アイアムファーマー
段落をつけるために小説置換を行いました。
内容に変わりは特にありません。
「ゆーたー、おきなさーい」
俺の朝は午前5時から始まる。
普通の学生なら、豚の飼育でもしてるのかと思うかもしれない。
それも、実家が農家で就職もしていないアラサーならそう思うも仕方ない。
現代、就職は非常に難しく、就職氷河期なんぞと呼ばれる時代に僕のような田舎者のコミュ障が職にありつけるというのか、いや不可能である。
周りの同級生達がドンドン上京していく中、僕は生まれ故郷にいることを選んだ。
親はうるさかったが、今は呆れられている。
ま、こんなダメ人間でもやりたいことや、やらなければならないことは少なからずある。
まず、やらなければならないこと…それは畑を耕すことだ。なんならこれをしてないと今すぐこの家から追い出されるだろう。
農家は厳しい。厳しすぎる。
ただでさえ日本産の野菜や果物は他に比べてお高いのに外国産の安いモノが入ってきちゃうと、たちまち世の主婦達は日本産にそっぽ向いてしまう。
正直それは仕方ない。だって安いものを買って生計を立てるってのが主婦たちの仕事なのだから。
そこはどうこう言わないがやはり日本産はいいぞ、と意気込んでみんなに伝えたい。
そんで次がやりたいこと、だ
別に農家で大成したいとか総理大臣になりたいとか俳優になってスター街道を行きたいとか、大層な夢じゃない。
僕はただ単にネトゲがしたい。
田舎でインターネットなんてできるの?
できるよ。
まだまだネトゲに足を突っ込んだばかりの俺がハマり込んだ理由は、近所の渓くんに誘われてやってみたRPGが中々面白いもんだったからだ。
毎日毎晩やっていると、いつのまにか《トップ組》と呼ばれる分類に入ってしまったのだ、
それ自体に悔いは無い。
だって、それでも農耕はきちんとこなしている。
うちは母と2人暮らしで妹がいるけど、都会の方に高校生ながら1人で下宿しており、そっちでバイトして飯を食ってるらしい。
尊敬すべき自慢の妹である。
ネトゲを教えてくれた、渓くんは僕と同じく故郷に残った親友だ。現在は交番勤務。
季節は秋。
チンゲンサイやブロッコリー、エリンギにレンコン、さすが食の秋!
マツタケとかも取れるので稼ぎどきってわけだ。
うちの家は山を三つ所有しているので全て回っているほどの労力はない。
だから、限られた狭い土地で我が百姓家ではキャベツと人参を集中的に育てている。
どうして?
いい質問。
実はうちの野菜はブランド品にもなっていて、そこそこの値段を張ってくれる。
ブランドがつくことによって有名なシェフが使ってくれたり、テレビで取材されたりとなかなかの収入になる。
というわけでインターネットもネットショッピングなんかも、ほとんど不自由ない生活を田舎でも送れている
だから、別に今から都会に出てわーぎゃーしたいとも思わないし、若い子をたぶらかしてイチャコラしたいとも思うことがない。
いや別に僕は童貞を貫きたいとか、そういうことではない。
断じて女性経験を諦めたわけではないんだ、向上心のない童貞ほど虚しいものはない。
だから、余った金を全てネトゲに突っ込んで悠々自適に死んでいく。
僕の人生設計はそういう手筈だったはずなのだ。
☆☆☆☆
なのになぜこうなった。
前の横断歩道には道いっぱいに広がる人間。
携帯の画面に真剣な眼差しを送るセーラー服の学生。
とてつもない量の自動車。周りのチカチカした照明…….いや看板?
おお、これが都会ってやつか。恐ろしい。
このままメイド喫茶に行ったり、アニメ専門店なんかに行ってブヒブヒするべきなんだろうが、今回ばかりはそうといかぬ。
なんと妹君にお呼び出しされたのだ。
これは可愛い妹の為だ。
いかなきゃ兄としてのメンツが立たない。
というのは全く嘘で親からの派遣である。強制力がある彼らにしたら、僕はとてもよく動いてくれる足であろう。
全くやめてほしい。僕は便利やなんかではないし、妹が大好きお兄ちゃんってわけでもない。
「やっべ、どこだよここ…」
母に渡された神の地図を頼って歩き続けて1万里。
完全に迷ったいい歳の大人。
下を見るとには大きな川があり川辺で人々が仲良く肉なんぞ焼いてる。泳いでる輩も少なからず伺える。
今日が祝日だからか。リア充め。
田舎の川の方がもっと綺麗だからこちらへ是非。
僕が今いる橋は川よりも数メートル高くなっていて下にいる人が豆のように小さく見える。
周りを見渡すが特に変わったものはなく普通のレジャー施設のような場所だった。
しかし今、いつのまにか自殺スポットになってたらしい。
そこらかしこに自殺防止を狙った看板が設置されて、フェンスも最初の位置から上へと補強されたように見える。
とりあえず今の若い子はすぐに「死ぬ」「死ね」である。
命をなんだと思っているのか。
彼らは小さいのにネトゲのやりすぎである。僕なんて初めてネットに触れたのは二十歳の頃だ。都会に生まれたことを誇れば良いと思う。
ふと、橋の中心に人が集まっていることが伺える。
何してんだ?
「く、くるな!!!!」
人をかき分けて進む。
なんとそこには、少し補強されて高くなった橋の中央部分の手すりに立ち、叫んでいる少年がいた。
靴をしっかり揃えて、手にら何かをぎっしり持ちながら目に涙を含んでいる。
後ろには少年を止めようとしているのだろう。
幾人かのガキが少年に大声をかけている。
へぇ、これが都会かぁ……じゃねーよ。
大人は何してんだ、周りを見ると皆どうすればわからないという表情を浮かべている。携帯を傾けて動画を撮る者までいた。
僕は驚愕した。
少年の体が前へ倒れる。
涙は慣性に従って後ろへと流れていく。誰も助けない。止めようとする子供達はまるで他人事。
僕は考える前に体が動き、少年の前に必死で飛ぶ。
お腹に手をまわすが少年は既に前に倒れてかけている。これは支えきれない。
僕が代わりに前に落ちて少年を後ろに吹っ飛ばせば!
「え?」
少年の声が聞こえた気がした。
こうして赤丸ユウタは未来ある少年を救い我が命を川に投げ捨てた。




