過去
「先輩、ホントにありがとうございます。わざわざ大学まで案内していただいて」
わたしと葵は水嶋先輩の大学に来た。
瑛花も一年前まで普通に来ていたらしい。
「ここ、瑛花って子の所属していた研究室」
「ここが..?」
ホコリまみれの部屋だった。
資料も床にバラバラと落ちている状態。
カーテンは閉じてあり、机には飲みかけのお茶が入ったペットボトルがある。
葵はマスクをしている。
昔から、ホコリを吸うとアレルギー性鼻炎になるから。
「ここって、1年前まではホントに活動してた教室なんですか?」
葵の質問にも気安く答えてくれる水嶋先輩。
「あぁ。廃部みたいになったから、この教室は新しい部室に生まれ変わる」
そう、この教室は新しく生まれ変わろうとしてる。
瑛花がいたという存在をすべてなくすように。
「あと、瑛花の調べた資料とか、探してくる」
「あ、お願いします」
わたしは葵と大学のロビーのようなところで、水嶋先輩を待った。
マスクを取り外し、葵は自分のバックから鏡を取り出した。
鏡で自分の顔や髪を見ながら、言った。
「瑛花のこと、少しずつ分かってきたね」
「うん」
わたしはボーっとしていた。
もしも好きな人がいきなり、この世界からいなくなったら。
消えたら。
瑛花もきっとそんな思いを抱えていたのだろう。
「増下理人」
葵は壁に貼ってある紙を見て、驚いている。
「どうしたの?」
「増下理人..亡くなってる」
「..え?」
わたしも、貼り紙の近くに行った。
すると、1年前に亡くなっている記事がある。
2ヶ月に1回、増下理人と親しいこの大学に通っている友達が作っているミニ新聞。
死去した日付と写真が新聞のあちこちに貼ってある。
「瑛花と噂になった人..1年前に亡くなったって言ってたよね..」
「この人が...?」
すると水嶋先輩が紙袋を持って、こちらに向かってきた。
「その新聞の人だよ。瑛花と噂になった人」
「....」
「増下理人、生きていると現在19歳」
わたしたちと同じ年。
写真を見れば、それなりにモテていたようにも見える。
将来の夢は医者だったらしい。
大切な人..同じ年の人...。
わたしは思わず言ってしまった。
「水嶋先輩..」
「この人..瑛花と親しいんじゃないんです..恋人同士なんです」
葵も水嶋先輩も分かってくれない。
わたしだけが、少しだけ真実に近づいた。
「瑛花って高校のころ、すごく地味で静かだったんです」
水嶋先輩はすごく驚いた。
わたしも驚いた。
大学では、黙っていることのないくらい明るい子だと言っていたから。
大学の文化祭で、みんなの前でダンスを披露したり。
人気だったらしい。
「少しでも情報が分かったら、連絡するよ」
葵がいないところで、水嶋先輩がそう言った。
「わたし、男の人のメールアドレスを入れるの、嫌いなんです」
「...?」
後になって、面倒くさくなるのがわたしは嫌いだ。
正直、水嶋先輩がこう言ってくれたのは、わたしも嬉しい。
でも、この嬉しさにいちいち嬉しがっているのは、自分らしくない。
トイレから、葵が戻ってきた。
「あ、水嶋先輩!」
「?」
「お互い、瑛花のこと..連絡取り合いません?」
「あ、あぁ」
わたしの隣で、葵と水嶋先輩がメールアドレスの交換をしている。
増下理人のこと、祈にも伝えなきゃ。
すぐさま携帯をわたしはいじる。
そこで気づいた。
祈だけは、男子なのに..メアド交換をしている。
それは..なぜ?




