Lo187.エールちゃんの過去②~ナス兄妹との出会い~
シャイナス様は献身的に私の看病をしてくれました。
白銀の騎士団に受けた傷は深く、シャイナス様が神気による治癒をしましたが治りも悪かったのです。
恐らくその理由は……この身体に宿した魔障のせいでしょう。
傷が治ろうとすると、身体から出る魔障がまとわりつくのです。
シャイナス様は聖女としての術で魔障を祓って治療をしてくれましたが……結局、片目だけはどうしても治りませんでした。
私は彼女に聞きました。
「それで……結局、貴方は何故私を助けたのです?」
「ん? 理由なんてないでよ」
「理由が……無い……?」
「強いて言うなら、目の前で泣いてる女の子を見捨てると後味が悪いでよ。そんなことをすると聖女が廃るってもんでね」
「泣いてる……? 私のことですか?」
「そうでよー」
私は泣いてなどいませんでした。だけど彼女は私が泣いてると言ったのです。
彼女の言うことは良く分かりません。
「それに、きみ可愛いでよ」
「かわいい? 私が……?」
「名前はなんてゆーの?」
「名前……いえ、知りません。私には名前を付けてくれる親もいなかったので」
「ふむふむ……それじゃうちが名前をつけるでよー」
シャイナス様はそう言って、頭をひねりながらうんうんとうなってました。
いえ、別に名前をつけてほしいとかそういうのを言ったわけではないんですが……
やがて彼女は思いついたように言いました。
「……エールちゃん」
「エール……?」
「うん。エールの意味は『応援』。皆を応援する。そして皆に応援される。そんな祝福されたような、素敵な子になってほしいでよ」
「応援……私が?」
「まずはうちがエールちゃんに応援を贈るでよ」
そう言って、シャイナス様は私の手を握りました。あたたかい手でした。
「エールちゃん……その身体に負った多くの傷を見ると、分かる。いままですごくつらい目にあってきたんだと思う。でも、その分これから幸せになる権利が……貴方にはある」
真剣な顔になって、彼女は言いました。その握った手が少し汗ばんでるなと思ってました。
私は生まれつき、魔障を出す体質です。人を不幸にする存在でしかありません。それを証明するように、これまで多くの人に嫌悪と侮蔑を浴びてきました。
だから、自分にもそんな権利があるなんて信じられませんでした。
「……幸せになる権利? そんなもの……私には……」
「うちが、エールちゃんのお姉ちゃんになるでよ」
「……え?」
「これからよろしくでよ。エールちゃん!」
意味が分かりませんでした。
彼女は見ず知らずの私の姉になると言ったのです。今でも意味が分かりません。
特級聖女の彼女が。この国の王と同等の地位にある彼女が。何の身寄りもない赤の他人の私を。
そのときの感情は、自分でもよく分かりませんでした。
泣いていたのか、笑っていたのか……でも、このときのことを思い出すと、今でもあたたかい気持ちになります。
シャイナス様は……生まれて初めて私に愛情を教えてくれた人でした。
彼女は私をぎゅっと抱きしめてくれました。少しばかり、力加減が強くて苦しかったのを覚えてます。
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エールちゃんの話をここまで聞いてルナ子ちゃんが呟きました。
「素敵な人だったんだね、先代の特級聖女様って」
「はい、そうですね。あの人はとても……」
「はい、シャイナスさんはめちゃくちゃ優しいですよ! なんか色々と親身になってくれましたし!!」
「……なんで貴方が答えるんですか?」
エールちゃんは私のほっぺをつねりました。心なしかさっきより強い力で。
い、いたいれふ~!
「さて、続きを話しますか」
「まだほのぼのターンは続きますよね?」
「はい。続きます」
そう言って、エールちゃんは続きを話し始めました。
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シャイナス様が私を勝手に妹認定したその後、私は聖女見習いとしてシャイナス様に仕えるという形になりました。
私は少し大きなサイズの聖女服に袖を通します。ボサボサで傷んでいた髪は整えられ、荒れていた肌もすっかり綺麗になっていました。
「見間違えるようでよ! エールちゃんかわいいでよー」
「かわいい……? 私が?」
「うん! 流石うちの妹でよ!」
「その、妹というのもよくわからないのですが。あなたは私の姉なのですか?」
「うん! お姉ちゃんでよー」
……分かりません。理解できません。
先日まで人間の最下層の扱い……スラムの住人であった私を妹にするなど。
私が理解に苦しんでると、誰かが扉をノックしました。
「入っていいか?」
「いいでよー」
シャイナス様が許可をすると、誰かが部屋に入ってきました。
それは白銀の全身鎧を着た騎士でした。
私はそれを見た瞬間、恐怖に襲われました。身体が震えます。
私を殺そうとした白銀の騎士団が、こんなところまでやってきたと思いました。
「シャイナスが怪我をしている子どもを匿ったと聞いた。大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫でよ兄ちゃ」
……兄ちゃ? 何を言っているのでしょうか? シャイナス様はもしかして、この白銀の騎士とグルなのでしょうか?
私はそう思うと、怖くなりました。
「む……怯えているようだが……」
「あー、この子、神聖騎士団に追われてたんでよ」
「そうか……例の子か。ならば怖いのはこの鎧、か……?」
彼はそう言うと、私に頭を下げました。
「怖がらせてすまない。私はシャイナスの兄で【六聖】の一人、ガイナスという。妹の護衛を主な任務としている」
「え……兄?」
「急用を思い出したので、この場は失礼する」
「あ、兄ちゃ」
そう言うと白銀の騎士はすぐに部屋を出ていきました。私に危害を加えることもなく……私を殺そうとしたあの白銀の騎士団とは違うのでしょうか?
翌日、彼はまた私を訪ねてきました。その鎧を真っ黒に染めて。
「……何故黒くなってるんですか?」
「俺はお前を怖がらせたくない」
「何故ですか?」
「お前はシャイナスの妹なんだろう? ならば俺にとっても妹だ。何故なら俺はシャイナスの兄だからだ」
「……どうして? 昨日会ったばかりですよね」
「兄とはそういうものだからだ」
ガイナス様は大真面目にそう言い切りました。彼はシャイナス様とは対照的で何でも真面目に語るのですが、真面目すぎて逆におかしいところがありました。
そこが少し面白くて、私も彼に少しだけ気を許すことにしました。




