリームをパンケーキにデコレーションするぐらいだ。
いや待て、この遅さは異常だな。
高いところから落ちたことない俺でもこんなに遅いわけないよな。と頭の片隅で考える。
もしかしてあれか?死ぬ前にスローモーションになるあれか?
すると頭から全身を冷たさが侵食する。
ここで再び落下している感覚が戻ってきた。
つめてぇ。多分これ川に入ったんだな。ったくなんでガキなんぞ助けたんだよ俺は…
大体ネトゲではまだ暗黒竜装備一式揃えることができてねえし、オカンを楽にしてあげることもできてねえ。さすがに死ぬのにこの年は早いよ…
ん……ちょっ…えっ、よく考えたら俺今呼吸してねぇじゃん!
つか、息吸えねぇ!
うぐっ、しぬしぬしぬしぬ!!
考えると死んでるんだから当たり前だと思うが、すごく苦しいんだよ。このままできなければ何か本当に遠くまで行ってしまいそう…な気分。
恐怖に対する涙が溢れてきて、今すぐに泣き叫びたい。
瞬間、閉じていた瞳の奥から光が溢れて体全体を生ぬるい空気が包み込んだ。
その涙は、苦しみから解放されたことへの喜びか、またもう一度空気を吸えることの感謝なのか。それとも目を開けると眼前にはゴリゴリのおじさんたちが俺のことを覗き込んでいて、そいつらが俺より数倍もデカいガタイをしていたからかもしれない。
すぐに俺はバカみたいな大声で泣き叫んだ。
巨人達は俺が泣いているところを見て、わけわからん言葉でやたら嬉しがっている。
こ、この!見せもんじゃないよ!
一通り泣き叫ぶと呼吸が落ち着いてきたので深く深呼吸する。
むむ、お次は最悪なタイミングでの眠気だ
この眠さはネトゲでチャットを4時半までしてから5時に起きた時の辛さだ。
まあ君たちにはわかるわけあるまい。
こんな巨人達に体を任せるわけにはいかんが、なんだか歓迎されてるみたいなので、食われる心配はないと判断した俺は薄汚いシーツに己の体を寝かす。
その時に目に入ったのは赤ん坊のように小さな小さな俺の手だった。
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「おい!テル坊が目を覚ましたぜ!!」
「おお、奇跡かよ!」
「すぐに族長を呼んでこい!」
「「おお!」」
まさか目を覚ますとは思わなかったぜ。
ああ、申し遅れたな。俺の名はバッガス。
この盗賊団『月蝶』を支える第3師団の師団長をやっている。
そんでこのちっこいガキは『月蝶』の族長、リハンさんと第2師団長アンジュとの間にできたテルマッド坊やだ。
うちの娘の歳が近いから仲良くやってほしいもんだ。
こいつはさっきまで心臓が動いていなかったんだが、どういうわけか急に泣き始めやがったんだ。
神からの贈り物だなこりゃ。
テルマッド坊やは生まれつき綺麗な黒髪でプニプニした白い肌を持ってやがる。将来は族長に似てイケメンになるだろうな。
俺のゴツゴツ肌と交換してほしいぐらいだぜ。
そんなこんなで俺たちが騒いでいるうちにテル坊はぽっくりと寝ちまった。
寝ちまった後リハンさんが扉をブチ破って部屋に入ってきた。
「テルマッドが目を覚ましたって本当?!バッガス嘘だったらぶっ殺すよ?!」
「へいへい。冗談でもやりかねんことは言わんといてくだせえ?」
「はぁぁぁ!俺の可愛いテル坊ー!
かわええのやあ!天使様に感謝じゃあ!」
寝ているテル坊に頬を擦らせゴシゴシしてる族長。
俺も娘が生まれた時はあんな感じだったのか。
やだな。
そしてそこに乱入する母親のアンジュ。
「ちょっとリハンよきなさい!!」
「あぁ、アンジュ!まだ僕の番だよ!」
「はぁああぁぁ!この子が私の中から生まれたのね!
天使やぁぁああ!」
こんな親バカの間に生まれてしまったテル坊にかける言葉もないぜ…




