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Fラン大卒の逆転人生  作者: へいたれAI
第一章:社内研修

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第7話 研修終了後に


 三ヶ月の研修が終わった。


 誰もが痩せ、誰もが疲れ果て、けれど誰もが成長した――そんなことを言うのは、だいたい勝ち組だけだ。

 俺は今、安宅興商の東京本社、十二階の面談室の前で、そわそわと膝を揺らしている。


 人事課長との一対一面談。  

 ここで、俺の人生の“次のステージ”が決まる。    

 先に終えたエリート・長嶋が出てきた。

 目が合った瞬間、満面の笑みで親指を立ててくる。


「やっぱ俺、海外部門だったわ。いずれNY支社で修業してこいってさ」


 へえ、よかったね。いや、ほんと、すごいな。おめでとうございます。  

 そんな心の声を隠しながら、俺は無言で会釈をした。


「次の方、青島直人さん、どうぞ」


 部屋に入ると、課長が資料に目を通しながら言った。


「さて、青島君。希望の配属先は?」


 喉が渇く。汗がにじむ。


「君の研修評価は……まあ、これから頑張っていく必要がある、という感じだが」


 柔らかい言い方に包んだ“あまり期待されてない”宣告。わかってたよ、ええ。

 ここで普通なら「営業部で頑張りたいです」とか言うんだろうな。でも俺の口から出たのは、まったく違う言葉だった。


「……地方の拠点で、経験を積みたいです」


 課長がぴくりと眉を動かす。


「地方?」


「はい。できれば、一番厳しいところで。一から、鍛え直したいと思っています」


 嘘だ。

 俺は逃げたいだけだ。長嶋みたいな超エリートたちと、毎日比較される環境から。


「……そこまで言うなら、一つ、あるにはあるが」


 課長が書類をめくりながら、苦笑いを浮かべる。


「岡山事務所、というところだ。ただ、あそこは……社内では“島流し先”なんて呼ばれていてね」


 島流し先――それが、今の俺には、パラダイスに聞こえた。


「はい。ぜひ、そこでお願いします」


 課長は静かに頷いた。

 それで、俺の運命は決まった。

 面談室を出たところで、思いがけずあの人と会った。


「岡山に行くんだって?」


 振り返ると、長峰幸が立っていた。

 白いブラウスに、涼しげな表情。

 その顔に浮かぶのは、少し驚いたような……でも、どこか面白がっているような、あの、いつもの読めない笑みだった。


「ああ。まあ、俺にはその方が合っているだろ」


「……ふーん。そうかもね」


 彼女は窓の外を見つめながら言った。


「私、人事との面談、これからなの」


「そうか。希望通りになるといいな」


「……もし、私も岡山事務所に行きたいって言ったら、驚く?」


「えっ?」


 思わず聞き返してしまった。

 長峰は、わずかに唇を上げて笑った。


「冗談よ。でも、東京って少し、息が詰まる時があるから」


 そう言って、彼女はふっと踵を返し、面談室へと歩いて行った。

 その背中を見つめながら、俺の心臓は、またしてもバカみたいに高鳴っていた。


(……いや、ないない。俺と同じ場所なんて。そんな都合よくいくわけ……)


   * * *


 一週間後。

 配属先一覧が発表されたその朝。

 掲示板の前には、研修同期たちが群がっていた。  


 俺も人混みをかき分け、表を確認する。

 No.28 青島直人……岡山事務所。

 うん、予定通り。

 そしてその数行下。

 No.34 長峰幸……神戸本店 総務部。

 …………


(ああ……やっぱり、冗談だったか)

 少しだけ肩の力が抜けた。


 ほんの少しだけ、残念なような、でもホッとしたような、そんな気持ちだった。

 その日の昼休み、長峰とすれ違った。


「岡山、頑張ってね」


 彼女は、ふわりと優しい声でそう言った。


「そっちこそ。神戸って、いろいろ大変そうだけど」


「ふふ、まあね。でも、頑張るよ。あなたもね」


 それだけ言って去っていく彼女の背中を、俺はしばらく見送っていた。

 彼女は、俺の心にさざ波のような変化を残していった。

 岡山――予想だにしなかった“再スタート地点”で、俺の物語が、いよいよ幕を開ける。


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