Lo176.一方通行で帰れません。そしてアクセラレーターは一方通行では無く『加速器』って意味です。
目の前の黒い水晶の板にはご丁寧に【75階層】と書かれています。
これは……ええっと。
「この75階層って何なんですかね?」
「……もしかして、チーちゃん何かしたの?」
「って何で私なんですかー!?」
「草」
草生やしてる場合じゃないですよ! まったくもう!!
なんでこんなことになったんですか!?
みんなも触ってたんですから、きっとみんなにも責任があります!!!(責任転嫁
あたりを見渡します。どうやらここは小部屋みたいです。
魔物の気配はありません。安全地帯ってことでしょうか?
前後に扉があり、そこから先に進めるようです。
部屋の真ん中にはポータルクリスタルが浮いていますが、もう光っていません。
「……75階層ってやっぱヤバかったりするんですかね?」
「さっき入口で案内板見たけど、40階層からBランク以上推奨で、50階層からAランク以上推奨だって……」
「あいどんのー」
「……つまりこれは、私達の実力は既にAランク以上ということ」
「全然違いますよ!? 私達は冒険初心者で、強さはせいぜいGランクです!!!」
まぁ、転生者は強いらしいですし大目に見てEランクくらいかもしれませんが。私からすると全員まだ旅立ったときのユーくん未満に見えます。いや、分かんないですけど。
ユーくん、割と最初から雑魚相手には全く苦戦しなかったですからね。今思えば初心者のレベルじゃなかったです。
たぶん、ユーくん最初からCランクくらいの強さありましたね。ココッテちゃんはBランク。あの幼女達強すぎでした。
んで、こちらは『天恵』持ちとは言えポンコツ1人と『天恵無し』の2人。
今までろくに戦ったことも無い現代日本人の女子高生たち。
……どうしましょうかこれ?
「と、とりあえずクリスタルもう1回触ってみましょうか? 帰れるかもしれないですし」
「もう全然光ってないけど……」
「触ってたら光りますよ! さっきみたいに!!」
私達はポータルクリスタルに触れます。
ぺたぺた……つるつる……
あ、めちゃくちゃいい感触ですねこれ。ひんやりします。
…………5分経過。
「いやこれ全然光りませんね!?」
「判断が遅い(バシーン」
「グワーッ!? ってなんで叩くんですか!?」
「じゃすとびこーず」
むにゅう、こうなったら本気出すしか無いですね。
「私、ちょっと本気出しちゃいますね」
「今まで出してなかったの?」
「はい!」
「堂々と言うな(バシーン」
「グワー! ひどい、二度もぶった!」
困ったときは神気です。だいたい神気出しておけば解決します。
私は今までそうやって異世界をなんとかしてきました!
なんとかなれーーー!!
気合を入れると、身体の奥から光が溢れてきます!
神気の光です!
「チーちゃんが……光ってる!?」
「もしかして貴方が……穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士……?」
「はい、そんな感じです! うにゃああああああああ!!」
全然そんな感じではないですけど、そんな感じです!
スーパーチーちゃんモード!!!
クリスタルが光らないなら、私が光を注入します!!!
うにゃああああああああああ!!!
…………1分後。
「ぷしゅー……」
「死亡確認」
「何がしたかったのチーちゃん?」
「壮大に何も始まらなくて草生える」
……ぐふ。私は倒れました。ぱたんきゅー。
ぜんっぜん何も起きません。手ごたえが全くなし。これ以上やっても意味なさそうです。
クリスタルは全く光らず、何事も無かったかのようにたたずんでいます。
「ポータルクリスタルは結局使えないみたいだね……」
「一方通行……ということ?」
「にゅ……アクセラレーターの意味は一方通行じゃなくて加速器です……」
しかし困りましたね……ここからどうしましょう?
「で、どうやって帰ります?」
「進む一択。わんあんどおんりー」
「確かに80階層に行けばポータルクリスタルがあるだろうけど……」
「あえて戻るのは?……70階にもポータルクリスタルがあるはず。難易度も低い」
「どうなんですかねぇ。ちょっと戻りの扉開いてみます?」
「合点承知の助」
進行方向の扉は光ってみえます。つまりあれは開くってことでしょう……なんとなく。
さて、戻る方向の扉は……暗いですね。うみゅう、期待できそうにない。
私達は扉に手を当てます。
「せーので押しますよ。せーのっ!」
「よいしょー」
「ぐぬぬ……」
「Nuuum……」
4人がかりで押しましたがビクともしません。引くことも確認しましたが、同じく動かず。
私達はばたんきゅーと倒れました。
「……ぐふ、力じゃ無理そうですね」
「全然無理……」
一方、ルナ子ちゃんときなこちゃんがひそひそ話してます。
「どうするきなこちゃん。あれ使う?」
「ノー。ここであまりチャクラを無駄遣いしたくない」
「え、何か必殺技あるんですか? なら出してくださいよー」
「ヤダ」
ふにゅ、断られました。『チャクラ』とか言ってましたけど何なんでしょうか?
魔力や神気とは違うものなんでしょうか?
どちらにせよ、きなこちゃんは何か奥の手を隠し持ってることが分かりました。やはりただの『天恵無し』では無かったんでしょう。
「わっふるわっふる。先に進むぞオヌシら」
「え、75階層の先に進むって……?」
「80階層のボスを倒す。そして帰る。イージーモード?」
そうきなこちゃんがキメ顔で言い切りました。
か、かっこいい……無駄にキメている……!
西蓮寺さんはきなこちゃんに問いかけます。
「……勝算はあるの?」
「いぐざくとりー。この世界の魔物がどの程度かはシラヌが、試してみる」
「……分かりました! 良く分かりませんがリーダーとして信じます! きなこちゃんの言葉!!」
とりあえず、ここにずっといてもアレです。救助されるとは思えないし、晩御飯の時間に間に合いません。
もしかしたらエールちゃんが気付いて迎えに来るかもしれませんが……きっと待ってる間にお腹が空きます!
「進みましょう! そして80階層のボスを倒して生還しましょう!!」
「おー」「いえっさー」「うぐー」
だから返事バラバラですよ!
なんですか「うぐー」って!! 誰の返事ですか!?
私達は先に進むことにしました。晩御飯に間に合う為に。
……先に進む扉は光って見えます。ここから進めと言わんばかりに。
私が手を触れると、扉はギィィィとひとりでに開きました。
……ここからは危険地帯です。
紫水晶で覆われた洞窟の中。不思議なことに明かりは必要ないくらいの光量はあるのですが、先は暗くなっており見通しは悪いです。
ヒリついた空気が肌を刺すような感覚がします。まだ魔物は見えませんが……
きなこちゃんは何かを感じ取ったのか、ボソリと言います。
「……いる。ここから先に進んだところに1匹。ふぁっく」
「え、分かるんですか?」
「キルする。先頭はワタシ」
そう言ってきなこちゃんは前に立って進んでいきます。
まるで恐れを知る様子がありません。この子は一体……
ずしぃん、ずしぃんと重い足音が響きます。
紫水晶の洞窟の中。その奥に……
巨大な何かが、通路の先にいました。
身長10mほどの、緑色の肌をした巨人です。
その身体は厚い脂肪に覆われ、でっぷりと肥えています。
身体にはボロ雑巾のような布。そして武器は巨大な岩のような棍棒でした。
この異世界では初めて遭う魔物です。
思わず身震いするような……圧倒的な暴力を内包させてるような、そんな恐ろしい見た目でした。
「あれはいわゆる……『トロル』とかいうやつですかね?」
「ゲーム終盤に出てきて、HPと力がクソ高いやつ」
「いかにも強そうだね……大丈夫? きなこちゃん」
「無問題。むしろ好都合。サンドバッグにちょうどいい」
きなこちゃんは自信満々に先頭に立ちます。そしてすぃっとカラテのポーズを取りました。
「我がヒサツワザを受けるがよい。イヤー!」
そう言ってきなこちゃんは強そうなトロルに襲い掛かったのでした!




