Lo189.私はエールちゃんのお姉ちゃんじゃありません!
黒い鎧の集団が孤児たちを襲った事件の顛末ですが……
孤児院にいた孤児たちは死に、私達を襲った黒い鎧の騎士たちも……全員死んだそうです。
口封じに殺されたのかもしれません。
孤児たちを襲った犯人の証拠は何も無くなり、潔白を証明することも出来なくなりました。
世の中では英雄視されていた【黒陽騎士団】の名声は地に堕ちました。
そしてシャイナス様が力を喪ったことで、新たなる特級聖女が選定されることになりました。
特級聖女に選ばれる為には儀式があります。
【聖湖の迷宮】。
聖女の中で、その最も深層に辿り着いた者が次代の特級聖女となります。
シャイナス様はあれから容態が思わしくなく、ベッドから起き上がることもつらそうでした。
ガイナス様がシャイナス様の様子を付きっきりで見ていました。
「シャイナス様、ガイナス様。私は特級聖女になります」
私は二人にそう宣言しました。返事の出来ないシャイナス様の代わりにガイナス様が言いました。
「……そうか。お前は戦うことを選んだか」
「止めないんですね」
「俺にお前を止めることは出来ない。何故なら俺も同じ気持ちだからだ」
ガイナス様は苦しそうにしているシャイナス様を見つめながら、そう言いました。
「……今の私には力があります。以前とは比べ物にならない力が」
「ああ……見ていれば分かる。そうか、シャイナスはお前に与えたのか」
「……はい。特級聖女の力。シャイナス様が、私の命を救った。おそらくその奇跡と共に……私に力が移った」
私は自分の中に新しい力が宿ったのを感じていました。
シャイナス様の持っていた力。そのほとんどが私のものとなりました。
かつては魔障の出る体質でしたが、今はその身は神気に満たされていました。
私は、本物の聖女になったのです。
「特級聖女の力。当初はシャイナス様に返そうとしましたが……この力は自分の命と深く結びついていることが分かりました。
おそらく、私の命を絶たなければこの力はお返しは出来ないでしょう」
「……馬鹿なことを考えるのはやめておけ」
「分かっています。シャイナス様が、このようになってまで救ってくれたこの命……私は無駄には出来ません……」
……ですが、いつかこの力は返すときが来るでしょう。
でもそれは今では無い。その言葉は胸に秘めておきました。
「……現在の聖女の最高到達深度は65階層。それも神聖騎士団を伴っての記録だ。そしてこちらは今、黒陽騎士団を使えない……その状態で、お前に試練を越えられるか?」
「越えられます。私にシャイナス様の力が宿っているなら」
「出来れば俺も同行したいが……」
「必要ありません。そこで待っていてください」
「……すまない」
シャイナス様は立ち上がれないほど弱っていました。そして、この城の中枢は政争の真っただ中。貴族たちは互いに暗殺を仕掛け、また暗殺に怯えていました。前特級聖女とはいえ、未だに民衆の人気の根強いシャイナス様は身柄を狙われる恐れがありました。
黒陽騎士団は解散させられ、手元に使える戦力は乏しい。その中でシャイナス様に何かあってはいけません。最も信用でき、最も強い御方はガイナス様のみ。
彼ならきっと、シャイナス様を護ってくれるでしょう。
「では……行ってきます」
私はたった一人で、【聖湖の迷宮】に潜ることにしました。
そして一人で90階層まで到達し、誰にも文句を言わせない実績で次代の特級聖女に選定されました。
_________________
そこまで語り終えると、エールちゃんが一息つきました。
「私が特級聖女になった経緯はこんなところですが……」
……凄絶な過去です。聞くに堪えない、そんな悲しいことも淡々とエールちゃんは話しました。
というかさらっと語ってますけど、単独で90階層とかバグってないですか?
ルナ子ちゃんは涙を浮かべながら沈痛な面持ちで聞いてました。西蓮寺さんは……ドン引きするくらいめちゃくちゃ泣いてます。
「その後、なんとか身体を持ち直したシャイナス様は二級聖女になってからも細々と活動を続けましたが……色々あってガイナス様が王族を殺して指名手配になり二人は国外逃亡をすることに……」
「なるほど、色々あったんですね……」
「そこらへんの経緯は……まぁいいでしょう。あれは殺されて当然でした」
「な、何があったんですか?」
「ガイナス様の逆鱗に触れる行為があったということです」
いや、怖いんですけど! 一体何があったんですか!?
「……聖王派ゆるせない。エール様をこんなに虐めるなんて……」
「あ、当時の聖王派のトップのほとんどは大体政争でお亡くなりになりました。今の聖王派は別勢力です」
「え、何があったんですか?」
「色々です」
「色々……?」
「そうですね……聖王派についた【六聖】の半分が亡くなったり、王弟派が実権を握り粛清の嵐が起きたり……色々です」
本当に色々あったんですね……というかそれもガイナスさんやエールちゃんが何かしたんじゃ……? と勘繰ってしまいますが。
「当時の復讐はほぼ終えているので、その件に関しては禍根は無くなったと思います。現聖王派とも旧聖王を追い落とす為に一時的に共闘しましたし」
「……そうなの?」
「まぁ、現聖王派が王族殺しの罪を全てガイナス様に被せて指名手配したのは酷い裏切りでしたが……おそらく彼らはガイナス様を恐れたのでしょう。【六聖】の2人を討ち取ったのが彼ですからね」
「え、ガイナスさんってそんなにめちゃくちゃ強いんですか?」
「強いです。私も旧聖王派についた【六聖】の1人を討ち取りましたが……彼にはまだ及ばないかと」
えと、確か【六聖】ってイーグレス神聖国最強の6人ですよね? それを討ち取ったって……ガイナスさんとエールちゃんはそれより強いってことですか?
「というわけで、国を逃亡することになったお二人の代わりに私が特級聖女として頑張っているのですが……なかなか上手くいきませんね。現聖王派はあれでもやり手のようでして、私は徐々に勢力を削られていって、今では味方がほとんどいません」
「それでエールちゃんは孤軍奮闘状態だったんですね」
「情けない限りです。シャイナス様なら、こんなことにはならなかったでしょう。あの人は本当に人望があったので」
「たしかにシャイナスさんは人気ありそうですね……」
人望ですか……まぁ、直球の暴力装置のエールちゃんには酷なことでしょう。裏工作も苦手っぽいですし。
西蓮寺さんが共感して泣いています。この人も大概ぼっち体質っぽいですからね。
「……私がそれでも特級聖女でいるのは、お二人を待っているからです。それに、守りたいものもあります」
「守りたいもの……?」
「この国の上層部は腐っていますが、子ども達には何の罪もない。私はかつてのシャイナス様がそうしたように、国の犠牲になる子ども達を守る為に孤児院を建てるなどの活動をしています」
「おお……エールちゃん偉いです!」
「シャイナス様の真似事です。私は彼女に特級聖女としての在り方を学びました。それに私は……あの方の妹分ですから」
エールちゃんが語り終え、一息ついたところで西蓮寺さんが泣きながらエールちゃんに抱きつきました。
「うぅ、エール様は私が護る……!」
「……ならもう少し強くなってください」
「強くなるぅ……絶対まもるぅ……エール様は私の妹だから……」
「あなたの妹じゃありません」
西蓮寺さんはそう言いました。ルナ子ちゃんも鼻水をすすりながら言います。
「うぅ、頑張ったね。これからは私もいるからね」
「頼りにしてます」
「私をお姉ちゃんだと思っていいんだからね……」
「私はあなたの妹じゃありません」
ルナ子ちゃん。お前もか。まぁこの2人は元々絆されていたようですし、さもありなんって感じです。
きなこちゃんは2人と違って泣いてませんでしたが、自信満々に言いました。
「わが妹、私を頼れ。このニンジャが全て倒してやろう」
「マイシスターではありません。戦力としては期待してます」
うん、変なノリになってしまいました。私も乗るべきでしょうか?
……いえ、違いますね。
私はエールちゃんに言います。
「私はエールちゃんのお姉ちゃんではありません!」
「……え、あ、はい。それはそうですね」
「だからエールちゃんを救えません!」
私が堂々と宣言をすると、エールちゃんが困惑してました。まぁ、最後まで聞いてください。
「……私はエールちゃんを助ける気でいます。ですが、あなたを救うのは私ではありませんし、ましてや勇者じゃありません」
「……どういうことですか?」
「今の話を聞いて確信しました。エールちゃんを救うのは、シャイナスさんとガイナスさんの役目です! だから絶対に私はエールちゃんと2人を会わせます!!」
私はエールちゃんの話を聞いて思いました。これは全部シャイナスさん達のせいです。こんな可愛い妹を1人残していくなんて……
まぁ、1人でも結構たくましいような気もしますけど。
でも、私はエールちゃんにシャイナスさん達を合わせたいです!
エールちゃんは少し呆気にとられたような顔をしていました。そして私に尋ねました。
「……具体的に何か考えているのですか?」
「何も考えてません!!!」
そう言ったらほっぺたをつねられました。いひゃい
前聖王はガイナスさんとエールちゃんによって粛清済みです。そこらへんはあまり話さないエールちゃん。
【わかりやすい年表】
10年前?:エールちゃん生誕。
7年前:エールちゃん拾われる。シャイナスの妹になり、特級聖女を補佐する。
4年前:エールちゃん一度死ぬが復活。シャイナスが力を失い、エールちゃんが特級聖女になる。
2年前:ガイナスさん遂にキレる。その結果内乱が発生。旧聖王は死に、王弟が新聖王に就く。王弟派は途中まで共闘してたが、ガイナスを恐れ全部罪をなすりつけ指名手配に。
現在:エールちゃん勢力を削られつつ、孤軍奮闘中
ちなみにガイナスさんがキレた理由が、旧聖王がシャイナスさんをさらって手篭めにしようとしたのが決定打となりました。そりゃキレる。
エールちゃんと孤児たちを殺されたときもブチキレてましたが、犯人に繋がる証拠が無く、シャイナスさんも弱った状態では動けませんでした。
(余談)
黒陽騎士団の名前の由来は、『黒陽』を検索すれば分かります。




