Lo186.エールちゃんの過去~いきなりクソ重いです!~
エールちゃんは話し始めました。
今まで私達に話そうとしなかった自分の事情を。
私達は固唾を飲んで聞きます。
「私には……親は居ませんでした。物心ついたときには、スラムの隅でゴミを漁りながら過ごしていました」
あの……重いです。開幕から重いです。
いきなり天涯孤独からのスラム暮らし。
ここからどんだけ重い話が展開されるのか不安ですが……でもちゃんと聞かなきゃ駄目な気がします。
エールちゃん自身の為にも、私が彼女のことを知りたいんです。
「何故そうなったのか詳しい経緯は分かりません。ですが、親に棄てられた理由については見当がつきます。私には生まれながら疾患がありました。それは……身体から魔障が発生してしまうこと」
人間の身体から魔障が発生する……?
聞いたことの無い現象です。そういう病気もあるのでしょうか?
一方、西蓮寺さんは魔障というもの自体を良く分かってないみたいで、首を傾げています。え、貴方この一週間エールちゃんの仕事に同行してましたよね? その中に魔障の浄化もあったはずですが……もしかして何も分からず仕事してました?
なんか黒いモヤモヤしてるやつですよ。あれです。
「魔障は大地を穢し、水を穢し、魔物を発生させます。魔障に覆われた場所では人は住めなくなります。そんな魔障を生まれつき発生させる私は……悪魔の子、呪われた子と呼ばれて恐れられていました。
スラムの悪党すら私を恐れて近づかない。私は人の温もりも知らずに、ゴミ箱を漁り腐った食べ物を口にしてただただ生きてるだけでした」
「エールちゃん……」
聞いてるだけでつらい……!
幼い子供が、どんなに酷い環境で生きていたのでしょうか?
エールちゃんは怒りも悲しみもないように淡々と語りますが、かえってそれがつらいです。
「そして遂に討伐指令が出されたんでしょうね。白銀の騎士団が私を取り囲み、遠距離から魔法と矢を放って私を殺そうとしました。私はわけもわからずに逃げましたが、やがて力尽きて倒れてしまいました。片目を失ったのもそのときですね」
エールちゃんは自分の目が隠れてる方を指差しました。
片目を隠していたのはそんなことがあったからですか……
「とうとう死ぬ、と思ったところで暖かい光に包まれました。私はそのまま気を失い……気が付いたらこの特級聖女の部屋のベッドに寝かされていました……そこで、彼女に会いました。どこまでも優しい笑顔の人。先代の特級聖女のシャイナス様です」
そうして、エールちゃんはシャイナスさんとの思い出を語り始めました。
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──どうして私ばかりこんな目に遭うんだろう――
そう、気付けば私は恨んでいました。
自分の生まれを。生きて受け続けた痛みを。
私をこのように生んだ世界そのものを。
うじのたかった腐った飯を食べながら、いっそ死んだ方がマシだと思いながらも死ぬことが出来ず、私は苦しみながら生きていました。
人々は幼い私を無知な化け物だと思っていたようですが、不幸にも私は自分の置かれた境遇を正しく理解していました。投げかけられる罵声の意味も全て分かっていました。
悪意も、殺意も、軽蔑も、恐怖も、憐憫も……向けられる負の感情を、全部分かっていました。
私はこの世の悪いもの全てを投げつけられながら生きていました。
ただの一度も愛を感じたことも無く……そして遂には命すら奪われる。
私は……この世界に生まれるべきではない命だったのでしょう。
白銀の騎士団に襲われて命を落とす寸前の私は、彼女に拾われました。
シャイナス・K・キルロード。辺境伯の娘であり、イーグレス神聖国において最も強い神気を持つ特級聖女。
彼女の治療を受け、私は目を覚ましました。
「……何故、私を助けたのです?」
そう私が問うと、彼女は心底びっくりした顔をしました。
「しゃ、しゃべったでよ!?」
「……喋って悪いですか?」
「いや、キミふつーはそんな小さいのにはっきり喋んないんでよ。きみ3歳くらいでよ?」
「私は元々喋ることができます。私が喋ると皆驚きますが、そんなに悪いことですか?」
「いやー、なんとゆーか。別に悪いことでねーけど、大人みたいな口振りだねぇと思って」
「……子どもの口調なんて知りません。貴方こそ変な口調ですね」
「あははー、まぁよく言われるでよー」
そう言って彼女はからりと笑いました。
……そのような暖かい笑顔を向けられたのは、生まれて初めてでした。
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……エールちゃんが話してる途中ですが私は突っ込みました。
「あの……ちょっと待ってください。当時あなた何歳ですか?」
「3歳です。シャイナス様がそう言ってたので」
「えと、物心ついたときにはスラムにいたんですよね。何で教育も受けずにいきなり喋ってるんですか!?」
「それ昔からよく聞かれますけど……逆に私から言わせてもらいますが、他の人は何で出来ないんですか? 普通に喋れますよね?」
「普通はそんな喋れませんよ!? 3歳児幼女なんてあーとかうーしか言えません!」
「そうなんですよね。不思議です」
エールちゃんは喋れることを特に疑問に思ってない様子。
こういうところがなんというか……雑ですよね。
私の推測を述べます。
「たぶん、エールちゃん転生者なんじゃないですか? だから最初から喋れたと……」
「よくそう言われますね。記憶は全くありませんが」
「ふにゅう……ま、まぁいいです! 気にしないでおきましょう! 続きをどうぞ!!」
「はい、続きを話します。ふふっ……不思議ですね。あれだけ話したくなかったのに、貴方たちの反応が面白いのでなんだか話してて楽しくなってきました」
「いや、めちゃくちゃ悲惨な話でしたよね!? ここから良いことあるんですか!?」
「はい、安心してください。良いことだらけです。シャイナス様との思い出話なので」
エールちゃんは少し幸せそうな笑みを浮かべながら、話の続きをするのでした。




