Lo202.異変、風雲急を告げる
ふにゅ。本日予定されていた全8試合が終わりました。
二回戦以降の続きは明日あるそうです。
今の時刻は16時。ファンタジーな異世界に時計とかあるの?とか思うかもしれませんが、普通にあるのです。この世界は1日24時間ですし、現世と時間感覚はほぼ一緒です。
他にも現世とこの世界で何故か共通している概念とかたくさんあるので、そこらへんの細かいところは気にしちゃ駄目です。メートル法とかも普通に使われてますし。きっと転生者かなんかが伝えたんでしょう。
尚、ヤードポンド法は伝わっておりません。ヤーポン死すべし。慈悲はない。
闘技場では今も試合のリプレイや解説とか行われていたりしますが、メインの試合が終わったということで帰るお客さんもそこそこいるようです。
日が暮れるにはまだ時間があるので、私は会場外の屋台を見て回ってます。何故かドワーフ幼女のノノちゃんに抱えられながら。
私の抱き心地が気に入ったのでしょうか? でも私の中身は28歳なので犯罪ですね!?
私にとってはご褒美と言える状況ですが、ドキドキするのは幼女への裏切りだと思って我慢してます!
その情動は後で絵を描くことで発散しましょう!
今は私と西蓮寺さんとララちゃんノノちゃんの4人で連れ立って歩いてます。
エールちゃんは仕事がまだあるので同行せず。魔法少女コンビは2人ともどっかに行ってます。デートですかね?
私達は屋台のクリームたっぷりの大きなパン(マリトッツォみたいなの)をモフモフ食べながら、人混みの中を歩いています。
西蓮寺さんが弱音を吐きます。
「……人が多い……酔う……」
「あなた都民ですよね? そんなんで東京でよく暮らしていけましたね。電車とかどうしてたんですか?」
「送り迎えあったし……」
「このブルジョワめ」
西蓮寺さんはお嬢様なので車で送迎してもらってたみたいです。まったくもう、お金持ちはこれだから困りますね。
西蓮寺さんは人混みの中、よたよた歩きでララちゃんに腕を引っ張られながら歩いてます。介護かな?
ララちゃんがある屋台の前で止まって指差しました。
「あったわ! あそこにララ達のグッズが売ってるのね!!」
「おー」
「あそこが……」
並んでいます。めっちゃ人が並んでいます! 大繁盛です!!
そこはエールちゃんの孤児院のみんなが運営してる屋台。
そこでは主に私の描いたイラストをグッズ化して売ってます!
「すごく人気……」
「おお……結構高めの値段設定にしたんですけど売れるもんですねぇ」
まぁこういうお祭りのとき、ここでしか売ってないものを見かけたら人は財布を緩めてしまうものです。
オタクである私はそういうのを分かっています。
尚、グッズの権利使用料として売り上げの1割がイラストを描いた私に入ります。そこはちゃんと手作りの契約書を交わしましたので。
こういうのはただのボランティアにするつもりはありませんよ。子供たちが勘違いするといけないですからね。これも社会勉強です。
そして儲かったお金で……孤児院の幼女達に貢ぎます! 永久機関の完成ですね!
「ちなみに何売ってるの?」
「キャラグッズです。アクスタ、キーホルダー、シール、サイン入り色紙……」
「あれだけ並んでるってことは、ララちゃんとノノちゃんがそれだけ人気なんだ……」
「あ、西蓮寺さんのグッズもありますよ」
「えっ」
グッズとして用意したキャラは、エールちゃん、ノノちゃん、ララちゃん、西蓮寺さん、きなこちゃん、ルナ子ちゃん、私の7人です。
売れ行きでそれぞれの人気が分かってしまうの怖いですね!
「な、なんでそんなことしたの!?」
「ふっ……この世界に肖像権はありませんからね」
「う、訴えてやる! 訴えて勝ってやる!」
「エールちゃんの許可付きなので私が勝ちます」
「敗北不可避」
このキャラグッズ販売は人気取りの一環でもあるんですけどね。絵というのは、やはり分かりやすくコンテンツ力が高いです。
周りに敵だらけのエールちゃん陣営の支持率を伸ばす為には、こういったことも必要だと思いましてね。
私にはこういうことしか出来ませんし。むしろ冒険者よりこっちが本業ですし。
「まぁ、そうは言っても一回戦で負けてたらそんなに人気出なかったですし、とりあえずみんな勝ってひと安心というところですか」
「最強のララ達が負けるはず無いだろ」
「まけぬー」
かわいい。
しかしこの子達の次の対戦相手が勇者高橋くんなんですよね。もし勝ったら番狂わせになってとても面白いですけど、まぁ大抵の予想家が勇者が勝つと思ってるようです。
「あ、そういえばさっき入口でチラシ配ってましたよ」
「チラシ?」
「なんか明日の試合の特集?みたいな。広報誌ってやつですかね? 1回戦を経て私達の評価が書かれてるんですよ」
「見せろー!」
「ろー」
みんなから催促されたので、私が貰った広報誌を広げます。
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【特集!聖王御前試合!2回戦出場全8チームの評価は?】
『勇者と聖女』【評価:S】
異なる世界から現れた勇者と聖女のチーム。一回戦では実力の半分も出しているように見えず、余裕の完勝。今回ダントツの優勝候補。
『エールの子供たち』【評価:B+】
今大会のダークホース。高い魔力を持つが、始動の遅さに難ありか?
魔法使い2人というバランスの悪いタッグだが、優勝候補の勇者チームにどれだけくらいつけるか。
『急造で作ったコンビなんだが』【評価:A】
それぞれがAランク冒険者級の実力を持つ超実力派のルーキー。急造ゆえにコンビネーションに課題はあるが、優勝候補の一角といえるだろう。
『リュミエールA』【評価:B】
派手な戦いに見えたが、さほど強くなさそう。何かの魔法を使っているようだが、魔力は感じることがないほど低く、一回戦勝ち上がったのはマグレと見るべきか。
『神聖騎士マルタ&ディオサ』【評価:B】
神聖騎士3チームの中で最も弱そうと思われていたが、唯一生き残った。意外な伏兵か。特に強調するべきところはないが、立ち回りのバランスが良い。
『疾風迅雷ですわ♪』【評価:B+】
速さだけなら勇者と並ぶ女冒険者2人のチーム。経験は浅いが素質は十分。次世代の主役なるか?
『HUNTER×HUNTERが連載終了するまで死ねない部』【評価:A】
重戦士と魔銃使いのチーム。攻守ともに強く、遠近ともに万全。コンビネーションも良く、隙がない。ただしチーム名が意味不明である。何かの暗号だろうか?
『リュミエールB』【評価:C】
魔女1人のワンマンチーム。ケモ耳幼女はただの賑やかしだろう。優勝候補の一角である『神聖騎士エクセル&ワート』を下したが、ネタが割れた2回戦以降は厳しい戦いになると思われる。
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その広報誌を見て、ララちゃんが憤慨します。
「ララ達が評価B+だあ……? SSSだろどう見ても!」
「えすえすえすー」
「私達なんて評価Cです! 一番低くないですか?」
「ん? それは妥当な評価だろ?」
「草」
まぁ、侮られてる分には別に構わないんですけどね。実際、西蓮寺さんのワンマンチームなのはその通りですし。
「しかし勇者くんが評価Sで、きなこちゃん達が評価Bですかぁ……これは忖度記事ですね」
「そんたくってなんだ?」
「聖王派に都合のいいように書かれた記事ってことですよ。マグレで勝ったとか書かれてますけど、ぶっちゃけ試合内容はきなこちゃん達の圧勝で負ける要素無かったですよね」
「……きなこも月子も強い。それが分からないなんて記事を書いたライターが馬鹿」
「だから忖度記事なんですよ」
西蓮寺さんは怒ってますが、まぁマスコミなんてこんなもんです。勇者高橋くんの塩試合も、印象操作をすれば『実力の半分も出していない余裕の勝利』みたいな感じになるんでしょう。
でも、きなこちゃんはあの試合を見て、『パワー自慢相手にパワー勝負を避けた』と分析しています。実際、あんだけマッチョのムキムキ相手にパワーで勇者が打ち勝つところを期待した観客も多かったんじゃないでしょうか?
「それに試合の盛り上がりはノノちゃんとララちゃんがとても良かったですよ。きなこちゃんも横綱相撲って褒めてましたよ」
「おお……見る目あるじゃないか! ヨコヅナってのは良く分からんがな!」
「よこづなー」
幼女二人のタッグは文句なしの良い試合だったと思います。迫力ありましたしね。試合後のマイクパフォーマンスも挑発的で実に良かった。そして可愛かった。
「一方、私達の自爆試合は会場が静まってて草生えた」
「何人か『これは酷い』って言ってたのが聞こえた気がします。まぁ酷い試合なんですけど」
まぁ、私達のはぶち壊し度がすごかったですからね。クソゲーよくない。
あまり顰蹙を買うようなら、適当なところで負けましょうかね?
ノラノラコンビか魔法少女コンビのどちらかが優勝することを期待します!
そんな感じで、私と西蓮寺さんはノラノラコンビとイチャイチャしてました。
……そのままお祭り気分を楽しめて終わったら、どんなに良かったでしょう。
ぽんぽん。
唐突にノノちゃんが私の胸を叩きました。
抱えられたままの私はノノちゃんを見上げます。
ノノちゃんは空を見上げてました。
「ん? どうしましたか?」
「そら、くらい」
空、暗い?
……ホントです。いつの間にこんなに暗くなったんでしょう?
まだ午後4時過ぎたくらいで、日暮れには早いと思うんですが……
「ぬめぬめ……いやな……かんじ……」
「嫌な感じ……ですか?」
ノノちゃんが妙なことを言い始めました。ぬめぬめで嫌な感じとは……?
疑問に思っていると、確かに嫌なぬめってした風が吹きました。
突然、衣を裂いたような悲鳴が上がります。
濃厚な血の匂い。そして腐った肉の匂いがします。
ララちゃんが西蓮寺さんの袖を引っ張ります。
「ねぇ、なんなんだこれ……?」
「……え? え?」
何が起こったのか分からず、困惑している西蓮寺さん。
ざわめきが大きくなり、何かに気付いた人が慌てて逃げ始めました。
誰かが走りながら必死に声を上げます。
「ゾンビだ! ゾンビが出たぞ!!! 速く逃げろ!!!!」
え、ゾンビ? どうして?
ここ街中ですよね??
「さ、西蓮寺さん! 様子が分かりません! 私を肩車してください!」
「わ、わかった……!」
逃げる人たちの津波の中、私は西蓮寺さんの肩に乗り、あたりを見回します。
そこには人々に襲い掛かるゾンビやスケルトンの大群がいました。
まるでパニック映画の始まりを告げるように、私達はその異変に巻き込まれていくのでした。




