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第28話:旭の罠

 私達は夜明けを迎える街を駆け抜け、由紀さん達が居る湯屋へと戻ってきていた。建物の構造自体は何も変わっていなかったものの、建物からは異様な輝きが放たれていた。

「ユカリちゃん、これ……」

「ん……そろそろここと現世が繋がろうとしてるのかも」

 だとしたらこのままじゃまずい……もし現世とここが繋がってしまったら、きっと私達が思っている以上の被害が出る……。

 由紀さんがアサヒさんと戦っていた庭へと向かうと、二人が向かい合って睨み合っていた。ミズキさんは庭にある池の中から顔を出し、二人の動向を見守っていた。

「戻ってきたんだね」

「なるほどねぇ? その神格を使って私を倒そうって寸法な訳だぁ?」

「あ、アサヒさん! もう終わりです! 諦めてください!」

 アサヒさんはまるで追い詰められた様な感じを一切見せず、クスクスと笑っていた。

「何がおかしいの旭……」

「気付かなかった訳じゃないでしょ? あなた達はあの家できっとあれを見付けた筈だけどぉ?」

「……あの過去、ですか?」

「そっ。私が仕掛けておいたんだぁ! あなた達二人があの家に一度に入った時に、その術式が発動する様にねぇ!」

 術式……? 何を言ってるの……? あれはただ私達を動揺させるのが目的なんじゃないの……?

 アサヒさんは両腕を広げ、笑う。

「さっ! やってみれば?」

 私の体が震え始める。

 何だろう……嫌な……嫌な感じがする。今ヒツケさまを使ってしまったら、何か良くない事が起こる……今の私達にはどうする事も出来ない様な事が……。ただの予感だけど……。

「サエ、待って」

「う、うん……何か嫌な感じがする……」

 由紀さんは少しの可能性に賭けてかアサヒさんに攻撃を仕掛けた。とても戦い慣れしているとは言い難い動きではあったものの、その攻撃はどれも急所に入っている様に見えた。しかしアサヒさんは全く効いていないかの様に笑いながら由紀さんの相手をし始めた。

 考えないと……もし、もしアサヒさんをここで殺してしまったらどうなる? この『夜明け』を止められるかもしれない……アサヒさんが居なければこの現象は止まる筈……。でも、だったらあんなに余裕そうにしてるのはおかしいと思う……どうしてそんなに余裕な顔で居られるんだろう? それにさっき言ってた術式っていうのもいったい……。

 その時、私の頭にある予測が浮かんだ。とても最悪な予測が。

「駄目だ……倒せないよユカリちゃん……」

「どうしたのサエ……?」

「そうだ……あそこ、家で見付けたあの過去は……私やユカリちゃん、由紀さん達のものだった……」

「それがどうかしたの?」

「あそこには、島田さんも居た。授業中に倒れちゃった島田さんが、あそこに居たんだよ……」

「まさか……」

 島田さんがあそこに居た。死んじゃってるかどうかも分からない島田さんが……つまり私かユカリちゃんは、島田さんを過去のものとして一回捨てたって事だ。実際に生きてるかどうかは関係なく、あの人を過去として捨てちゃったんだ……。

「もしヒツケさまでアサヒさんを倒したとしても、本当にそのまま終わりになるとは思えないよ……。ここは忘れられた存在が来る場所……忘れられたアサヒさんは『捨てられたもの』としてここにまた現れる気がする……」

 アサヒさんは不気味に笑いながら由紀さんの攻撃をいなしている。

「旭ぃーーーーっ!!」

 怒りに満ちたユカリちゃんの声が響き渡る。私でもこんな声は聞いた事が無かった。

「アハッ、気付いたんだねぇ。そう……あなた達に私は殺せない! 今あるこの縁を切ってしまえば、あなた達は私に触れる事も出来なくなる。ヒツケさまを使っても私を消す事も出来ない。私が『夜明け』を実行した時点で! 私の勝ちは確定していたのっ!」

 その直後、誰かが池に向かって上から飛び込んできた。どうやら最上階に居た誰かが飛び込んだらしかったが、あまりにも一瞬の事で誰なのかは認識出来なかった。

 池を見ているとミズキさんの体を下から持ち上げる様にしてその人は現れた。

「ハラエさん!」

 ハラエさんはこちらには視線を向けず、静かにアサヒさんを睨んでいた。

「あら? どうしたのかなぁ? まだ私に勝てるって思ってるんだ?」

 ハラエさんの体に引っ付く様にして池から出てきたミズキさんは、ハラエさんの体に巻き付いていた布を取るとフラフラとこちらに走ってきた。

「瑞希? どうしたの?」

「これ、とどける」

「ミズキさん、いったい誰に……」

「もってく。わたし、もってく」

 ミズキさんは私の問いには答えずにフラフラと走り、庭から出て行った。

 アサヒさんは由紀さんの体を不思議な力で吹き飛ばしたが、ハラエさんが由紀さんを受け止めた。

「大丈夫? ……由紀ちゃん……」

「うん、ありがとう祓」

「あははっ、水瀬さん逃げちゃったねぇ?」

「……」

 いや、そんな訳無い……ミズキさんは『もってく』って言ってた。きっと何か意味があるんだ。絶対に気付かれちゃいけない何かが……。

 ハラエさんは由紀さんを放すとアサヒさんに向かって真っ直ぐに歩き出した。その様は背が高いという事もあって、非常に威圧感を感じさせるものだった。

「まだやるんだぁ? 健気だねぇ」

 その発言の直後、ハラエさんの拳が放たれた。しかしその拳はアサヒさんに簡単に掴まれてしまった。

「あーあー……もうそろそろだよぉ。もうすぐ夜が明ける」

「無駄ですよ……あなたは負けるのです」

 ハラエさんがそう言った直後、何かがアサヒさんの真上から凄まじい速度で落下し、炸裂音の様な音を響かせ地面を吹き飛ばした。咄嗟に頭を守る様にして屈んだ私を由紀さんとユカリちゃんが守る。

 衝撃が止んだタイミングを見て顔を上げると砂煙が晴れ、地面に拳を当てているサキモリさんが居た。どうやらハラエさんはアサヒさんの動きを一時的に止めるために正面から攻撃したらしかった。

「今のはちょっぴり驚いたよぉ? 跡部君?」

「さっきはやってくれたな旭……」

「ふふっ……さぁ跡部君、天津罪さん? 私を殺せるものなら殺してみなよぉ?」

 二人は一度に攻撃を開始した。しかし、その攻撃は最初に見た二人の攻撃よりも動きが鈍っている様に感じられた。動きのキレが悪く、単調になっていた。

 二人共体に疲れが来てる……このままじゃ倒せない……何か、何か考えないと……。ヒツケさまを使って忘却させれば、アサヒさんは『捨てられた過去』としてまた現れる。由紀さんの能力が完全な状況ならもしかしたら行けるかもしれないけど、今のままだと……。

 由紀さんは姿勢を低くし、私と視線を合わせる。

「賽ちゃん。きっとこの後、賽ちゃんの力が必要になるよ」

「えっ?」

「本当はその能力は危ないから使って欲しくないんだけど、もうそんな事言ってられないみたいなの」

「由紀……どういう意味?」

「いい縁? 今からある物がここに届く……それが届いたら賽ちゃんを助けてあげて」

「言ってる意味が分からないんだけど……」

 由紀さんは戦っている二人の様子を振り返って確かめると再びこちらに顔を向けた。

「賽ちゃん、植木さんが今からここに来る。そしたらそれを合図に旭さんに触って能力を使って。後は縁、あなたの出番だよ」

「何をすればいいの……」

「ヒツケさまを旭さんに使って欲しいの。後は私達が何とかするから」

 何とかするって、どうするんだろう……植木さんがここに来るって……あの人は特殊な力は何も持ってなかった気がする。むしろここに近付かせたら危ない様な……。

「……ん、そういう事か」

「ゆ、ユカリちゃん、今ので分かったの?」

「ん、大体ね」

 どうしよう……由紀さんの策を信じない訳じゃないけど、私がアサヒさんに触らないといけないんだよね……。相手は大人の人で私はまだ小学生……私が触れるのかな……?

 不安に震える私の手を繋ぎ、ユカリちゃんは私の目を真っ直ぐに見詰める。

「大丈夫。サエは一人じゃない。私達が居る。どんな事があったって、私達は絶対にサエを見捨てない。絶対に、サエを守る」

「……分かったよ。私も皆を信じる……!」

 私とユカリちゃんは手を繋いだまま、ハラエさんとサキモリさんを相手にしているアサヒさんの方を向き、その時が来るまで待機する事にした。

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