第2話~苦しくなると敬語が出ませんか~
カレー肉じゃがって実在するんですね。
私が考えていた物とは少し違いますが。
「どう?」
アユは不安を一割ほど含ませた期待の眼差しで、ダイニングテーブルの反対側に座っている俺に言った。
正直、自分が味覚障害を患ったんじゃないかと思うほど、妹が作った『カレー肉じゃが』は美味しかった。
上手く説明出来ないが、言うなれば、肉じゃがとカレーの両方の良さが出てる感じだ。
素材の味を最大限まで活かした、和風テイストの料理かと思いきや、カレーが織り成す独特の世界に引きずり込まれるのだ。それなのに味が崩れていない。そして美味しい。
従来のカレー肉じゃがとは全く違う。それは、カレー風味ではなくしっかりカレーなのだ。
ドロドロ感とコクをしっかり感じることができる。それなのに肉じゃが。
『二つの性質を持った料理』言葉で表現するならそういったとこだ。
つまりは、美味しかった。そういうことだ。
「何点?」
まだを返して無いのに、また質問がきた。
いや、そっちの質問の方が簡単だ。
「85点ぐらい」
俺は目をつぶり、舌で吟味しながらそういった。
するとアユはその結果を聞くや否や、次の質問をしてきた。
「その心は?」
世の
中で、これほど批評しがたい料理があるだろうか。味はほぼ完璧で、しかしどこか気持ち悪い......違うな、気味が悪いんだ。そんな味。そしてこの見た目。それはまるでカレーだった。それなのに肉じゃがの味がする。そのギャップが、さらに気味悪さを掻き立てる。しかし結論として『美味しい』にたどり着く。異常な料理。
なんといえばいいんだ。全くわからない。
美味しいのは確かだ。でもそれだけじゃない。気味が悪いのだ。
「美味しいけど気味悪いよ」
いやだめだ。こう言ったらきっとアユは「意味わかんない、もっと解りやすく言って」と言うに違いない。
もっと解りやすくか。
「美味しいよ。カレーと肉じゃがの美味しさが同時に味わえる嗜好の料理だと思うよ。でもなにかずれているんだ。ー15点はそのずれだね。でも本当に美味しいよ。ごちそうさま」
これもだめだ。こんなこと言ったら、まずおれを一瞥して自分のコンソメスープに向かってため息を出して鋭く俺を睨んだ果てに「長い。あとうざい」と言われてしまうだろう。
もっとスマートになおかつ解りやすく......無理だろ。なにか、こうピッタリな言葉があった気がするな。表現しづらいって言うときに使う言葉。そうだ、思い出した。
「晦渋だ」
「海獣?牛肉だけど。肉じゃがだから」
かなりオーソドックスな天然ボケをかましてきた妹に少し驚きながらも、俺は妹の教養のために意味を教える。お
「海獣じゃなくて、晦渋な。難しすぎて何て言うべきか解らない。そんな感じだよ」
「つまり?」
なんとか自分で理解しようとしたのか、一時硬直した妹は結局理解できずにさらに質問を投げかけてきた。
つまり?つまりもなにも、晦渋意外でに合う言葉が見つからない。ちょっと原点回帰してみよう。あの一口目、思考がフル回転した一口目に、晦渋ほどでは無いがもう一つピッタリな言葉があった。
「晦渋だけど、二つの性質を持った味です。とても美味しかったです」
なんか、当てはまる言葉を並べてみたけど上手くいかなかった。まるで箇条書きみたいだな。
「ホントに?美味しかった?やった!」
意外と反応が良くてよかった。美味しいっていうフレーズを最後につけたのが効いたみたいだ。
肝心のその心を聞いていないのに、アユは満足げな笑みでコンソメスープをすすっている。結局のところ妹は美味しいの一言を聞きたかったのかもな。
まあ多感的なこの時期だ。褒めて伸ばすものが一番だよな。
ニコニコと箸を進める妹を見て俺はそんなこと思っていた。
次回も読んでくださる方は、カレー肉じゃがと晦渋、この二つの言葉を頭の片隅に置いといてくださいね。




