↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/32

帰る方法


ユリウスは一人、魔王城から離れた荒野を歩いていた。


「……痛っ」


右足をひきずる。

魔王城を出て一週間。歩き続けた脚は、もう体重を支えきれなかった。

足をくじいて、地面へと転がる。


傷の手当もせずに無茶をした身体は発熱し、意識も朦朧としてきた。

それでもユリウスは、歯を食いしばり立ち上がる。


あれからすぐに、大勢の騎士たちが魔王城の調査を始めていた。

近くに身を隠すにも安心できず、こうして遠くまで逃げてきたのだ。


「げほ、役に立たねえ力……」


魔力を練ってみても、禍々しい力が溢れるだけで、傷を癒してはくれない。


「傷も治せねえくせに、こんな悪魔みたいな見た目にしやがって」


帰りたい。

それなのに、帰り道からはどんどん遠ざかっていく。


長い間歩いた先で古い遺跡を見つけ、崩れた壁の陰に潜り込むと、ユリウスの意識はそこで途切れた。



**



「ん……」


ユリウスが次に目を覚ますと、辺りは日が沈んで真っ暗だった。

固い壁に寄りかかって眠っていたから、身体が痛い。


身体を起こそうとすると、頭の上で何かが壁に擦れた。


「何だ......?」


擦れたものを掴むと、それは自分の頭とつながっている。

手のひらで握れるほどの何かは、手触りがつるつるとして先端がとがっていた。


「う、嘘だろ!」


何も考えられないまま、走りだす。

少し離れたところで水の音が聞こえて、足を止めた。


遺跡に隣接した森の中に小さな泉を見つけ、ユリウスは恐る恐る近づいた。

水に映る姿を確認する。

月明かりしかない状態では、シルエットしか見えなかった。

それでも、頭から小さな角が伸びているのが分かる。


「……」


水面に手の平を伸ばす。震える指先に光魔術を灯した。


「……あぁっ」


光に照らされた水面に、赤い瞳と、黒く染まった髪が映る。

ユリウスはその場に崩れ落ちる。


「どうして」


魔王は倒したはずなのに。


零れ落ちそうになる涙を、ユリウスは必死に堪えた。

諦めたらいけない。まだ、何かある。自分はユリウスだという意識が、ちゃんと残ってる。


「そうだ」


目を擦り、立ち上がる。


「俺は、魔王に乗っ取られたわけじゃない」


探さないと。レオンが待つ場所へ帰る方法を。




**



ユリウスが消えて、四ヶ月が経った。

レオンは毎日、時間が空くたびに城壁へ登る。


遥か先の道に、見慣れた姿が現れるかもしれない。

自分で迎えに行けないのなら、せめて、帰ってくるところを見逃したくなかった。


「……」


少しすると、グレインが上がってきた。

それでもレオンは振り返らない。


グレインは、その背中を見つめた。

戦場では、何百何千もの騎士を救った守護者だった。今の後ろ姿は、ただの少年だ。


「……グランツ」

「……」

「魔王の間まで同行した騎士の容体が落ち着いた。短い時間なら、話せるそうだ」


その言葉に、レオンが振り向く。

数日前、治療のためにガルシオンへ帰還した騎士たち。

魔大陸では十分な治療ができず、特に傷の深い者は、到着後すぐに専門施設へ運ばれたと聞いていた。


「会えるのですか」

「ああ、少しだけだが」


レオンは震える手を握り、グレインの後についていく。

一つの部屋に案内されると、そこにはベッドに横になる男がいる。


全身を包帯で覆われ、右目には大きなガーゼが当てられている。


「っ」


レオンは息を呑む。


「……守護者、殿」

「無理はしないでください!」


起き上がろうとする騎士に近づき、それを止める。

それでも騎士は、何かを渡そうとレオンに必死に手を伸ばす。


両手を差し出せば、騎士の手から落とされたのは銀の星だった。

レオンはただ、それを呆然と見つめることしかできない。


「……我々は、魔王を前に……手も足も出ませんでした」


騎士の目が、レオンの手元へ落ちる。


「炎が迫った時、勇者殿が……その星を、我々へ投げて……」

「……」

「守って、くださったのです」


返されたそれを、ゆっくりと握る。

ユリウスらしい。それがこんなにも苦しい――。


「それからユリウス、勇者は」

「……申し訳ありません」


騎士の目に涙が浮かぶ。


「我々だけ、帰って――」

「謝らないでください。ユリウスは、まだ――死んでいない」


自分でも驚くほど静かな声だった。


もう、ただ待っていることなんてできない。どうにかして自分で探しに行く。

握りしめた星が、銀に光った。


――待っていろ、ユリウス。



その日、勇者ユリウス・アルヴェインの行方不明が、正式に王国へ発表された。

帰還を待ちわびていた人々に、勇者の無事を伝える言葉はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。