Lo207.悪神とエールちゃんといまいち空気が読めてないチーちゃん
どがーん!
ノノちゃんのゴーレムが闘技場への扉をぶち壊しながら開けました!
討ち入りじゃー!
テンションあげてくぞーー!!
うにゃーーー!!!
そんなことを叫びながら突入した私でしたが……
実際中に入ったら……そういう雰囲気じゃありませんでした。
闘技場の中央に見えるのは、黒いローブを羽織りおどろおどろしいドクロの仮面を被った謎の人物。
その身の周りをどす黒い魔障が覆ってました。
そして、そのドクロ仮面さんと対峙しているのは我らが特級聖女エールちゃん!
……なのですが。
エールちゃんは弱々しくその小さな背をかがめて、膝をつきながら肩で息をしていました。
どうしたんでしょう? こんな弱々しいエールちゃんは見たことありません……
「エールちゃん!」
私はゴーレムからぴょいんと飛び立ち、エールちゃんに駆け寄りました。
エールちゃんを支えるように抱きつくと、エールちゃんは杖を着きながらその軽い身体をふらふらと立たせました。
「……あなた、ですか……」
「はい、私です! 何があったんですか!?」
「……ちょっと、疲れてるだけです。支えは不要です」
そう言って私の手を払いのけつつも、やはりふらふらしていつもより頼りないです。
そこに、ぬめりとした男か女か良くわからない人物の声がしました。
「オヤオヤァ? 新しいお客さんデスかねぇ?」
声がしたのは空中にいるドクロ仮面からです。嘲るようなこの不快な感じは……はい、あれ絶対敵ですね?
私はドクロ仮面さんに向かってずびしっと人差し指を差しました!
「人に名前を尋ねるならまずは自分から名乗りなさいこの不審者!」
私が堂々と言い放つとドクロ仮面は少し固まり、首を傾げながら言いました。
「そもそもアナタの名前など尋ねてないデスねぇ」
「あれ? 今尋ねてませんでした? おかしいですね。用意してた台詞と噛み合ってません」
「おかしいのは貴方の頭です」
エールちゃんがそうツッコミます。
えーと、お約束の流れだとここでお互いに名乗りをあげるはずですが……まぁいいです!
ここで名乗りましょう!
「私はチーちゃんです! あなたは何者ですか!?」
「……」
「あ、無視された」
チーちゃん、ショックです。こちらが名乗ったのに不発。
ノノちゃんのゴーレムがガシンガシンと遅れてやってきて、そのドクロ仮面をにらめつけながら問います。
「おまえ、ドワーフのおーこくをほろぼしたやつだな。なのれ」
「ホゥ! アノときの生き残りデスか? これはタノシくなってキマシたねぇ!?」
あ、ノノちゃんには反応した。
カタカタと髑髏の仮面が嘲笑するように揺れます。
なんで私をスルーして話が進むんですか!?
ドクロ仮面は大げさな動きで大きく腕を広げます。黒いローブがバサリとひるがえりました。そしてその身からドス黒い魔障がシュウシュウと吹き出ています。
あのおどろおどろしい仮面の下は……もしかして、いやもしかしなくても人間ではないのかもしれません。
ドクロ仮面はカタカタとドクロを揺らしながら語ります。
「かつて死した女神の身体より『それ』は産まれた…… 」
どこか酔ったように言うドクロ仮面さん。悪役の語りパートに入りましたね。
ここは口を出さずに聞いておきましょう。
チーちゃんは良い子なので。
「頭からは大雷、胸に火雷、腹に黒雷、陰部に裂雷、左手に若雷、右手に土雷、左足に鳴雷、右足に伏雷……
『八雷神』
女神の死体より産まれ堕ちた8柱の悪神」
語る度に発せられるどこか恐ろしいゾワゾワする雰囲気。その中で朗々と謳うようにそのドクロ仮面が語ります。
「ワタクシは女神の右足から産まれた……大いなる女神の僕にして、この世に混沌をモタらす悪神【伏雷神】デスよぉ!」
ごぉっ!
その名乗りと共になんかすごい【神威】が発生し、ノノちゃんと西蓮寺さんが声も出せないくらい圧倒されます!
エールちゃんは杖をつきながら、ギリギリと歯を食いしばってました!
私? 私もなんか頑張ってます! 耳がペタンってなりましたけど!!
にゅわー!!! すごいプレッシャーだーーー!!!
「なんか貴方は余裕そうですね……」
「えっ? そんなことないです! 結構がんばってます!」
何故かエールちゃんに疑いの目で見られました。みゅう、私はこんなに頑張ってるのに……
そしてフシイカヅチ……やはりあのドクロ仮面は悪神でした! ハルテンで倒した、オオイカヅチと同じ八雷神!!
このゾンビパニックを起こした元凶もたぶんあのフシイカヅチが原因でしょう!
私はそう推測します!
「フシイカヅチ……不死者を操るから『不死雷』というわけですか!」
「いいえ、雷雲に伏して潜むから『伏雷』です……」
「あ、そういう意味だったんですか」
エールちゃんがふらふらになりながらも返事をします。
「というかエールちゃん、なんでそんなしんどそうなんですか?」
「それは……結界を維持しているからです」
「結界?」
「周りを見てください」
私は闘技場をぐるんと見ます。あ、この闘技場のグラウンドと観客席の間に半透明のバリアみたいなのがあります。
これが結界ですか……私達が試合していたときよりずっと光が強いです!
「観客席には戦えない人達がいます……私は悪神を結界の中に閉じ込めましたが、私が結界を解くとこの会場にいる人達はすぐに死ぬでしょう。あの悪神の【神威】を浴びて、平気でいられるものはいない……」
「確かにここにいるだけでなんかプレッシャーすごいですもんね」
「貴方が言うとあんまりプレッシャーを感じてないように思えるんですが」
まぁ私は頑張ってますからね!
こう、どのくらい圧力を感じてるかというと、湿度の高すぎるむわっとした梅雨の教室くらいの感じです。
いるだけでつらいです!
「とにかく、あのドクロ仮面を倒せばこの異変は終了ということですね!」
「ですが……私は結界の維持をしながら戦うので、半分程度の力しか出せません」
「きっと大丈夫です! 頑張りましょう!!」
まぁ大丈夫かどうかは分かんないんですけど。でも、戦うしか無いじゃないですか。
「ところで結界の外の民衆は無事なんでしょうか? ぼやけて良く見えませんし、やたらと静かなのが気になるんですが」
「混乱して騒がしいので私が神威を放って大半を気絶させました」
「それなら良かったです。懸念は消えましたね。あとはあのドクロ仮面を倒すだけです!」
私は先っぽの欠けた櫂の先端をずびしっと悪神に向けます。開幕ホームラン宣言です!
悪神のドクロの仮面がぐにゃりと不自然に曲がり、カタカタと笑いだしました。うひゃー怖いです!
「フヒヒッ! いいデスねぇ? どこの誰かは知りませんがァ……」
「さっき名乗りましたよね……私はチーちゃんです! エールちゃんの友達です!!」
「友達だったんですか貴方……」
「私達、友達じゃなかったんですか!?」
エールちゃんは困惑したように言います。え、1ヶ月暮らしててすっかり私はエールちゃんを友達だと思ってましたよ?
エールちゃん的には違うみたいで、ちょっとショックです!
「フヒッ!……その余裕……コレでも保てますカネェ?」
ニタリと嘲笑うフシイカヅチが、その手を指揮棒のように振り下ろします。
地面に黒い渦が現れ、その中からズルリとゾンビの集団が出てきました。
そのゾンビ達は……小さい?
子どものゾンビでしょうか?
強そうにも見えませんが、そんなものを召喚してどうするつもりでしょうか?
エールちゃんはそれを見て大きく目を見開きました。
「この子達は……もしかして……」
エールちゃんの様子がおかしいです。ただの弱そうな子どものゾンビなのに、何であんなにびっくりしてるんでしょうか?
悪神は嘲笑います。
「フヒヒッ! 気付きましたかァ!? この子達は、4年前死んだ子達デスよぉ!! 貴方が特級聖女になる契機となったあの事件デス!!」
4年前の事件……?
それは一体……?
エールちゃんはポツリと感情の抜けた声で言います。
「あの子達は……かつてシャイナス様が預かっていた孤児院の子ども達。私が救えなかった子達です」
2025年も終わりですね……
途中失速しましたが、来年は加速していきたいですね!!
がんばれ来年の私! がんばれ!!!
今年の私はここまでのようです……私の仇を取ってくれ……!!!
ところで報告です。
『この本を盗む者は』って映画がめっちゃケモ百合で良かったので観に行ってください!
今年の個人的ナンバーワン映画です!
ただ……上映館少ないです!
上映期間も短いです!
観に行ける人は観に行ってください……
これが今年の私の遺言です……ぐふっ(死亡)




