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【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~  作者: ハムえっぐ
番外編

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水晶球パニック

「ベレニス、それなに~」


 ある日のこと。宿の一室でエルフ特有の長い耳をピコピコさせながらルンルン気分で荷物を整理しているベレニスに、手のひらサイズの2つの水晶球を見つめながらクリスが問いかけた。


「これ? ディアナから貰った遠視アイテムよ。これをこうしてここに置いておいて、ちょっと離れてみてクリス。ほら、もう1つの水晶球で、その場所からの景色が360度見えるのよ」


 ベレニスが試しにやってみると、クリスは「おお~、本当だ~」と感嘆の声をあげた。


「古来よりある監視用の魔導具っすね。それで敵軍の進軍状況を見たり、裏切り者の会話を知ったりするっす。魔力消費は上がるっすが、通信にも使えるっすよ」


 様子を見ていたフィーリアが説明をする。ドワーフ商人である彼女にとって朝飯前の情報だ。


「ああ~、覗き見アイテムか~。リョウに渡ったら女風呂覗くのに使いそう」


「……あり得るわね。あのむっつり傭兵のことだもの、私たちの寝ている部屋にも取り付けそうだわ」


「別に見たいって言えば、みんな見せてあげるのにね~」


「なわけないでしょ! 覗き見は処刑よ処刑! 塵も残らず消し去ってくれるわ!」


「ベレニスったらツンデレなんだから~」


「……なわけないでしょ。クリス、私だからまだこのくらいの発言で許すのよ。ヴィレッタに知られてみなさい。塵も残さないどころか、未来永劫永遠に苦しむ刑罰を考えるわよ」


「ブルッ……恐ろしい」


 激怒するパーティーメンバーの聖女の姿を想像しながら、ベレニスとクリスは震えた。


「一応言っておくっすけど、この水晶球、魔力ある女性しか使えないっすからね? うちらで使えるのは、ローゼさんとベレニスさんぐらいっすよ?」


 フィーリアが補足説明するが、2人は青ざめて震えたままだ。

 そこへ廊下からドタドタと騒がしい足音が響いてくる。


「みなさん! 何をしているんですか!」


 騒々しく部屋に入ってきたのは、パーティーメンバーのレオノール。

 いつも通りの元気いっぱいさで部屋の空気を明るくする。


「あれ? レオノールさん、もう帰ってきたんすか?」


「姉様たちでしたら、冒険者ギルドに依頼達成の報告に行きました! 私は早起きしたので昼寝しようかと。ところで、ベレニスさんとクリスさん、気分が優れないんですか? そんな時は私と師匠と共に剣術の稽古をしましょう!」


「いや、おかしいでしょレオノール。具合悪そうに見えるなら休ませるのが普通じゃない?」


「レオノール……どうしよう。リョウが未来永劫永遠に苦しむ刑罰を受けるんだって……」


 呆れてツッコむベレニスだが、クリスは潤んだ声で口にした。


「ほえっ⁉ 師匠、なんか悪いことしたんですか⁉ グッ……師匠とはいえ、この私はファインダの王女! 悪を見逃すわけにはいきません! ですが、情状酌量の余地がひとかけらでもあれば、なんとか弁論をして極刑を回避させてみせます! 罪状はなんですか!」


「……ヴィレッタを怒らせちゃったんだ」


「……師匠、サヨナラです」


 意気軒昂していたレオノールだったけれど、クリスからの一言に、全てを諦めて彼女は遠い目をして呟いた。


「いや、妄想ですんで大丈夫っすよ。今のところは……っすが」


「でもさフィーリア、傭兵が覗き見してないって本当に言えるのかしら? あいつ、一応、私より弱いけど強いじゃない? 私より弱いけど。私筆頭に超絶美少女たちとずっと旅をして同じ宿に泊まってるわけじゃない? 気配消して、お風呂覗き見してないと言い切れなくね?」


「師匠が覗き見ですか! 許せません! 男なら堂々と見るべきです! ヴィレッタさんが怒るのもわかります!」


 ベレニスの疑問に、再びレオノールに気合が入る。


「だよね~、レオノール。リョウもさ~、堂々としていればヴィレッタも許すと思うんだよね~」


「「「いや、それはない(っす)」」」


 クリスの発言に、間髪入れずに残る3人が同時に否定する。


「まあ、たしかにベレニスさんの言う通り、リョウ様は今や大陸でも指折りの剣士っす。それが娼館に一切通わず、恋人も作らず、かといって同性にモテているわけでもなし。……控えめに言って、ヤバいっすね」


「でしょ! あいつ18歳よ。普通なら、今頃ローゼに手を出して、ヴィレッタに八つ裂きにされてあの世に行ってるわよ。……なんで傭兵って、まだ生きてんの?」


 真顔で言うベレニスに、フィーリアは「プハッ!」と吹き出した。


「いやいや、ベレニスさん。それだとリョウ様はどう行動しても詰んでるっすよ」


「さすがリョウだね~。自分の命を優先してるんだね~」


「自分の命を優先している……となると、師匠は覗き見もしていないということになるのではないでしょうか? 師匠はリスクを避ける、剣士として立派な信念を持った方ですから!」


 感心したように頷くクリスと、尊敬の眼差しをするレオノール。

 そこでベレニスが呆れたように呟く。


「命と据え膳なら、据え膳選ぶほうがカッコよくね?」


「これは難しい問題っすね。ぶっちゃけ、互いの性格が恋愛に不向きって面もあるっすからねえ」


「うんうん、ローゼも悪いよね~。リョウをもっと誘惑しないとね~」


「姉様は、気品と誇りと魔女能力と理想と妄想が高すぎるだけですので、そこは男である師匠が大胆になるべきです! 姉様は悪くありません!」


「え~? でもさあ、ローゼが傭兵に告白すればヴィレッタも祝福すると思わない? だからローゼも悪くね?」


 さらにベレニスがツッコむと、全員腕組みをして議論がますます過熱していく。


「ローゼは押しが弱くって~、リョウがヘタレで~」

 

「どっちも異性経験がないのが、一番の核心かもっす。ローゼさんは幼い時から魔女修行で現世と隔離、リョウ様は幼い時からずっと戦場っすから」


「そもそも師匠の過去がおかしいです! なんで戦場で活躍しっぱなしなのに、浮いた話が1つもないんですか! 英雄譚としておかしいです!」


「それは傭兵だからで説明できるわよ。私たちだって何度も助けられてるけど、傭兵と浮いた話になってない。……これ、地味にヤバくね?」


 真剣に言い合っていると、突如背後からコホンと咳払いが聞こえてくる。


「4人とも、一体何を真剣に議論しているのですか?」


 深青色のロングヘアに青色の旅装服。パーティーメンバーである、清潔感と気品と清浄感溢れる頼れる聖女ヴィレッタが現れたのだ。


「ヴィレッタさん! いつの間に! 姉様と師匠と冒険者ギルドに向かったのでは⁉」

「あれ~ヴィレッタ、なんかいつもより笑顔がいいね~。何かいいことあったの~」

「あっ、自分そろそろ、商業ギルドで商談があるんだったんす」

「フッ、しょうがないわねフィーリア。この私が護衛について行ってあげるわ」


 コソコソ出ていこうとするフィーリアとベレニスだったが、笑顔のままのヴィレッタに捕まる。


 ニッコリ微笑むヴィレッタ。

 つられてニッコリ微笑むレオノールとクリス。

 ヴィレッタに手首掴まれてワナワナ震えるフィーリアとベレニス。


 するとヴィレッタの頬が定位置に戻っていく。

 女神のような慈悲深さを込めていた瞳が、冷酷な裁定者の色に染まっていく。


「リョウ様が、わたくしを怒らせた……というところからです」


 レオノールとクリスは震えた。

 レオノール合流後からの会話を、全部聞いていたということだからだ。


「ローゼとリョウ様が、2人っきりになれるよう配慮をしたわたくしが、なんですって?」


「ヴィレッタさん! 落ち着いてください! あくまで妄想ですので!」

「そうそう~、リョウはまだ何もしてないから落ち着いて~」


「コホン。……1つ申し上げておきます」


 そこでヴィレッタは、スーッと息を吸った。


「一体わたくしをなんだと思ってるんですか! 全員、正座! 反省なさい!」


 両手をくの字にして叫ぶヴィレッタに、全員シュバッと正座をしていくのだった。


 あれ? 思っている通りなんだけど(っす)。と思いながら。


 一通り罰が終わり、落ち着いた頃合い。

 痺れた足を回復させるべく、ベッドの上でうつ伏せになっているベレニスが呟く。


「やっぱりさあ、戦闘力全然ないヴィレッタですら、私たちに気づかれないで会話聞いていたし、傭兵ならもっと簡単に覗いてるんじゃね?」


「う~ん、否定できないのが痛いっす」


「人間って~、底が知れないよね~」


「まったく、みなさんがローゼとリョウ様にヤキモキしているのは理解しています。わたくしも同じ気持ちですから」


 ヴィレッタが淹れる紅茶の香りが部屋に充満し、ほんわかした空気が流れていく。


「ですが、この問題はローゼとリョウ様の問題。わたくしたちが口を出すことではありません。そもそも、わたくしがリョウ様を害すわけがありません。あの方はローゼにとっても、わたくしにとっても命の恩人なのですから」


「え~? でもヴィレッタっていつもリョウに当たりが強いし~」


「それはリョウ様が悪いからです。あの方は女性心理を理解しようとしないからです」


 ピシャリと言い切るヴィレッタに、再びクリスたちは震えた。


「話を戻しますが、ヴィレッタさんは邪気がないから気づきにくいだけです。覗きなんて邪気、私が気づかないはずがありません! はっ! 師匠、もしかして邪気なく私たちの湯船シーンを覗いているのでは⁉」


 とんでもないレオノールの飛躍の発言に、再び場の空気が変わる。


「あり得るわね、傭兵だもの」

「盲点っすね。リョウ様っすから悟りを開いている可能性あるっす」

「リョウって……人間以上に底が知れないんだね……」


 みんなの発言に、ヴィレッタも深刻な表情をして考え込む。


「……試しましょう」


「試すって、何をよ?」


 ベレニスの疑問に、ヴィレッタは即答する。


「ベレニス、リョウ様の部屋に、その水晶球を仕込みなさい。そしてお風呂場で観察していきます!」


 断言して言うヴィレッタに、「「「「おお~!」」」」と声があがる。


「そっか~。居れば覗いていることにならないもんね~」

「ナイスアイデアです! さすがヴィレッタさん!」

「面白いわね。私も賛成よ」

「自分らが風呂入ってる間の、知られざるリョウ様の日常、興味あるっす」


 こうして始まった、逆覗きプロジェクト。

 この日の夜、速攻で実行していくのだった。


 ***


「ローゼ、冒険者ギルドではどうでしたか?」


 宿の大浴場の湯気に包まって尋ねるヴィレッタに、ローゼは伸びをしながら答えていく。


「う~ん、魔女は絡んでなかったかな? 政治的背景もなさそうだし、これにて一件落着ってリョウと結論づけたよ」


 朗らかに言うローゼに、ヴィレッタは嘆息した。

 この様子から、今回もまったくこれっぽっちも2人の間は進展しなかったようだ。


「ところでベレニスたち、何してんだろ? なんかみんなで何か眺めてるけど? 魔導具?」


「ローゼ、背中を流します。さ、行きましょう」


「もう、ヴィレッタったら。私も流してあげるね」


 ローゼの背中を押しながら、ヴィレッタは振り向いて頷く。

 それを見て、ベレニスたちも親指を立てて頷いていく。


「私の予想だと布団の中で右手が動いて、一部分だけが不自然に浮き上がってると思うわ」

「1人なんだから~、布団被る必要なくない~」

「ゴクリ、それは衝撃映像です! 心臓がドキドキします!」

「見られてることを知ったら、リョウ様は自害すると思うっすよ?」


 そして覗いていく水晶球。

 映るのは眼光鋭い黒髪の青年。

 愛剣を真剣な眼差しで手入れしていた。


 ……数分経過した。


「「「「つ、つまんない(っす)」」」」


 4人は絶句してドン引きした。

 ずっと武具の手入れをしているリョウの満足げな表情を、なぜ自分たちはお風呂場で眺めているんだろうと後悔しながら。


「どうでしたか?」


 湯船に浸かって幸せそうにしているローゼを背景に、ヴィレッタがやってくる。


「う~ん、傭兵は傭兵だったわ」


「そうですか。よかったです。さすがリョウ様です。いつでも戦いの準備を怠らない。……もし不埒なことをしていたら、未来永劫永遠に苦しむ刑罰を与えようと考えていましたので」


 ホッと胸をなで下ろし、穏やかな笑みを浮かべるヴィレッタ。

 そんな彼女を見ながら、ベレニスたちは湯船に飛び込んでいくのだった。


「みんな、なにしてたの?」


「う~ん、傭兵がナニしてるか見てたんだけど、何もなかったわ」


「え? って! ベレニス! それって遠隔視の水晶球じゃん! リョウを覗いてたの⁉ 逆に駄目でしょ!」


「あっ……ヤバ」


 ベレニスは水晶球をポンとローゼに投げ、水しぶきを上げて泳いで逃げていく。


「もう……ベレニスったら」


「あっ! ローゼさん、魔力抑えるっす!」


 プクッと頬を膨らませながら水晶球を持ったローゼに、フィーリアが叫ぶがもう遅い。

 ローゼの手に収まった水晶球が淡い光を放ち始めた。


「……え?」

『……あ?』


 水晶球からリョウの絶句声が聞こえてくる。

 ほんの数秒の静寂。水晶球を通して全裸のローゼと、部屋でくつろぐリョウの視線がバッチリと交差した。


「どういうこと~? フィーリア」


「魔力を制御していないローゼさんの手に急遽渡った水晶球が、対の水晶球と通信状態になったってことっす」


 クリスの疑問に、慄きながらフィーリアは答えた。


「ということはですよ? 今、師匠は全裸の姉様を見ている。ということですか!」


「ロ、ロ、ローゼ! 早く水晶球を手放して……いえ、駄目です。わたくしたちも見られてしまいます! ど、どうすればいいのですかこれ!」


 レオノールの一言に、ヴィレッタもパニックに陥る。

 ベレニスは潜水艦のごとく、湯船の底へ逃げた。


「きゃああああああああああああああ!」

『うわああああああああああああああ!』


 ローゼとリョウの悲鳴が大浴場に響き渡る。


「ともかく、リョウ様は固く目を瞑ってくださいませええええええええ!」


 そこにヴィレッタの悲鳴も加わり、湯船の中でベレニスはこう思っていた。


(ま、ちょっと進展したんだしオッケーでしょ。私は悪くない。……進展するよね? やっぱしないか)

 

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