陽光
今日の授業は討伐に出ていない生徒同士での勝ち抜き戦だった。
レオンは、他の生徒と対戦しているユリウスを見る。
昔から器用なやつだった。同じ魔術を使っても、ユリウスの方がずっと正確だったし、魔力の扱いも上手かった。
けれど最近は、その精度が妙なところまで上がっている。今だって、剣を振るいながら相手の手元を的確に狙い、ほんのわずかな隙も見逃さない。
ユリウスが剣を振り抜いたその瞬間、放たれた光魔術が訓練場を照らした。
金色の髪が光を受けて、きらきらと輝いて見える。
――まぶしい。
真剣なまなざしが随分大人びて見えた。
「――勝者、ユリウス・アルヴェイン!」
教師の声に、はっと我に返る。
ユリウスの剣が相手の喉元でぴたりと止まっているのが見えて、一瞬遅れて、訓練場に歓声が上がった。
「よっしゃ!」
ユリウスが嬉しそうに拳を上げる姿を見て、レオンはふっと笑った。
さっきまで、どこか知らない人のように見えたのに、勝った途端に子供みたいな顔をする。
「次、レオン・グランツ!」
名前を呼ばれて、レオンは前に出た。
対戦相手は、もちろんユリウスだ。数えきれないほどの勝負をしてきたが、今日だって負けることはできない。
「やるぞ!レオン!」
「一瞬でやってやるよ」
「は!俺のセリフだ!」
ユリウスは楽しそうに笑いながら剣を構えた。
その顔を見た瞬間、レオンも自然と笑みがこぼれる。
「勝ったら今日の昼飯のプリン、もらうからな!」
「はあ!?ふざけんな!」
「あれ〜自信ないのかな?レオンくんは」
「絶対負かす!」
貴族とは思えない煽りあい。
見ていた生徒たちから笑い声が上がり、教師が呆れたようにため息をついた。
**
「ああ、俺のプリンが……」
「ふん、自業自得だ」
レオンは見せびらかすように、ユリウスのプリンを食べた。
ユリウスは「あぁ〜」と情けない声を出して、机に突っ伏す。
さっきまで、剣も魔術も大人顔負けの勢いで争っていた男はどこへ行ったのか。
「あとちょっとだったのに……」
「それはどうかな」
「レオンが馬鹿力過ぎるのが悪い……」
「褒め言葉として受け取っておく」
落ち込んでても減らず口は変わらないらしい。
レオンは呆れつつも、昔から変わらないユリウスの負けず嫌いに、自然と口角が上がる。
「飯食ったらもう一戦!」
「いや、次の授業始まるだろ」
「もう一戦!!」
「分かったって!でも、授業終わってからな!」
レオンが承諾すると、ユリウスは満足そうに笑った。
その顔が自分に向いているだけで、レオンも満たされてしまう。
最後の授業の終了の鐘がなった途端、二人は訓練場へと飛び出した。
**
剣がぶつかる。
重い一撃を受け止めたユリウスが、わずかに顔をしかめた。
「っ、力強えんだよ!」
「鍛えてるからな!」
ユリウスがレオンの剣を押し返して、距離をとる。
次の瞬間、光が弾けた。
――目くらましか。
そう判断したレオンは、とっさに剣を顔の前へ掲げた。刀身が光を遮り、視界に影を落とす。
ユリウスの姿は、しっかり捉えていた。
「そうなんどもお前の小細工にひっかかるかよ!」
「それはどうかな!」
ユリウスがにやりと笑う。
その瞬間には閃光は消えていて、刀身に淡い光が宿る。
ユリウスが正面から剣を振り上げた。剣先から漏れる光魔術が、金色の髪を照らす。
楽しそうに細められたその目を、レオンは見つめた。
――あ。
そう思ったときには、もう遅かった。
咄嗟に防ごうと剣を前に出すも、光魔術をまとったユリウスの一撃が、それを大きく弾いた。
空いた喉元に剣を突きつけられる。
「一本! 勝者、ユリウス・アルヴェイン!」
二人しかいない訓練場に、ユリウスの勝ち誇った声が響いた。
「っしゃあ!」
レオンは呆然と、目の前で拳を上げて喜ぶユリウスを見た。
ユリウスが剣を振り上げるところも、こちらへ踏み込んでくるところも見えていたのに。
――顔を見てどうする。
勝負中に意識を逸らした自分を戒めるように拳を握る。
「お前の力にも対抗できちゃったな~」
勝負に負けて悔しがっているだけだと思ったのか、ユリウスは下から覗き込んでくる。
青い瞳がきらきらと輝いて見えて、思わず目を逸らした。
「拗ねたのか?」
「そんな訳ないだろ!」
これ以上見ていたら、何を考えているか知られそうだと思った。
悔しくなって、自分より低い位置にある肩に腕をおいてひじ掛けにする。
「あ、お前!」
笑顔から一変、ムキになった顔。
「悔しかったら追い抜いてみろ」
そう言って、レオンは笑った。
いつものようにからかえば、いつものように言い返してくる。それが、何となくほっとした。
「まあでも、次勝負できるのは一週間後だなあ」
その一言に、レオンは眉を寄せる。
「なんで?」
「え、だって俺、明日から遠征だし」
「は?聞いてないけど?」
「言ってなかったっけ?」
目を瞬かせるユリウス。本当にただ、言い忘れていただけらしい。
それでも、自分の知らないところで話が決まり、知らないまま出発されていたかもしれないということが、レオンは面白くなかった。
「なんだよ、悪かったって」
「別に怒ってない」
「怒ってるじゃん」
「……お前だけ呼ばれたのが気に食わないだけ」
「まあ、それは俺の実力が認められたってことで」
勝ち誇ったような顔に腹が立って、ユリウスの頭を叩く。
「っいて!」
「余計なことばっかり言うな」
「まあ冗談は置いといて、俺が頼んだんだ。今回は魔術師メインの編成らしいから、一度見てみたくって」
ユリウスは、今回の遠征でどんな魔術師に会えるのか、どんな戦い方が見られるのかと、楽しそうに話している。
「……お前、ずいぶん楽しそうだな」
「そりゃ楽しみだろ!」
「……ふうん」
「なんだよ、寂しいのか?」
「はあ!?」
思わず大きい声が出た。
ユリウスはまたぱちぱちと目を瞬かせ、そしてだんだんとからかうように口角が上がっていく。
「そうかそうか、寂しかったんだなあ」
「違う!」
「いやあ、悪かったな。レオンくんがそんなに俺のこと好きだったとは」
「誰が好きだって!?」
「え、俺のこと嫌いなの?」
「……は?」
ユリウスがわざとらしく眉を下げた。
「七年も一緒にいたのに……ひどい……」
「お前なあ!」
「はははっ!」
ユリウスは冗談のつもりでも、好きだという言葉を本人の口から聞くだけで心臓が跳ねた。
勝負には負けるし、知らない間に遠征を決めているし、レオンの気持ちを知らないくせに遊ばれているような気もしてくる。
何一つ勝てていないようで、レオンはユリウスを睨む。
「……別に、嫌いとは言ってねえだろ」
「ん?」
「何でもない!」
「えー、何? 聞こえなかった」
「うるせえ!」
少しだけ漏らした本音も、冗談に紛れてしまう。
ユリウスは、いつものように友達をからかっているだけ。それが腹立たしくて声を荒らげても、楽しそうに笑うばかりだった。
**
次の日、早朝から出発するユリウスを、遠くの訓練場から見送った。
「早く帰ってこい馬鹿」
もちろん、それに返事はなかった。
レオンは訓練用の剣を握り直す。
朝の訓練場に、剣が風を切る音が響いた。




