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決意


レオンは、昔からユリウスが無茶をするやつだと知っていた。


負けず嫌いで、意地っ張りで。

勝負となればどんなことにも本気になるくせに、自分以外の誰かが困っていればあっさり勝負を放り出す。


レオンが訓練中に足を捻ったときもそうだった。

あと一本取ればユリウスの勝ちだったのに、こいつは剣を放り出して駆け寄ってきた。


『勝負は?』

『また今度でいい』


そう言ってレオンに肩を貸す。


光魔術がうまく発動しなかったときもそうだ。

レオンの特訓に何時間も付き合い、お互い魔力切れで医務室へ担ぎ込まれた。


でも、それはレオン相手にだけじゃない。


勉強に行き詰まった同級生のために寝る間も削って参考書を作った。

薬草が足りないと困っていた教師のために三日間採集を手伝った。

重そうな荷物を運んでいる老人のために、街の端から端へ荷車を引いたこともある。


そんなユリウスの側で一緒になって動いていると、自分まで誰かのために動ける人間になったような気がした。


ユリウスは、レオンにとって太陽みたいなやつだった。


だから、今日、ユリウスがあの生徒の前に飛び出したこと自体には、驚かなかった。

誰よりも優しく、そして強い。

「身体が勝手に動いてさあ」なんて、ユリウスは笑うんだろう。


でも、魔物の爪がユリウスの脇腹を裂いた瞬間、頭の中が真っ白になった。


七年間競い続けてきた。

いつもは剣を交えて、魔術を撃ち合う。勝負の途中で怪我をしたことだってある。

それなのに、目の前で意識を失ったユリウスを見たときは、生きた心地がしなかった。


こいつが隣にいなくなる。

そんなこと、二度と考えたくはない。


治療を終えても、ユリウスはまだ目を覚まさなかった。


「……馬鹿野郎」


眠っている顔には、まだ少し幼さが残る。

ユリウスの淡い金色の髪が顔にかかっているのを、レオンが手で優しく払った。


「ん……」


ユリウスの目がゆっくり開く。


「ユリウス?」

「……魔物は」


開口一番が魔物の確認だとは。


ユリウスが強いことなんて、レオンが一番知っている。

剣だけなら自分の方が強くても、魔術が加わればユリウスの方が一歩先にいる。


だからこそ、腹が立つ。


自分がどれだけ強くても、傷つかないわけじゃない。

そんなこと、ユリウスだって分かっているはずなのに。


「全部倒した」

「そっか」


安心したようにユリウスが笑う。


「お前、またやるだろ」

「何を?」

「魔物の前に飛び出すの」


ユリウスは少しだけ考えた。


「……まあ、身体が勝手に動いちゃうんだから仕方ねえだろ?」


その返事に、レオンは諦めたように息をついた。


歴史学で何度も学んだ。

魔物が増えているのは、魔王復活の兆候である。


もし、本当にそうなら。


ユリウスが今日みたいに、誰かを助けようと前に出ることが、この先何度起こるのだろう。

自分の見ていないところで、危ない目にあって。

それでも、きっとこいつは止まらないんだろう。


それならば、ユリウスが飛び出さなくてはならない状況を一つでも減らせばいい。

魔王がいなくなれば、この戦いは終わるのだ。

そしてその先は、また、二人でいつもの勝負ができる。

魔王だろうが、世界の危機だろうが、何にもこいつの隣にいる未来を奪わせやしない。


ただの友達だと思っていた。

けれど、その言葉だけでは、この気持ちは収まらない。


――きっと自分は、ユリウスが好きだ。



「俺が減らしてやるよ」

「は?」

「分かんなくていい」


ユリウスが怪訝そうに眉を寄せた。

レオンは真っ直ぐ、ユリウスの目を見る。


「俺、勇者になる」



**


「……は?」


今、こいつは何と言った。


「俺、勇者になる」

「いや、聞こえてたけど」


意味が分からない。


勇者。聖剣アステリアに選ばれ、魔王を討つ者。

でも、目の前にいるレオン・グランツという男は。


「……お前はならないだろ」

「なんでだよ」

「なんでって――」


――だって、お前守護者じゃん。


喉まで出かかった言葉を飲み込む。


「……とにかく、お前はやめとけ」

「はあ?」

「お前は勇者って感じじゃない」

「喧嘩売ってんのか!?」


いつもなら、ここで二人とも笑っていた。

だけど、ユリウスは全く笑えなかった。


レオンは勇者にならない。


――本当に?


聖盾がレオンを選んだ理由は、ゲームでも明かされていない。

ただ、物語が始まったときにはもう、守護者だった。


ゲームのレオンが、勇者を目指していたのかも知らない。


そもそも、ユリウス自体がゲームには全く登場していないのだ。もし、自分の存在が、あるべき未来を変えているとしたら。


レオンの剣の腕には勝てたことがない。

魔術だって、七年前とは比べものにならない。


そして、誰かを守るために危険を承知で前に立つ男だ。

それが聖盾に選ばれる資質だ、なんて思ったばっかりだったのに。



――聖剣が、そういう人間を選ばないという保証は?



もし、レオンが勇者になったとしたら。


ユリウスは唇を噛む。


記憶の中の勇者は、魔王を討った後、帰ってこなかった。

誰にも知られないまま、その魂を魔王に奪われて。


そして最後には、目の前の男に討たれた。


「……駄目だ」


レオンが勇者になるなんて。


「絶対、駄目だ」


帰ってこないなんて。


「は?」


レオンが眉を寄せる。

ユリウスは少し黙った後、真っすぐにレオンを見た。


「俺がなる」


自分なら、少なくとも何が起こるかは知っている。

防げる保証なんてない。それでも、何も知らないレオンを行かせるよりは。


レオンが勇者になる可能性があるのなら、その可能性ごと自分が奪えばいい。

聖剣に選ばれる方法は分からないけど、探す。使える知識は全部使って、何としてでも。


「お前なあ、そんなとこまで張り合ってくんな」

「そんなんじゃないし」

「怪我して寝込んでるやつが、何言ってる」

「はぁ?倒した魔物の数は俺の方が多かったです〜」

「それは俺が譲ったからだろうが!」


結局、最後はいつもの二人に戻った。


ただ一つ、勇者になるのはどちらか。

新しい勝負が増えたことを除いて。


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