Lo188.エールちゃんの過去③聖女の妹
私は怪我が治った後、特級聖女であるシャイナス様に見習い聖女として仕えることになりました。
神聖騎士団に狙われるかもと心配してましたが、清潔な服で着飾った私は、スラムにいた頃とは全く違う見た目をしていたらしく、バレる様子はありませんでした。
そもそも魔障を出す【呪いの子】は、あのとき討伐されたという情報が回ってきました。どうやら私は死んだことになっていたらしいです。
魔障は相変わらず出る体質でしたが、シャイナス様が抑えてくれているおかげかある程度コントロール出来るようになりました。これで人前で魔障を出すことは無くなりました。
ある日、シャイナス様が大量の書類に埋もれて泣き言を言っていました。
「書いてることが全然わかんないでよ~!」
情けない声を上げながら机に顔を突っ伏す彼女を、私とガイナス様は冷ややかな目で見てました。
「……もしかしてシャイナス様ってあまり頭が良くないんですか?」
「いや、悪いとは言わんが……昔からどうも直感タイプでな……」
「地頭は良いって言われるタイプでよー」
「それ多分あんまり良くないやつですね」
私はシャイナス様が投げ出した書類を読みます。
「どこが分からないんですか?」
「ぜんぶでよー。長々と文章が続いてて、何が言いたいのかさっぱりでよー」
「……要点を抜き出せばいいんですね」
私が書類の文章を精読し、長々と書かれてる文章から要点を箇条書きで抜粋します。
「……つまりこういうことですね、この書類は」
「おお……分かりやすいでよー!」
私が簡易的に書いたメモを渡すと、シャイナス様は喜びました。
ガイナス様もそれを見て驚いた顔を……いや、鎧で顔見えないですけど。なんで室内なのに兜被ったままなんですかこの人?
「……なるほど。3歳でこれか……頭が良いんだな」
「エールちゃんは天才でよー」
「天才というか……習ったこともないだろう。これは異常というべきか……」
ガイナス様が口にした「異常」という言葉にビクッとします。私は恐る恐る質問しました。
「……やはりどこか、おかしいんでしょうか。私は……」
「ああ、明らかにおかしい。エールは異常だ」
「そうですか……」
「いや、これは悪いことではない。むしろ好都合だ」
「……え?」
ガイナス様が言っている意味は分かりませんでした。「異常」というのは悪いことではないんですか?
「エールは自分が置かれている状況は理解しているか?」
「状況……とは?」
「シャイナスは特級聖女という特別な立場だ。こう見えても、イーグレス神聖国内でも重用されており、崇拝する者も多数いる。だからこそ今後、シャイナスがお前を妹と扱うことで妬みや諍いを招く恐れがある」
「……そんな……」
「そんなことさせとけばいいでよー」
シャイナス様は全く気にしない様子で言いましたが、私は彼女の重荷になりたくありません。
「なら……私は妹でなくても……」
「そうだな。お前を妹に迎えるにあたって何か『物語性』が必要だと思っていた。エールが3歳にして異常な賢さを持つというのは、その根拠になるか」
「どういうことですか?」
「初代聖女の話だが、彼女は生まれた瞬間に人の言葉を理解し喋れたという逸話がある。まぁ本当かどうかは眉唾なのだが……つまりは、だ」
ガイナス様はこほんと咳払いをし、本題に移りました。
「シャイナスはエールに『初代聖女と同じ才覚を見出し、義妹として引き取ることとした』……などというのはどうだろう?」
「おー、よく分からないけどそんな感じで良いでよー」
「よし、そういうことで決まりだな。伝手を使って広めてこよう」
「……え、ガイナス様?」
私は早速行動をし始めようとするガイナス様を引き留めようとしましたが、彼は言いました。
「エール。お前は異常だ。だがその異常性を隠すことはない。むしろ、どんどん出していけ」
「異常性を……隠すことは無い? そんなことをしたら、また迫害されるのでは?」
「お前が特別な存在であり続けることは、シャイナスのそばにいる為には必要なことだ。お前は、お前にしか出来ない役割をしろ。そして……その力でシャイナスを助けてくれると嬉しい」
「ガイナス様……」
「忘れるな。シャイナスがお前を引き取ったそのときから、俺はお前の兄でもある。お前がシャイナスといたいと願うなら、俺は全力を尽くす。兄として当然のことだ」
そう言ってガイナス様は出ていきました。シャイナス様はそれを見てぶーたれました。
「兄ちゃ……かっこつけすぎでよー」
「なんというか……厳しくて真面目そうな口調なのに……すごく甘い人ですね?」
「いや、兄ちゃはエールちゃんに内心デレデレでよ。うちには分かるでよ」
「……え、そうなんですか?」
私にはそのときは分かりませんでしたが……数日後、すぐにそれは分かることになります。
彼は部下の白銀の鎧を全て黒く染め上げ、【六聖】という地位の下に【黒陽騎士団】という特級聖女直属の護衛部隊を作ったのでした。
「エール。みな白銀の鎧ではなくなったぞ。これで怖くないだろう?」
「……やりすぎです、貴方は」
折しも、魔王が復活して隣国オ・ルフレンス騎士王国を滅ぼして3年。国内では難民の受け入れや魔物の大量発生などで世情は荒れていました。
そんな中、特級聖女シャイナス様とガイナス様の率いる【黒陽騎士団】の活躍は、人々の心の支えとなりました。シャイナス様は聖女として魔障に汚染された土地を次々に浄化し、ガイナス様は人々を襲う混沌魔物を次々と倒していきました。
『私が白銀の鎧を怖がるから』といったふざけた理由で発足された黒陽騎士団は、特級聖女の元で数々の混沌魔物を打倒し、その権威を強めていきました。それは、聖王直属の【神聖騎士団】の権威を脅かすほどでした。
2人の兄妹の活躍は世に知れ渡り、英雄譚のように語られるようになりました。
しかし、それを面白く思わなかったのは聖王派でした。
私が引き取られてから3年経ちました。これは私が6歳の頃の話です。
ある日、シャイナス様は外せない会合に出ることになりました。ガイナス様はシャイナス様の護衛として付いていき、私は特級聖女の部屋でお留守番をしていました。
特級聖女の部屋には特別な結界が張ってあります。それゆえに特に防衛は心配してなかったのですが……
突然、外で激しい爆発音と人々の悲鳴が聞こえました。
当初、私は部屋から出るなとガイナス様に厳命されていました。そこにいれば安全だからと。
しかし、聞こえてきたのは子供の声でした。
……実は、シャイナス様は私以外にも身寄りのない子供を預かり育てていました。私もその子達と会ったことは何度もあります。その子供たちは、シャイナス様の部屋よりほど近い場所に建てられた孤児院で暮らしていました。
……嫌な予感がしました。迷いましたが……私は自分の身の保身より、シャイナス様の大切なものを守ることを選びました。
私は外に出ました。
……黒い鎧の集団がいました。彼らが、武器を手に取り子供たちを襲っていました。
黒い鎧といえば、ガイナス様率いる【黒陽騎士団】以外にいません。
しかし、ガイナス様の【黒陽騎士団】がこのような暴挙に及ぶはずがありません。
私は理解しました。
これは罠だと。
ガイナス様の名誉を穢す為に、黒い鎧を着た集団が子供たちを襲ったのだと。
私は子供たちを庇う為に、黒い鎧の集団の前に立ちました。
……どこか見覚えがある連中でした。
そうです。あいつらは……私を殺そうとした、白銀の鎧の騎士たち……【神聖騎士団】でした。
私は必死に抵抗しました。
ですが当時、まだ今ほど強くなかった私は……彼らの槍に貫かれて、絶命しました。
……死の感覚は……暗い闇の中を彷徨うようでした。
あふれる血液。冷たくなっていく手足。動かなくなった心臓。
もう、全てが手遅れだいうことが分かりました。
……シャイナス様の守ろうとした孤児たちが、目の前で死んでいくのを見ました。
私はどうすることも出来ず……静かに目を閉じました。
……………暖かい光に包まれました。
この感覚は、二度目です。あのとき、シャイナス様に救ってもらったときに感じた光。
私は……暗闇の中を抜け出して、光の下に出てきました。
だんだんと……視界が戻ってきました。
「……いき、てる……?」
実感できない奇跡を目の当たりにし、私は呆然と呟きました。
いつの間にか、身体に暖かさが戻っていました。
その身を貫かれたはずの傷は塞がってました。しかし、流れた血の多さが物語っていました。私は、あのとき確かに死んだはずだということを……
「はぁ……良かったでよ……」
心の底から安堵するような声が聞こえました。私が最も信頼する……大好きな聖女様の声でした。
「エール……ちゃん……だけでも……たすかって……」
どさり。
人が倒れる音がしました。
シャイナス様が、倒れていました。
その身からは以前のような力強い光を感じることは無く。
……彼女は、私の命を救う代償としてほとんどの神気を喪いました。そしてその両目はもう何も映すことが出来なくなりました。
シャイナス様は、その日から特級聖女では無くなりました。
Q.孤児院の孤児はどうなりましたか?
A.殺されました
Q.孤児院に護衛や大人の人はいなかったのか?
A.殺されました
Q.エールちゃんは弱いのに何故わざわざ出てきたのか?
A.実はエールちゃんは既にそこらの騎士より強かったので、このとき一人で騎士を何人もボコってます。ここらへんを語らないエールちゃん。多分他にも語ってないことはたくさんありますが、本人的にはどうでもいいことなのでしょう




