表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~  作者: ハムえっぐ
第8.5章 厄災の魔女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

318/322

第2話 厄災の魔女(2)

 声が途絶え、私が歩き出そうとするとリョウが剣の柄に手をかけ、私の前に立ち塞がってくる。


「駄目だ、ローゼを一人で行かせるわけにはいかない」


「リョウ様の言う通りです。なぜ、先ほどの声がローゼを指名するのか、まず理由を考えるべきです」


「考えられる理由として、魔女としての知識欲を満たす意見交換か、ローゼさんの魔力を道具として利用するかっすね。自分としても、ローゼさんだけに荷を背負わすのは気が引けるっす」


 ヴィレッタとフィーリアも即座に否定してきた。

 

「姉様だけを危険な目に遭わせるなど、私も拒否します! 全員を塔に入れておきながら会うのは一人だけというのは、古来より罠と相場が決まっているものです!」


 レオノールが剣を抜き放ち、リョウの隣に並ぶ。


「私とレオノールとリョウで前衛を務めるよ~。ローゼは後ろからついてきて。敵の狙いはローゼなんだから」

 

「蜃気楼ごときにデカい顔させないわよ。全員でチャチャっと片付けましょ!」


 クリスがロングソードを、ベレニスもすでにレイピアを構え、剣先が塔の扉へと向けられていた。

 普段は飄々としている2人だけれど、いざという時の行動に迷いはない。

 ……フタエゴとバラオビは、『はよなんとかせい』って言いたそうに、上から目線で私を見てるけど。

 

 仲間たちの言葉に温もりを感じつつ、私は首を横に振った。


「みんな待って。塔の防衛魔法が作動すれば、あの声の持ち主が何者であれ、この場所で数百年間塔を維持してきた術者の仕掛けなら、何が起こるか分からない」


 リョウが唇を引き結ぶ。反論したい衝動を理性が押さえ込んでいるのだと、表情から見て取れた。

 私は彼の目を真っ直ぐに見返す。


「それに私、彼女に興味がある。あの声の持ち主が本当にヴァレリアなら……なぜ今ここに現れたのかを私は知りたいと思っている。魔女同士なら、話し合いで解決できるかもしれない」


 ヴィレッタが、ふう、と小さく息を吐いた。

 ため息は諦念でも賛同でもなく、何か深いものを受け入れたかのような音色に聞こえた。


「……わかりました」


 彼女はそう言いながら、ベレニスに顔を向ける。


「ですが、丸腰で行かせるわけにはいきません。ベレニス、あの水晶球を」


「ああ、あれね」


 差し出されたのは手のひらに収まるほどの、薄く透き通った遠視用の水晶球だ。

 あまりいい思い出のある品じゃないけど、これからの行動の用途に、これ以上の魔導具はない。


「なるほど。それは妙案っすね。水晶球に魔力を通しておけば、ローゼさんの視界と音声がこっちにもわかるっす」

 

「ローゼに何かあったら、私が塔ごと燃やし尽くしちゃうからね~」


 クリスが薄く微笑みながら言ってくる。

 笑顔は穏やかだったが、瞳の奥に揺れる炎の色は本物だ。

 

 リョウはしばらく黙り、剣から手を離すまでに数秒の間があった。


「……絶対に無理はするな」


 リョウはそれだけ言って横を向いた。

 それが彼なりの励ましだとわかっているから、私は小さく微笑む。

 ベレニスから水晶球を受け取り、握りしめると仲間の体温が宿っているような気がした。


 私はみんなと別れ、塔の奥を進んでいく。


 塔の内部は外の石造りの印象よりさらに古い。

 螺旋を描く石の階段は一段一段が微妙に高さが違い、慎重に足を運ばなければならない。

 壁に等間隔で取り付けられた松明が、私の影を長く揺らした。

 外の灼熱が嘘のような、墓所を思わせる冷気は階段を上るほどに薄れていき、代わりに花の香りに似た甘く香しい気配が漂い始める。


 どれほど登ったか分からない足が重くなり始めた頃、ようやく頭上に重厚な扉が現れた。

 古びた木材の扉に複雑な紋様が彫り込まれている。

 魔法陣だろうか、私の持つ知識のどれとも一致しなかった。

 けれど、強力な封印術が施されていたことだけは肌で感じ取れた。

 いや、正確には施されていた、だ。今はすでに解除されている。

 まるで私を待ち受けていたかのように。


 私は扉に手をかけ、押し開いた。


 すると、ひんやりとした螺旋階段の空気が温かな光に変わった。


 塔の最上階に広がる部屋は、不気味な石造りの外観からは想像もできない場所だった。

 天井に近い位置に設けられた大きな窓から、砂漠地帯の午後の陽光が惜しみなく差し込み、部屋の隅から隅まで柔らかく満たしている。

 窓辺には見事な花々が飾られていた。

 白い芍薬、深紅のバラ、紫の菖蒲。色も種類も異なる花々が、それぞれ活き活きと咲いている。

 数百年前の塔に、なぜ、という疑問は後回しにするしかない。


 部屋の中央に上品な白木のテーブルと椅子が一組。

 そしてもう一脚、私のために用意されていたかのような椅子が、テーブルを挟んで向かいに置かれていた。

 席に座っていた人物が、ゆっくりと顔を上げて私を見つめる。


 年の頃は20代半ばほど。

 蜂蜜色の巻き毛が肩の上でふわりと揺れ、深みのある赤紫の瞳が私をまっすぐに捉えてくる。

 絵画から切り出したような端正な顔立ちに、朱を引いた唇が弧を描く。

 薄い磁器のカップを右手で持ち、紅茶の湯気が細い糸を描いていた。

 こんな場所に、こんな気品ある人物がいる落差が、かえって私の警戒心を研ぎ澄ませた。


 ヴァレリアと思われる存在が、私を見ると旧友を迎えるように微笑んだ。


「ようこそ、我が塔へ。せっかくだから、私の話し相手になってちょうだい」


 私は入り口に立ったまま、部屋全体を素早く見渡した。

 罠の気配を探り、術式の残滓を読み、逃げ道の位置を確認する。全て、無意識のうちに行われた動作だ。

 それが終わってから、私は口を開く。


「まず、確認と質問です」


 警戒は崩さないが、声は落ち着かせる。


「……あなたはヴァレリア本人ではない。塔が発見された時に作動し、侵入者を抹殺するか、または試練を与えるための術式の投影。すでに、ヴァレリア本人は数百年前に死亡している」


 ヴァレリアは片眉をわずかに持ち上げ、上品に笑った。


「ふふっ、質問というより、答え合わせみたいね。ええ、その通りよ」


 カップを持ち直し、少し首を傾げた彼女が口を開く。


「私からも質問させて。数百年も隠されていた私の塔が、どうして今になって現世に姿を現したのかしら? 私はそれに興味があるの」


 私は部屋に踏み込み、向かいの椅子の前に立った。

 座りはしない。まだ、安全ではないと判断したからだ。


「魔王軍宰相クレマンティーヌが復活した影響でしょう。現在、各地で古代の迷宮や遺跡が次々と姿を現しています。この塔の封印が解けたのも、強力な魔力波動の影響の可能性が高いです」


 ヴァレリアは目を丸くした。

 幻影であるはずなのに、驚きの感情が表情の端々からありありと滲み出ていた。


「あらあら、大変ね。魔王軍なんて昔話が、また現世に降臨するなんて」


 くすっ、と笑って、ヴァレリアは付け加えてくる。


「……それじゃあ、この私も魔族の手先か何かだと思われているのかしら?」

 

「さあ、それはどうでしょう? 少なくとも、私はあなたに邪悪な気配を感じていません」


「あら、ありがと」


 人懐っこい笑顔を見せてくるヴァレリア。

 それでも緊張を、魔力の集中を解くことはできない。

 解いたら最後、私は彼女に飲み込まれる。

 厄災の魔女の幻影――彼女の底知れぬ魔力と対峙し、ただ純粋に、そう思った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ