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罪とは

「まだ、まだ人をあやめてはいけません。」


「や、ヤハーナさん…」


ヤハーナさんは俺の魔法で創った剣を素手で掴んでいる。俺の行使できる中で1番威力の高い魔法を血一滴も流さずに手で抑え、静かな瞳をこちらへ向けているのだ。


俺はようやく冷静になって考える。もしこのままヤハーナさんが止めに入らずボスを斬り刻んでいたら?もしくは、ボスが俺を超えるほど強くて魔法を軽々と相殺したら?


もし斬り刻みでもしたら先程逃げたであろう取り巻きが俺のことを噂として流す。俺は指名手配されて、挙句にはガキの俺を狙った賞金稼ぎが自分を尾行して村の居場所がバレてしまい、皆に迷惑をかけてしまうかもしれない。


ボスが強くて反撃されたら、俺はとっくにこの世にはいない。結局ヤハーナさんが居なければ俺はどちらに転んでも最悪の結末しか待っていなかった。


「坊っちゃま、この人達はこの村の暗部と呼ばれる組織です。坊っちゃまもお話に聞いていたかもしれませんが、この人達は我々『月蝶』と協力的体制にあります。よって、暗部のボスを殺すことをすれば不利益な方向へと偏ってしまいます。

ですから今回は謝りましょう。」


「ま、まさか『月蝶』の方達でしたか?!」


「大変迷惑をおかけしました。ほら、坊っちゃま」


これで本当にいいのか?俺たちは暗部に頭を下げるのか?あのボスだって『月蝶』という言葉を聞いて汗が流れてるぞ。そこまでして俺たちが弱みを見せる意味があるのか?


それに記憶を消せるとかいう少年はどうなる?今回のことでまた散々な目に遭わされるだろう。ならば俺が助けるしかない。


こっちきてから、優しすぎるか、俺。


「坊っちゃま!?」


「おいよく聞け、クズ。」


「ひひひぃぃぃ」


2歳児がこんなセリフ吐いても特に怖みがないので、父から唯一教わった、殺気という力を全開に出す。

出し方の方法は自分の大事な人が目の前で殺され、その殺した奴を目の前にして、憎む。

俺は前世の母を使わせてもらった。多分パパは自分をその対象にして欲しかったろうけど、パパは魔法を一個も教えてくれないんだ。ケチなんだよ。けち。


「お前は盗賊団『月蝶』喧嘩を売ったんだ。わかるよな?」


ボスは顔を縦にブンブン振って肯定の意を示す。まだ少年は倒れたままだ。これならいけるか?


「今回の件はあの少年をこちらに渡せばなかったことにしてやる。」


『激雷の(エクスカリバー)』を展開して剣筋の周りに『焦熱の精霊龍(サラマンダー)』を纏わせる。俗に混合魔法と呼ばれる上位技術魔法だ。その雷と熱を纏った剣をボスの鼻の前に置き、脅す。


「い、いやでもあの子は…!!」


もう一押しかな?


「わかった……っ?! ヤハーナさん!」


思いっきり剣を振りかぶり首を飛ばすモーションをする。もちろん寸止めする気であったのだが、ヤハーナさんが空気中の魔力を撹乱させ俺の魔法を雲散霧消とさせる。そして俺の前に出てボスの目を手で触れる。もちろん眼球をそのままだ。


「う、ひっ?!……んがぁぁぁあイデェェァア」


「こちらに渡しなさい?そうでなければあなたの眼、奪い取りますけど?」


「わ、わ、わ、かりましたから!」


「よろしい。行きますよ坊っちゃま。私があの少年を担ぎますので。」


「あ、は、はい!」


呆気にとられてしまった。あの気迫はもともと持っていたものだが、眼球に触れた途端、何かの力が働いた。なんだ…?まさかアンジュと同じ能力ってことか?


「今回のことは秘密ですよ?次したら許しませんからね。」


「う、うん!」


天使か!






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





俺とヤハーナさんは家の屋根を飛びながら宿へと向かっていた。もちろん俺の服のボロボロを隠すためでもあるがあの少年をあまり一般人に露出させないようにためである。


「ふぅ〜全く坊っちゃまはアホですね」


「いきなり罵倒!?」


「いい意味で、です。」


今の言葉にいい意味が含まれていたのか?…いや、それは無理があるんじゃろ。だってアホだよ?アホに罵倒以外が含まれているか?いや無い。


それよりも、


「その子どうするの?」


「うーん。一旦村で保護しましょう。この子を何故坊っちゃまが連れて帰ろうとしたのか、理由を教えてもらってからですがね。」


「は、はひ」



予約していた宿は旅館というより、田舎での豪華なホテルと言ったほうがしっくりきた。俺とヤハーナさんは一緒の部屋だったみたいで同じ部屋へ案内される。

もちろん入る時は窓から。


「さて、お話を聞かせていただきましょうか。」


そして俺はヤハーナさんに全てを話した。迷ったこと。向こうから襲撃されたこと。そのクラウドと呼ばれていた少年は記憶を消す能力があること。

ヤハーナさんはしっかり最後まで俺の話を聞いてくれた。


「坊っちゃまは2歳なのに言葉が達者なのですね?」


「さっきも言われたよー。」


なんて会話も入れつつ本命(クラウド)が目を覚ました。体に多くの傷があり顔も殴られた痣がたくさん伺える。痣は先程のボスによる攻撃のものだろう。

体の傷はそれ以前に受けたものだな。


「こ、ここは?ボスは?!何故あなた達が?!」


「じっとしていなさい。『全治療(ヒーリング)開放』」


聖属性上級魔法をさらっと使うとか何もんですかマジで。開放って言ってたから絶対母と同じ能力だな。

良い機会だし説明しとくか。



母、アンジュの能力は魔眼だ。たまに魔眼を持ち生まれてくる子がいるのだが、そういう子はだいたい嫌悪され、差別され、ある教会に預けられる。そんな子供たちを攫って生きる道を与えているのが、この盗賊団だ。人攫いは悪い事なんだけどさ。いやもうこの感覚に慣れてきたのよ。


ちなみにアンジュを攫ったのは俺の父、リハンだそうだ。いや、聞いただけの話なんだけどね。


話を戻すが、一般常識として魔眼の保有は1つのみ。稀に2つ所持する子もいるが主に1つしか展開不可能。

しかしアンジュの場合、魔眼の総数は6つ。

もうこれだけで笑っちゃう。

が、同時展開が3つまで可能。もう…なに?それ俺が持つはずだった能力(チート)だよね?


「クラウド君でいいんだよね?とりあえず僕の村に来ないか?」


「え、えっでも…ボスが…」


「ボスの許可は頂いてるよ。」


「う、うん。なら、わかりました。お力になれるならば。本当にありがとう。」




そう言って彼は涙を流した。何に対しての涙なのかはわからなかったが、少なくとも哀しみではなかった。

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