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捜索


ユリウスは遺跡の壁に背を預け、自分の手を見つめる。

もう何カ月も何も食べていないのに、身体の中に魔力が満ちていて、空腹も感じない。


四か月の間に、身体は完全に人間でなくなってしまったようだった。


「普通勇者は主人公じゃねえのかよ」


今になって、あのゲームの物語に腹が立ってくる。


ずっと勇者は魔王を倒せなかったのだと思っていたけど、実際はちゃんと倒していたのかもしれない。

魔王を倒してあの結末なのだとしたら、勇者に救いがなさすぎる。


「勇者復活エンドも作ってくれよ……」



あれから空っぽになるまで魔力を使ってみても、少し眠ればすぐに回復した。

角をへし折ろうと壁にぶつけてみても、黒い皮膚をこすり落とそうとしても、何も変わらない。


いっそのことレオンの前に姿を現わして、助けを求めるのはどうだろう。

レオンなら、こんな姿でもユリウスであることを疑わないはずだ。


でも、もし。

解決策がないとなれば、ユリウスだと認識させながら、最後を託すことになるんじゃないか。


「いや、それが一番残酷だろ!!」


助けを求めるという考えをすぐに捨てる。

このまま遺跡にいても、解決策は見つからないだろう。


方法を探すとしたら、まず魔王城に何かないかを探しに行きたい。

早く騎士たちが帰ることを期待したいが、今も多分、自分を探している。


「あーもう、どうしたらいいんだよ!」


ぐっと手に力を入れると、黒い粒が落ちた。

魔力を練ったつもりはない。


「……?」


黒い粒は次々と皮膚から浮かび上がり、足元に落ちていく。

それが地面に影のように広がった。

小さな水たまりほどになった黒い影の中央が盛り上がり、細い足が一本這い出して来る。


ユリウスは息を止めた。

慌てて身体を引こうにも背には壁がある。


もう一本足が出てきたところで、横へと飛び退いた。


「嘘だろ」


影から頭が抜け、赤い目がこちらを向く。牙の並んだ口が開いた。

それは、魔大陸に上陸してから何度も見た魔物だった。


咄嗟に放った光が、その頭を貫く。

魔物は短い声を上げ、崩れ落ちた。


それでもユリウスは魔術を止めない。何度も何度も、その影に向かって光を撃ち続けた。


「……俺から」


影は消えた。ユリウスは呆然とその場に立ち尽くす。

腕の黒い紋様が以前より濃くなっている気がした。


「俺が、生み出すのかよ」


膝をつく。吐き気をこらえ、地面を掴んだ。

魔物が現れるまで、一年はあると思ってた。

自分が意識を持っていることで、魔王の力の回復が早くなってしまったのか。



――良かった、こんな状態でレオンの前に出なくて。



それから三日間悩んだ。

今もまた、足元に小さな影ができる。


ユリウスは光を放とうとして止めた。


「やっぱり、魔王城しかない……」


この力を消す何かがあるとするならば。


ゲームで使わなかった部屋も、調べきれなかった場所もある。

そこに何か、残っているかもしれない。

ユリウスはいち早く魔王城を調べることを決める。


魔物をけしかければ、状況確認のために騎士たちは城を離れるだろう。

危険だと判断して、拠点まで引き揚げてくれるかもしれない。



――ごめん、皆どうか無事で。


そう思いながらも、ユリウスは自分の影から生まれる魔物が、そのまま走り行く姿を見送った。




**



「魔大陸から急報です!」


レオンはユリウスの捜索に参加するため、何日もグレインと話し合いをしていた。

連日会議室に通い、どうにか許可を得たところだった。


出発を控え、移動経路を確認していると、騎士が青い顔をして会議室に入ってくる。

他に作業をしていた者も手を止め、そちらへ顔を向けた。



「何があった」


グレインが聞くと、騎士は書状を手渡す。

それを読むグレインの眉間にしわが寄った。


「何があったんです」

「……魔大陸で、魔物が確認された」

「……は?」


魔王討伐から五カ月。

各地から届く報告に、今の今まで魔物の姿を確認したというものはなかった。

だからこそ、捜索隊は大陸内部へ範囲を広げていたはずだ。


「生き残り、とかですか」

「現段階では判断できない。最初の魔物を見てから、続けて出現しているとある」


レオンは何も言えなかった。


「負傷者はいるか?」

「数名。いずれも軽傷ですが、捜索を止め拠点に撤退しているようです」

「そうか……」


グレインが厳しい視線をレオンに向けた。

言葉を聞くより先に立ち上がる。椅子が倒れて大きな音が鳴った。


「すまないが、捜索隊の出発は見直す」

「団長!」


お互いに視線をそらさない。


「一度、神殿に確認だ。伝承を調べる必要がある」

「……」

「状況が分かり次第、お前を送り出す。そのためにも今は待て」

「本当ですね」

「ああ、すぐに神殿に連絡を送ろう」


レオンは唇を噛んだ。今すぐに行きたい。

それでも、グレインが自分を行かせるために動こうとしていることは分かった。


「……お願いします」


倒れた椅子を起こし、もう一度、地図へ目を落とした。



**



王都アーレシア。

レオンはグレインと共に、北方要塞ガルシオンから半月かけて戻ってきた。

大神官から、魔物が再び現れた件について、呼び出されたのだ。


会議室には、国王に宰相もいる。


全員が席に着いたのを確認して、大神官が話し始めた。


「古い伝承には勇者と守護者とは違う、もう一つの加護についての記載があります」

「もう一つの加護?」

「『魔王討たれし後、その残穢が新たな災いを成すとき、第三の加護が目覚める』――そう記されております」

「新たな災い?」

「その第三の加護とはなんだ」


大神官の言葉に、会議室には困惑の声が上がる。


「異界より招かれる聖者が授かるものとされています。『見えざるものを見通す者』と」


異界の聖者。初めて聞く存在だった。

そもそも、魔王が倒された後も災いが起きるなんて。


早く見つけてやらないと。

見えざるものを見通すというのなら、あいつの居場所だって、きっと。


「これから来る災いに備え、聖者の召喚を進言します」


国王はしばらく黙っていたが、やがて大神官へ頷いた。



「召喚の準備を進めよ」



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