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第30話:黄昏た街

 全てを終えた私達は湯屋から離れ、黄昏色に染まった街へと戻ってきていた。街に居る人々や妖怪などの現世から忘れ去られた者達は何事も無かったかの様に過ごしていた。

 しばらくの間歩き続けていた私達の前に一人の男性が現れた。それはこの街の創設者の一人であり、由紀さん達を作った神代テクノロジーの一人でもあるナオビさんだった。

「あっ、ナオビさん……」

「全て……終わった、のか?」

 私が答える前にユカリちゃんが口を開く。

「ん……もう、これで終わりだよ」

「そうか……」

「……旭ならそこの鏡に閉じ込められてる。多分もう出てこれないと思う」

 そう……きっともう出てこれない……。あの人は、アサヒさんは作られた存在だった。あの鏡は真実を写す。もしあのアサヒさんが本物の人間なら、あの鏡は反応しなかった筈。だけど違った。真実を写す鏡は、アサヒさんの存在を否定した。

「……これ、ナオビさんが処分してよ」

 そう言うとウエキさんはアサヒさんが閉じ込められた鏡をナオビさんに手渡す。アサヒさんが抵抗を止めたのか、それとも抵抗する事すら出来ないのか不明だったが、鏡はどこにでもある鏡の様に動かずじっとしていた。

「そうしたいが……もう私にはそんな技術は残っていない。ここに来た時点でそんな力は消えてしまったのだ……」

 その返事にコトヒラさんが答える。

「ナオビさん、それならあなたが管理していて下さい。二度と同じ事が起きない様に、永遠に管理して下さい。きっとまだ、彼女は諦めていない」

「ああ、そうだな……それがせめてもの償いだ……」

 ナオビさんは頭を下げる。

「すまなかった……年寄達のせいでこうなってしまった……あの時、組織が作られる時、私が無理やりにでも止めるべきだった……」

「わ、悪いのはナオビさんじゃないですよ……!」

「……まあ、確かに私を改造したのはあいつらだろうけど、サエが言う様にあんたは関係無いと思うよ?」

 そう……確かに神代テクノロジーの人達がやろうとした事は悪い事だ。だけど、それはこの国を愛していたからだ。日本が大好きだっただけで、やり方を間違っただけなんだ。心の底から悪い人なんていなかった……。

 頭を上げたナオビさんにサキモリさんが近寄る。

「……ナオビさん。まだ全ての脅威が去った訳ではありません。旭 照はその一つに過ぎなかっただけです。まだ人類が残した罪が数多く残っている」

「あの核兵器達の事か?」

「ええ。彼らは俺達を許していません。きっとこれからも許さないでしょう。全世界を核の炎で包むまで何度でも外に出ようとするでしょう」

 あの時私は能力を使ってあの核兵器さんを止めた。だけど、多分あれは一時的に止める事が出来たってだけなんだ。きっといつかまた……世界を滅ぼそうとする。

「それに彼らだけじゃない。今はまだ危険な兆候を見せている者は確認されていないが、きっと……また旭の様な者が現れます」

「そう……だな。今回がいい例だな。潜在的な脅威はまだあるという訳か……」

「少しで構いません。あなたの知識を貸してください。外の世界を守るために……」

「……ああ。ああ、勿論だ。それが果たすべき責務だ」

 二人の側に由紀さんが近寄る。

「ナオビさん」

「木船……」

「私もお手伝いしますよ。この街を統治する者として」

「ありがとう……」

「いいえ。それよりも、ここで立ち話も何ですし、どこかで座ってお話しませんか?」

 それから私達は由紀さんの勧める様に落ち着いて話せる場所として、ドードーさんのお店を選んだ。



「おかえりなさい」

 ドードーさんはそう言って私達を出迎えてくれた。その言葉はとてもシンプルなものだったが、私の心を安心させてくれた。

 奥の居間へと通された私達は畳の上に座り、これまでに起きた事を全て話した。旭さんがしようとしていた事、由紀さんが囚われていた事、そしてこの一連の事件で命を落とした者達の事を……。

「……囃子が、死んだのか」

「……ごめん。操られてたとはいえ、あんな事するなんて……」

「黄泉川、気にするべきではない」

 ハラエさんがナオビさんの言葉に同調する。

「そうだよ縁さん……あれは、本当のあなたじゃなかった……」

「形はどうあれ殺したのは事実だよ。花火は人間じゃなかったかもしれないけど、少なくとも生きてた。それなのに私は、殺してしまったんだ」

「ですが縁さん、あの時囃子さんを殺害していなければ、恐らくより厄介な事態になっていたと思われます」

 私が知らない所でそんな事があったんだ……。もっと早く合流出来ていれば、その囃子さんも助けられたかもしれないのに……。

「黄泉川、彼女は私が供養しておこう。もう神を作る技術は持っていないが、人を弔う方法位は知っているつもりだ」

「……ん、お願い……」

 湿っぽい雰囲気になり静けさに包まれた雰囲気を破ったのはナオコさんだった。

「……それで? これから私達はどうすればいいの?」

「どうするってどういう事?」

「あのさ由紀……私達はこの街の住人だから別にこのままここに居てもいいけど、そっちのサエは外の世界の人間なんでしょ」

「元の世界に帰す方法の事?」

「そう。サエがここに居たいって言うなら別に好きにすればいいけど、帰りたいなら帰すべきでしょ?」

 本音を言えば帰りたい……だけど、ここに居る人達には本当にお世話になったし、出来ればお別れをしたくない。きっとここで別れてしまったら、もう二度と会えない気がする。

「三瀬川ちゃん、どうなの?」

「えっとウエキさん……私は……」

 どうすればいいんだろう……ここに残るって言ったら皆迷惑に思うかな? それに私が戻らなかったら、私が居た養護施設の管理人さん心配するかな? それとももう忘れちゃったかな……。

「賽ちゃん、どうなのかな?」

「サエ、好きに決めていいよ。私はサエが出した答えなら、どんなものでも受け入れるから」

 私は…………。

「私は……帰ります。現世に」

「そっか」

 由紀さん達はホッとした様な表情で私を見た。皆その答えを望んでいる様だった。

 由紀さんがコトヒラさんの方へと視線を向けると、コトヒラさんは立ち上がり私に近寄った。

「三瀬川、もし帰るなら急がないといけない。君がここに来てどの位になるのか詳しくは知らないが、下手すると帰れなくなる」

「えっ、どういう意味ですか?」

「ここは忘れられた者達が集う街、黄昏街。そこにまだ忘れられていない人間が来たらどうなる?」

「えっと……忘れられる?」

「そうだ。そうなってもここから出る術はあるが、かなりの代償が必要になる」

 確かもう一人のウエキさんを捕まえに行った時に見た気がする。記憶が正しければ、確か何かを『忘れる事』だったかな? 何かを代償として忘れる事でここから出ていけるって話だったと思う。

「覚えてる三瀬川ちゃん? もう一人の私がやってたやつだよ」

「は、はい。でも忘れられる前なら普通に出ていけるんですか?」

「私の縁切りの力なら出来る。三瀬川とこの街の縁を切るんだ。そうすればここから出ていける」

 縁を切る……って事は、もうこの街には二度と戻ってこれないって事なのかな? もう二度と由紀さん達には会えないって事なのかな?

「そうなったら……もう二度とここには来れないんでしょうか?」

「……縁の力は未だに私にも分かってない。時折、切った筈の縁が再び結ばれる事がある。だから何とも言えない」

 コトヒラさんにも未知数って事なのかな……それじゃあ絶対に戻ってこれないって訳でもないんだ。

「……三瀬川、選ぶなら急いだ方がいい。いつ忘れられるか私にも分からないんだ」

 覚悟を……覚悟を決めよう。いつまでもウジウジしてちゃ駄目だ!

「分かりました。帰り、ます」

「……分かった。それじゃあ神社に専用の鋏を取りに行ってくる。それまで待っててくれ」

 そう言うとコトヒラさんは居間から出て外へと駆け出していった。それを見送った由紀さんは同じ家に住んでいるメンバーに声を掛けた。

「それじゃあ皆、私達も準備するために戻りましょう」

「準備……?」

「……由紀、意味分かんないだけど、何の準備?」

「おわかれ、じゅんび?」

「……由紀さん、予測ですが意味を理解しました。皆さん、一度戻りましょう」

 ヨシコさんは由紀さんの言った言葉の意味が分かっていない人達を後ろから押す様にして外へと押し出していった。結果、部屋に残されたのは私とユカリちゃん、そしてサキモリさんとナオビさんだった。

「三瀬川」

「えっ、何ですかサキモリさん?」

「少し散歩でもしてこい。金刀比羅はともかくとして、木船達は時間が掛かるかもしれないぞ」

「そうだな、気分転換に行ってくるといい」

 ど、どういう事だろう……どうしてサキモリさんは散歩に行ってこいなんて急に言い出したんだろう。別にサキモリさんやナオビさんを今更疑う訳じゃないけど、どんな意味があって……。

 そんな事を考えていると、突然ユカリちゃんが私の手を掴んで立ち上がった。

「行ってくる」

 ただそれだけを二人に告げると、ユカリちゃんは私の手を引っ張りながらお店の外へと飛び出していった。

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