第1 1/2話 ~きっと彼は諦めない~
傷つきたくない。嫌われたくない。でも誰かに取られてたくない。
恋って忙しいですね。
サブタイトル、仮分数から帯分数にしたのはいいけど、話の文字を入れ忘れていました。
なんであんなこと言っちゃったんだろ。
私は風呂場の洗面台の前で制服を脱ぎながら、今日の自分をうらんでいた。
まさか中山君が私に告白してくるなんて。
中山君とは小学校の時から同じ学校だったけど、仲良くなったのは中学校に上がってからだ。
仲良くなったといっても、小学校の頃にケンカしてたとか、仲が悪かったとか、そういうわけでわない。むしろその頃は全く干渉が無かったくらいだ。
中学校になってから、私と中山君の距離は次第に縮まっていった。
最初は委員会だった。お互いに図書委員に立候補したのだ。
図書委員会は『普通委員会』という、主に学校内での活動を中心とした委員会のため、クラスで男女一名ずつ委員を募る事になっていた。
内申のために委員を立候補する人は、生徒会と繋がりが強い学級委員や風紀委員に立候補する。頭の中まで筋肉でスポーツ推薦を目指してる人は、体育委員を立候補する。何か人のためになりたいと願ってる人や、すでに自分の能力の限界に気づいて、淡く幼い夢をみていることの愚かさを悟ってしまった人は、クラス定員数が1つの『特別委員会』であるボランティア委員会や福祉委員会などに立候補する。将来の方針はなにもなく、親が言うから自分の出せる力の範囲内でもっとも良い高校に入ろうとしてるただの中学生は、「なにかやっといたほうが、高校入試で有利だぞ」という口車にのせられ、比較的楽そうで放課後や休み時間が潰れないその他の委員会を選ぶ。
そして図書委員に立候補するような文学少年少女はオク手な人間がほとんどだ。おかげで私と中山君は、その人の技能より、カリスマ性で左右される不毛な選挙演説をせずに委員を任された。
そんなことを考えていたら無意識ののうちに靴下まで脱いでいた。
ふと、洗面台の鏡を見やる。
私だ、鏡の中に町田ユイがいる。中肉中背で黒く肩に少しかかるくらいの髪。それにしても変な髪型だ。
小学校のころ、私はとても影が薄かった。その対処方がこの髪型だ。
鼻の頭まで伸びている前髪をから目が出るようにヘアピンで留める。その際に中央の前髪、眉間に前髪がかかるように残しておく。本当に変な髪型だなっと自分でも関心する。おかげで中学になってらヘアピンの量がかなり増えた。日によってヘアピンは換わるが、中でも気に入っているのがへ音記号とト音記号のヘアピンだ。音楽はそれほど興味はないがこの記号は好きだ。くるくるがとても可愛い。
「なんで、前髪伸ばしてるの?」中山君にそんなことを聞かれたことがある。5月ぐらいだと思う。
委員会が同じだからといって、必ずしも親睦を深めるというものではない。でも昼休みの30分間と放課後1時間、毎週どちらか一回、会話もなく息苦しい時間に嫌気がさしたんだもろう。
私は答えに戸惑った。
変な奴、でもいい人、だが変な奴。噂の世界で彼はそういわれていた。
意味わかんない。私は噂の彼をそんなふうに思っていた。今思えば馬鹿な話なんだけど、当時幼かった私は、イメージの人間とその実物が直結しているものだと思っていた。つまりその頃彼に対しての私の認識は『意味わかんない奴』だった。
そんな人が急に話かけてきて、それもいきなり髪型の話題だ、びっくりだ。その時の心境をもっと忠実にいうなら、『!』だ
なんでそんな話題をふるんだ、図書室なんだからもっと違う話題があるだろってちょっと思ったけど、答えない理由も無かったし、私もこのまま沈黙の毎日は嫌だったから、戸惑いの果てにしっかり答えた。
「髪切るの、面倒だから」
いなしたようにも聞こえるかもしれないが、心の底からくる素直な気持ちだった。
口に出したあとで「なに言ってるの私。こんなこといったら、まるでダメな女の子みたいじゃん......まあいっかこんなこと人に話すような人じゃないだろうし、ただ中山くんの好感度が下がっただけでしょ、子細に及ばないよね、きっと」と頭の中で自問自答をしていたが、そんなことを考えていた事を吹き飛ばすような言葉が中山くんから飛んできた。
「そうなんだ、すごいね」
なにがだ、なにがすごいんだ。全く予想外の言葉に、私は驚いた。でもその声は透き通っていた。
例えるなら、純銀の鐘を叩いたような声だった。あんなことを異性が言ったら普通......それも私は女子だ......少なからず怪訝に思うものだ。それなのに彼の声は、蔑みや嘲笑という不純物は一切含まれておらず、淡い驚きをのせた声だった。
本当になにがすごかったんだろう。
ヘアピンを外し風呂場の扉を開ける。
風呂場は白い湯気が充ちていて、わずかに口の中にも温かい湿気を感じる。
私はシャワーをで体を流しはじめる。
ああ、流れる排水とともに、私のこのいらだちのような、歯痒さのような、よくわからないもやもやが流されれば良いのに。
彼も彼だ。なんで今までその事を温存していたんだ。もっと早くに言ってくれれば良い答えもできたろうに。
私も彼のことが好きだった。時もあった。
中山君の一言で次第に打ち解け始めたてから1ヶ月ほど経った6月頃。私はこの頃、数理部発足を企んでいた。
「ちょっと厳しいな」
担任の重松先生に相談したところ、太い腕を胸元で組んで、唸るようにそういった。
「どうしてですか?」
この学校は異常なほど部活数が多い。『自由で生徒の意見を尊重』という校風と、部活動の入部が義務としてあるこの学校は、その二つが相乗してものすごく部活が創りやすくなっていた。それなのになにが厳しいのか、見当もつかなかった。
「部活の数が多くなりすぎてな、部活を行うスペースが足りないんだ」
なんだそりゃ。思わずぼやきそうになった。
「どうにかならないですか」
そうきくと重松先生は「すまない」と1つ詫びを入れ「ほかの部活がで場所を分けてくれる人がいればな」と呟いた。
仕方ない、とりあえず手当たり次第頼んでみて、それでもダメなら諦めて適当な部活に入ろう。息を漏らしながら席につくと、「どうしたの」と声がした。きびすを返すと、中山君が立っていた。
中山君は科学部だったけな。場所分けてもらえないか相談してみよう。
「いいよ、3人に教室一つは大きいし」
即答だった。この時、頭の中で革命の狼煙が上がった。恋の種が心に植えられた。最初は『いみわからない奴』だった彼のイメージが、『物静かで、頭が良くて気が利く優しい人』に変わっていた
そこからはあっさりだった。放課後はいつも一緒にいた。会話を重ねるたび彼に惹かれていき、1年生の12月月頃には恋の花は胸のおくから全部を包み込むうに咲いていた。
しかしその花は、種を残すことなく枯れてしまった。
3年生の夏休み前の事だ。
中山君率いる科学部は、全国中学校・高等学校科学的実験・論文コンテストにて、高校生に交ざって見事銀賞を収めたのだ。
本来ならきっと、もっと好きになるところなんだろうが、私は違った。
私には悪い癖がある。人を数値化してしまうのだ。
そして、私の中で彼と私は釣り合わなくなったのだ。勝手に自分の中で自分基準の数値で他人を打ち出し、差別する。最悪の人間なのだ、私は。
一度好きになったら嫌いになるのは難しいというが、私には容易なことだった。明確な数値があったから。
すべての物事は『=』で繋いだ時に美しくなる。彼と私はそれでは繋がらない。美しくないなら繋がない。
そう思えば、すぐに嫌いになれた......嘘だ、嫌いにはなれなかった。でも恋の花を枯らすことはできた。彼はもっと素敵な女性に恋に落ちて、愛を育む。『素敵な女性=中山君』という式が成り立つような、素晴らしい女性と彼は恋人になるのだ。
だから振った。どうしてなんて聞かれた時、「科学なんて古臭いから」なんていちゃった。きっと私のこと嫌いになった。
バカだな。告白されてからずっと中山君の事しか考えてないじゃん。やっぱ好きなんじゃん。
......ホントにバカだ。あんなこといった後でに気づいたって後の祭りなのに。
でももしかしたら、たぶん、きっと、彼は諦めない。
諦めは悪い方って自称してたもん。
その時はちゃんと答えよう。私も好きですって。
やっぱ自分で言おうかな?




