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帰る場所


エルネでは、勇者たちを迎えるために上等な宿が用意されていた。

ただ、一行の人数が多いため、部屋は何人かで分けて使うことになる。


誰が言い出したわけでもなく、ユリウスとレオンは同じ部屋に割り振られた。

二人とも、それに異を唱えることはなかった。


ユリウスは剣を寝台の脇へ置き、隣を見ないように荷物を置いた。

今まで何度も同じ部屋で寝ている。

今さら、何を気にすることがある。


レオンが荷物を下ろす音が、やけに大きく聞こえた。


「お前、そっちでいいのか」

「え? ああ、うん」


返事が少し上ずった。

それをごまかすように荷物を探り、着替えを引っ張り出す。


ユリウスが服を脱ぎ始めると、レオンは視線を逸らした。

自分の荷物へ向き直る。何を出そうとしていたのか、一瞬分からなくなった。


「……」

「……」


何でこんなに静かなんだ。

ユリウスは呼吸の音まで気になり始めた。


「……飯!」

「は?」

「今日の晩飯、なんだろうな! 俺は肉がいい!」

「また肉かよ……」


眉を寄せるレオンに、ユリウスは首を傾げる。


「何だよ、俺と言えば肉だろ」

「ああ、それはもう本当に分かってる」

「何だよ……」


また言葉が出なくなって、ユリウスは部屋を出ようとする。

それを見たレオンも自然と後をついてきた。


そのまま食堂へと行けば、ミナが宿の人と話しているのが見えた。

話が終わるのを待って、そばへ寄る。


「何話してたんだ?」

「ユリウスさん! 今、エルネの魔術師組合について聞いていたんです」

「魔術師組合?」

「エルネの研究施設にあるやつか?」


エルネには、最新の魔術研究施設がある。

そこに所属する魔術師たちは、新しい魔術や古代の魔術について研究を続けている。

ここが魔道都市と呼ばれる所以でもあった。


「行きたいの?」

「もしかしたら、帰る方法も相談できるかと思って」

「確かに探すなら最適な場所かもな」

「でも、魔術研究施設って入るには認可が必要なんじゃなかったっけ?」


ミナの顔が曇る。

ユリウスは慌てて言葉を続けた。


「でも、認可は国王からもらえるだろ。帰ったら褒賞の話もあるって言ってたし、その時にお願いしてみようぜ」


ユリウスはミナの顔を覗き込んだ。


「俺からも頼むから」

「……ありがとうございます」

「俺も手伝う。なんなら俺の褒賞もそれにしようかな」

「レオンさんも?」

「ああ、帰る方法探すって約束したしな」


その言葉に今度はミナが慌てる。


「いや、レオンさんたちは戦いで大変な思いをしたんですから! ちゃんと欲しいものを考えてください!」

「いや、普通に欲しいぞ? こいつ負かす魔術も見つかるかもだろ」

「はあ!? じゃあ、俺もそれにする!」

「お前は魔王城で新しい魔術見つけただろうが!」


ミナは二人を交互に見た。

ユリウスもレオンも、睨み合いながら言い合いを続けている。


「……また勝負ですか」

「今度は俺が勝つ」

「言ってろ」


思わず笑うと、さっきまで胸にあった申し訳なさが、少し軽くなった。



**


「魔術研究施設楽しみだな~」


夕飯を食べ、二人で部屋へ戻った。

さっきまでの気まずさも忘れ、ユリウスは王都に帰ってからのことを考えていた。


まずは、今の力でレオンと勝負する。

その後は、アステリアとヴァルガの連携も試したい。ミナの力が加われば、今までにない技だって使えるかもしれない。


研究施設に行けたら、ミナの世界につなげる方法を探す。

もし、いつでも行き来できるようになったら。


考えるほど、やりたいことが増えていた。


「なあ、もしミナの世界に普通に行けるようになったら、俺たちも行けるかな!?」


レオンは答えなかった。

楽しそうに話していたユリウスも、その顔を見て口を閉じる。


「レオン?」

「……お前も帰りたいのか?」

「?」


レオンの表情がどこか苦しそうで、ユリウスまで胸が痛くなる。

でも、何を心配しているのか分からなかった。


「帰るって、今向かってる話じゃなくて?」

「……異世界に」

「ああ! いや、俺はもう気持ちはこっちの人間だよ。帰るってなったら王都しか想像できない」

「そうなのか?」

「当たり前だろ!」


レオンが、安心したように息をついた。


その顔を見たら、無性に抱きつきたくなった。

ユリウスは伸ばしかけた手を、ぐっと握り込む。


今、抱きついたら、理由を聞かれても答えられない。


「じいちゃんになってもお前と勝負する!」


レオンが目を見開いた。

それから、ゆっくりと笑う。


「……言ったな」

「おう」

「忘れんなよ」


忘れるわけがない。

そう思ったけれど、ユリウスは頷くだけにした。



**


それからの旅程も問題なく進んだ。

王都まであと三日。


少しだけ変わったことといえば、ユリウスがレオンの近さから逃げなくなったことだった。


レオンも同じ気持ちなのかは分からない。

それでも、きっとずっと一緒にいることは変わらない。


休憩の時間、川へ足を浸すユリウスの隣に、レオンが座る。

肩が触れた。


ユリウスはそのまま隣を見て、笑った。


「……ユリウス、お前」

「ん?」

「いや、何でもない」


レオンは川へ目を戻した。

その肩へ、こつんと重みがかかる。


ユリウスが、肩を預けていた。


「ちょっと借りる」

「……ああ」


返事が遅れた。

横を向けば、すぐそこに顔がある。けれど、確かめる勇気が出なかった。


レオンは膝の上で手を握った。

さっきから、川の音が少しも頭に入ってこない。


「眠いのか」

「いや。気持ちいいから」


ユリウスは、それだけ言って目を細めた。


……あと三日。


レオンは息を吐いた。

長いのか短いのか、もう分からなかった。



**



そしてついに、王都へ帰る日が来た。


最後の休憩で旅装を改め、ユリウスとレオンは正装に身を包んだ。

二人並んで隊の先頭を進む。


丘を越えると、見慣れた城壁が現れた。

その中央に、王都の門が見える。


ユリウスは隣を見た。

レオンも、こちらを見ていた。


「……帰ってきたな」

「ああ」


門が開くと、その向こうの通りを埋める人々が見えた。


花吹雪が舞う。

二人の姿を見つけた人々から、歓声が沸き上がった。


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