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Fラン大卒の逆転人生  作者: へいたれAI
第二章:岡山事務所

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第8話 辺境での覚醒


 岡山駅に降り立った瞬間、俺は思った。


(むわっ……これ、空気?  湯気?  サウナ?)


 肌にまとわりつく生ぬるい空気。

 東京のような、周囲全員が時間に追われてるピリピリ感なんてどこにもない。

 駅前のハトも、やたらリラックスしてベンチに座ってるおっちゃんの肩に乗ってるし。

 人間関係の濃度と湿度が同じくらい高い気がして、すでに汗が額を伝っていた。


(……もし、私も岡山に行きたいって言ったら、驚く?)


 長峰の言葉が、脳内で勝手に再生されては消える。

 結局、彼女は神戸本店の総務部に配属。


 そりゃそうだ。

 あのマドンナがこんな湿気の中、瀬戸内の陽射しに焼かれてたまるかって話だ。

 徒歩十数分、たどり着いたのは、昭和のにおいが漂う雑居ビルの3階。


「安宅興商 岡山事務所」の金文字プレートは色褪せて、ちょっと斜めについてる。


「……あれ?  ここ、ホントに会社?」


 ドアを開けると、時が止まっていた。

 シン……という静けさ。

 誰も喋らず、パソコンの画面だけが淡く光る空間。


「あのぅ、本日付で配属されました、青島直人です……」


 近くの席の女性に声をかけたら、彼女はポテチを咀嚼しながら「ふぁい」と気の抜けた返事をくれた。

 なんか、すごく……癒やされる。


「所長いないから、あそこ。教育係の人」


 指差された先には、窓際で猫のように丸まってるおっさんが一人。

 歳はたぶん40代半ば。白いシャツがグレーに変色してる。


「あの、青島直人です。本日から……」


「……あー、はいはい。俺は木下。教育係、だっけ」


 目が座ったおっさんが振り返り、俺を頭の先から靴の裏までジロジロ見る。


「Fラン大か? まぁいい。生きてるならなんとかなる」


 なんだその哲学的挨拶。


「で、お前、商社の仕事って知ってるか?」


「ええと、海外と日本の架け橋に……」


「うん、それ、教科書の話な」


 バッサリいかれた。


「ここは岡山。おしゃれなプレゼン?  国際会議?  ノンノン。そんなもん、夢のまた夢」


 と言いながら彼が差し出したのは、A4一枚に印刷された地元企業リスト。


「これ全部回ってこい。名刺配って、顔売ってこい。アポ?  知らん。行け」


 ざっくりすぎる……これ、もしかして、ドラクエの序盤?

 その日から始まった“クエスト:ドブ板の旅”。

 町工場、味噌屋、謎の錆びた倉庫。

 どこも門前払い、無言対応、もしくは不審者扱い。


 唯一の成果は、顔が濡れたくらい。

 俺の涙で。

 ついでに心も泣いていた。

 一週間後、ズタボロで事務所に戻ると、木下さんが煙草ふかしてた。


「おい、青島。ホームページ見てから行ってんのか?」


「え?  一応は……」


「社長の好きな寿司ネタは?  趣味は?」


「……え、知らないです」


「それだよ」


 突然の謎かけ。

 でも、なんとなくわかってしまった。


「人間相手に商売するなら、まずは人を知れ。BtoBも所詮、人と人だ」


 あの日から、俺は営業スタイルを変えた。

 いきなり商談せず、まず雑談から入る。


「この機械、音すごいですね!」


「暑いですね~今日! この辺、アイス美味しい店あります?」


 完全に“近所のお兄ちゃん”路線。

 でもそれが意外と利いた。

 一ヶ月後。

 例の無愛想な繊維工場の社長が、突然コーヒーを差し出してきた。


「……青島。また来たのか。まあ、上がれ。最近、誰も話し相手いなくてよ」


 ほろっと、愚痴がこぼれる。


「試しにこの糸、見積もってくれ。うまくいきゃ、次もあるかもな」


「え、本当ですか!?  やった!!」


「うるせー、耳がキーンてなるわ!」


 感情表現が極端で、ちょっと面白い。

 帰社して報告すると、木下さんがひとこと。


「……ようやく一体目、倒したな」


 RPGだったのか、やっぱり。

 東京じゃ得られなかった「人と向き合う」って感覚が、岡山にはあった。

 長峰のいない毎日は、ちょっと寂しい。

 でも、こうして少しずつ“誰かの役に立つ自分”に近づいてる気がする。


 岡山の太陽の下、俺の小さな冒険は、ようやく“覚醒”を迎えようとしていた。




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