Lo208.フシイカヅチの切り札
悪神フシイカヅチが手を振り下ろすと、闇の底なし沼みたいなのが出来てそこから小さな子供のゾンビ達が出てきました。
ゾンビといっても判別できないほどに腐っているわけではなく、流れる血はまだ赤くべっとりと身体についていて、人としての原型を保ってる痛々しい姿のゾンビです。
あの小さいゾンビ達がエールちゃんの救えなかった子達……!?
フシイカヅチはねっとりと言います。
「綺麗でショウ?4年前の死体とは思えないホドに。死んで間もなく、魔王様に捧げられた贄ですからネェ?」
「……どういうことですか」
魔王に捧げられたにえ? 何のことでしょう?
何の話をしているのかついていけませんが……
「ワタクシがどうして今、この国に現れたのかお分かりになりマスかネェ?」
「……わかりません」
「呪いデスよォ! この国は呪われたのデス!! そのキッカケを作ったのは、ア・ナ・タ」
「……私が?」
「アナタの存在の為にィ……! この哀れな子達は死んだのデェス!!」
は、話についていけません!
何でエールちゃんのせいで?
でも、エールちゃんはその言葉でショックを受けてるように見えます。
「私のせいで……この子達が……?」
「フヒヒッ! そう、これはアナタの罪そのものです! なにが特級聖女リュミエール? 生まれながら呪われた大罪人のクセに!!」
子ども達のゾンビがずるずると動き出しました。苦痛に泣いているような、恨みまがしい目で見てるような、そんな目をエールちゃんに向けます。
エールちゃんは無表情のままでした。ですが、いつもより感情がすっぽり抜け落ちたような感じでゾンビの子ども達を見ています。
でも、その杖をギュッと血が出るくらい強く握っていました。
そんなエールちゃんに容赦なく子どものゾンビが迫ってきます。
うぅ、戦わなきゃならないんですか? 子どものゾンビと戦うの個人的にめっちゃくちゃ嫌なんですけど。
「フヒヒッ! あのときあの場で助かったのは貴方だけ!! かつての特級聖女シャイナスとやらは、貴方だけを救い、他を見捨てた!!」
「……うるさい」
「アナタは救われてェ! この子達は救われなかった!! この子達は無惨な死体になって、今もアナタを恨んでますよぉ!!」
悪神フシイカヅチの不快な声に呼応するように、子どもゾンビ達は全てを恨むような呻き声をあげて襲いかかってきます!
でも、エールちゃんは動きません。まさか、抵抗する気を失くしたんでしょうか?
ど、どうしましょう?
いや、迷ってる暇ないです!
申し訳ないですが、死んだ彼らよりエールちゃんの方が私には大事です!
私がそう思って櫂を構えて身構えていると……
ドオンと大質量の物体が飛んできて、そのゾンビの子ども達をグチャっと潰しました!!
あれは……ノノちゃんのゴーレムです!!
「しるかぼけ」
ノノちゃんは怒りを孕んだ声で言いました。エールちゃんがその行動に呆気に取られます。
一緒にゴーレムに乗ってる西蓮寺さんも、「ええ……?」とドン引きしながらそれを見てました。
「4ねんまえのハナシはしってる。しんせーきしどもにこどもがころされたやつ。あれはころされるよわいやつがわるい」
そう言ってノノちゃんはまた子供のゾンビをゴーレムでぷちっと潰しました。
「ノノはつよい。ころされない。おまえらみたいなよわくてしんだやつが、エールさまをうらむな」
おおう……過激派ようじょこわい。
えと、話についていけないので一旦整理します。
なんか4年前にエールちゃんのせいとやらで死んだ子達が出てきました。でも、あのときは神聖騎士が何かの策略で孤児院を襲ったんですよね。
魔王の贄とかよく分かりませんので一旦置いておきますけど、あのときエールちゃんは孤児院の子達の為に戦った末に死亡。その後、シャイナスさんに生き返らせて貰ったとかなんとか。
うん。エールちゃんは悪くないのでは? まぁ、私も話聞いただけなのでよく分かりませんが。なんか他によく分からない理由があったりするんですか? 部外者なのでよく分かりません!
さて、私達の見てる前でノノちゃんの容赦ない無双は続きます。子どものゾンビだろうが、関係なくぶっ潰していきます。
凄惨な光景です。それがドワーフ幼女のすることですか!?
私達は……見てるだけでした。
全部潰し終えたら、ノノちゃんは満足したように鼻をフンスと鳴らしました。
そしてゴーレムからぴょんっと飛び降りて、エールちゃんの元にトコトコ歩いて向かい、何かを期待するようにもエールちゃんを見上げました。
「ほめて」
「……あの」
「ん? だめだった?」
「いえ、貴方は正しいことをしました。……とても偉いです」
そう言ってエールちゃんはノノちゃんの頭をぽんぽんと撫でました。ノノちゃんは満足したように鼻を鳴らすと、再びゴーレムに乗り込みました。
エールちゃんが前を向いて言います。
「よく考えたら、別にあの子達が死んだのは私悪くありませんね。私はあのとき奮闘しました。全部あの子達が弱いのが悪いです」
「えええー……?」
「それにあの子達の中に当時私に石を投げてきた悪ガキがいましたし、私の立場に嫉妬して悪口言ってきた子もいました。あの恨みは覚えているので、シャイナス様の孤児院の子といえど正直そこまで思い入れないです」
あ、仲悪かったんですね。まぁ、エールちゃんはシャイナスさんの妹として特別扱いされてたみたいですし、まぁ嫉妬はされますよね。
そんな感じで、エールちゃんを狙った精神攻撃は普通に失敗しました。結局ノノちゃんが全部やっちゃいましたね……ようじょこわい
悪神はつまらないものを見るようにテンションを下げて喋りだしました。
「ア~ア、つまんない結果デスねぇ。もっと悲劇的な演出が出来ると思ったのに」
おお……残念がってます! なんかよく分からないですけど勝った気がします!
我々の勇気ある行動が悪神の邪悪な思惑を打破してしまいましたね!(←何もしてない私)
私は櫂の切っ先をフシイカヅチに向けて勝ち誇ったように言ってやります!
「悪神だか何だか知りませんが、あなたは三流の脚本家ですね! 私達相手にそう思い通りにことが運ぶとは思わないことです!!」
「何もしてないのにすごく偉そうですね、あなたは」
「こういう卑怯なことをするヤツは煽り倒してナンボです!」
よく分かりませんけど、エールちゃんの心の傷を抉ろうとしたのは許せません!
卑劣な敵はぶちのめしてやります!
我らのエールちゃんがね!!(他力本願)
悪神は明らかに気分を害したように舌打ちしました。
「コウなったら仕方が無いデスねぇ。つまらないデスが、もう切り札を出しましょうかァ……」
「何を……?」
「フヒヒッ、ワタクシの手駒の中で最強の切り札デスよォ。ドゥ・イルツでもコイツに敵う者はいなかった……」
フシイカヅチの右腕が、タクトのように振り下ろされます! そしてそこから黒い渦が生み出されました!
また自分は戦わないでゾンビ召喚するつもりですか!?
上空に浮いたまま高みの見物とは良い身分ですね!
「ですがチーちゃんは空気を読まずにいま攻撃します! くらえ! チーちゃんキャノン!!!」
私はフシイカヅチに櫂の先端を向けて、神気の光を球体にして発射します!
届け! 私のファーストアタック!!
ザンッ!
私の出した光の玉が、フシイカヅチに届く前に真っ二つに割られました!
ええっ!? あれ切れるもんなんですか!? 光ですよ!!
そういう物理法則無視とか理屈がよく分からないことはやめてください!!!
とんっ
軽やかに、人影が舞い降りました。
え、もう次のゾンビが召喚されたんですか? 召喚モーション早くないですか? 召喚キャンセルできないんですか? ズルじゃないですかそんなの!
その人影はゾンビとは思えないほど美しい容姿をしていました。
白雪のように白い肌。
カラスのように艶のある黒髪。
小柄な体格。
中性的な美しい顔立ち。
長身の太刀とその背に大弓。そして身に纏うのは、西洋鎧ではなく中世日本の大鎧。
まるで……歴史の教科書に出てくるような鎌倉武士の装いをした美丈夫がそこにいました。
え、ゾンビっぽく無いんですけど。なんかむしろ神々しい気もするんですけど、この人なんなんですか?
悪神フシイカヅチは得意げに嗤います。
「彼は『勇者クロウ』と呼ばれていましてねぇ。フヒヒッ、イーグレス神聖国では『聖骸』として、城の地下奥深くに眠っていたんデスよぉ!」
「ゆ、勇者クロウ?」
誰ぇ!? 誰なんですか!? 怖いよぉ!
ぜ、全然分かりません! この国の昔の勇者さんですか?
エールちゃんは言います。
「勇者クロウ……よりによって、なんて存在を……」
「知ってるんですかエールちゃん!」
「当然知っていますが、元々は彼もあなた達の世界から来た存在ですよ」
「あ、日本から来た転生者ってことですか。勇者ですもんね」
勇者=転生者。なんとなくそんな感じの法則の世界です。当然、私も勇者っぽいなにかとしてこの世界に転生したケモ耳幼女なので、私と境遇は同じですね!
つまり勇者クロウとかいう人は、元日本人。確かになんかめっちゃ鎌倉武士っぽい鎧着てますもんね。
「あなた達にとっては、別の名の方が知られてるかもしれません。たしか、元々の名は勇者クロウではなく……」
エールちゃんがその名を呼びます。
「『源義経』。別名、『九郎判官義経』。そこから取って、この世界では『勇者クロウ』と呼ばれるようになったはずです」
「え」
目の前にいる美丈夫が、源義経?
歴史の教科書にも載ってる超有名人じゃないですかーーー!!!
本当はここで結構シリアスに苦しむ筋書きを思い描いてたんですが、「ノノちゃんを連れてくる」ってルート選択をしたので自然とこういう成り行きになりました。
ノノちゃんは過激派です。のんびりした口調ですが、ララちゃんよりずっと過激派です。




