第26話 神戸での“慰労会”(と告白未遂)
その翌朝、岡山のホテルのロビーで新聞を読んでいると――向こうから走ってくる姿。
「直人ー! いた!」
長峰さんだった。
結局、逃げ場はなかった。
俺は岡山城の桜を背景に、長峰さんと二人きりで歩くことになった。
春の陽光が降り注ぎ、風情ある景色の中で、俺の心臓はひたすらバクバクと鳴り響く。
「……長峰さん、まさか、岡山まで来てくれるとは」
「だって、連絡取れなかったから。突然コロンビアとか、何があったのか気になって」。
二人で岡山城を巡り、そのあと新幹線で神戸へ戻る道中、長峰さんは静かに訊いた。
「ねぇ……本当は、何があったの?」。
俺は正直に答えた。羊毛の話から始まって、ガス田、昇進、そして降格。 そして、誰も俺を受け入れられない、会社の中での俺の宙ぶらりんな立場。
全て?(一部、エレナとイオナとの間の「公私混同」については、お茶を濁したが)を話した。
長峰さんは、時折目を丸くしながらも、最後まで真剣に話を聞いてくれた。
「なるほどね……青島くんらしい、波乱万丈な人生だね」
その言葉は、皮肉ではなく、どこか温かい響きがあった。
そのまま二人で新幹線に乗り神戸に帰っていった。
神戸では、久しぶりの同期会。枦谷も来ていた。
「おーい、青島! 世界最速の“スラムの王子様”が帰ってきたぞー!」
「豆の気持ちから所長まで駆け上がった男、ここに爆誕!」
同期で唯一仲良くしてくれる枦谷は、やっと取引先を任せてもらったようなのだが、神戸に生まれた新進気鋭のコーヒーチェーンで取引も色々と条件がかなりきついらしく、俺に合うたびにこぼしていたが、ついに頭にきたのか、少々危ない言葉を口にするようになっている。
「……ねぇ、ルーマニアって美人多いって聞いたんだけど?なんか、現地に“通訳兼ハウスキーパー兼癒やし”とかいそうじゃない?」
長峰さんが涼しげな笑みの奥で、絶対気づいてる系の察し力を見せた。
俺は「い、いやあ、その、現地適応力と異文化交流が大事というか、うん!」としどろもどろになった。
「で、コロンビアでは何すんの? 麻薬王と戦うんか?」
枦谷が目を輝かせて尋ねる。
「いや、事務所つくる。ていうか、コーヒーでも仕入れるか、今度は」
俺は少々危なくなりつつある枦谷をいじるように冗談をかます。
この場は爆笑に包まれた。
酒と笑いに包まれ、同期たちとの再会を楽しんだ。
「お前は本当に“持ってる”な。エリートが経験できないようなことばかり経験しているな」
「長嶋は今頃、君の降格を喜んでるだろうな。でも、蓋を開けてみれば、君は次の異動先まで決まってんだからな。あいつ、知ったらまた机蹴るぞ」
確かに。
俺は主任に降格したとはいえ、入社三年目で海外赴任。
しかも、何の繋がりもないコロンビアで「ゼロから事務所を立ち上げろ」というミッションだ。
一般的なエリート社員でも、入社間近のこの時期に主任になるのは異例中の異例で、海外事務所長(仮)で係長待遇だった俺は、この異動で主任になったとしても破格の待遇だ。
人事部がどこにも俺を受け入れる職場がないから、とりあえず「コロンビアで仮事務所を作れ」という、これまた前代未聞の“投げっぱなしジャーマン”人事を発動したのだ。
「まあ、俺もよくわかんねえよ。会社も俺をどう扱っていいか、困ってるみたいだ」
俺は苦笑しながら、酒を煽った。
長峰さんは、俺たちの話を静かに見守っていたが、帰り際、俺の隣に並んでこう言った。
「青島くん、ちゃんと帰ってきてよね」
その言葉は、まるで魔法のように俺の胸に響いた。




