表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fラン大卒の逆転人生  作者: へいたれAI
第一章:社内研修

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/41

第5話 恋と野心と、冷やしナポリタンの午後


 安宅興商――それは、華やかな世界と地獄の階段が隣り合わせになっている会社。

 俺、青島直人はというと、まだ“地獄”寄りの階段を登っている最中だ。


 が、ここ最近の俺には、ちょっとだけ春の兆しがあった。

 そう――“氷の女王”と呼ばれていた長峰幸と、プロジェクトで同じチームになったこと。 そして何より、彼女が俺に微笑みかけてくれるようになったこと。


 それだけで、俺の平凡人生に色がつき始めていた。

 ……そんなある日。事件は起きた。


 その日、プロジェクトメンバーはお昼を一緒に取る流れになり、俺は長峰と大沢葵、そして長谷川というクセ者コンビとともに社内カフェの一角にいた。


「へぇ~青島くんって、家で料理するんだ? すごいじゃん!」


 葵が笑顔で俺の弁当箱を覗き込む。

 俺が昨日深夜に必死で作った、見た目だけやたら映える系・和風ハンバーグ弁当がまさかの注目の的になっていた。


「い、一応、節約も兼ねて……」


「いいなぁ~料理できる男子。株上がるわ~。ねえ幸?」


「……うん、そうだね。青島くん、そういうとこ猫っぽいけど、実は家庭的なんだね」


(猫評価、引きずってたーッ!!)


 俺の顔が赤くなる中、長谷川がコーヒー片手にふんっと鼻で笑った。


「でもまぁ、家庭的なだけでこの会社では生き残れないけどな。特に“彼”が現れると……」


「“彼”?」


 その時だった。

 ズンズンズン……と足音が近づいてくる。

 威圧感、スーツのキレ、過剰なヘアワックスの匂い——


「よう、青島。ずいぶんと“お楽しみ”のようだな?」


 声の主は、誰あろう長嶋 啓二だった。

 来た……!!

 モブ社員にとっての天敵、プライドと攻撃力の化身。


「長嶋くん、どうかしたの?」


 長峰が冷静に言葉を返す。


「いやいや、何でもないさ。ただ気になってな。最近やたら君とつるんでる“青島くん”の正体がな」


 そう言って、俺に目を向ける。


「で、青島。今どんな気分だ? 氷の女王と急接近して、注目の的になった気分は?」


「い、いや……ただの偶然で……」


「偶然で氷は溶けないんだよ。お前に何がある?」


(お前……言ってくれるなあ……)


「まあ、勘違いされるのは本人の勝手だがな」


  長嶋は鋭く長峰を一瞥したあと、突然トレーを手にして近くの席へ座り込んだ。


(……まだ話すつもりかよ!?)


「青島。お前に足りないのは“背景”だ。家柄、学歴、人脈……。そしてなにより、“結果”だよ。いつまで野良猫のままでいるつもりだ?」


 その瞬間、周囲の空気が少しピリついた。

 が、その空気を打ち破ったのは——長峰だった。


「長嶋くん。そういう言い方、私は好きじゃない」


「……あ?」


「青島くんは、ちゃんと自分の頭で考えて、自分の言葉で話す。それって、この会社で一番大事なことじゃないの?」


 沈黙。

 長谷川が横で「おお……」と小声で感嘆した。


「それに、私が誰と仲良くするかなんて、あなたには関係ないでしょ?」


 ズバァン! という効果音が聞こえた気がする。完全なKOだ。

 長嶋はしばらく無言で俺を睨みつけていたが、やがて鼻で笑って席を立った。


「……お幸せに」


 その捨て台詞が、社内にまた新たな噂を巻き起こす火種になることは、まだ誰も知らない——


 午後の会議後、俺は給湯室でひっそり水を飲んでいた。


(まさか、長峰に正面から盾になってもらえる日が来るとは……)


「ふふ。さっきの、かっこよかったね」


 背後から、長峰の声。


「え……俺、何も……」


「ううん。言い返さなかったのが、すごいと思った。私なら、途中で怒鳴ってたかも」


 長峰は紙コップの紅茶を手にしながら、少しだけ困ったように微笑んだ。


「それにね……私、強い人って苦手なの」


「え?」


「なんでも自分でできるって顔してる人。完璧そうに見えて、他人を見下す人。そういう人と一緒にいると、すごく、息が詰まる」


 静かな告白だった。


「……でも、青島くんは違う。完璧じゃないし、正直、すごく不器用だけど……」


「お、おいおい」


「でもね。そういうとこが、私は好きなんだと思う」


 言い終わると同時に、彼女は頬を赤らめて、コップを持ったまま逃げるように立ち去っていった。

 取り残された俺は、呆然とその背中を見送ることしかできなかった。


(……これ、夢だよな?)

 いや、夢でもいい。

 だけど——


 少しだけ、俺も前に進んでみたくなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ