第20話:再会の兆し
ドードーさんのお店に戻った私達はこれからどうするか話し合う事にした。
「……さて、こっからどーする?」
「一番の問題は旭。あいつをどうにかしないと、何も片付かない」
確かに旭さんがこの状況を作ったみたいだし、あの人を説得するなりしないとどうにもならないかもしれない。でも、真正面から行ってどうにかなるだろうか?
「あの……ちょっといいですか?」
「ん? どうしたの?」
「多分アサヒさんは正直には聞いてくれないと思うんです。だからまずはあの人……由紀さんを見つけないと……」
コトヒラさんが口を開く。
「三瀬川、その由紀っていうのはどんな人間? その人が居なくなってしまった原因は私にもある。是非聞かせて欲しい」
「えっと……見た目は本当に普通の人なんです。それこそ、特徴が無いというか……」
「……その人は、今どこに居るか想像つく?」
どこだろう……。もし由紀さんがまだ力を行使出来るなら、今頃こんな事にはなってないだろうし……そう考えると、どこか力が使えない場所に閉じ込めてるとかかな……?
「由紀さんの力は相当強力みたいなんです。だから、余程の事じゃないとやられちゃったりはしないと思うんですけど……」
「……この街に力を封じ込める様な場所は現在は確認されてない。ただ、あるとすれば……」
ウエキさんがコトヒラさんと目を合わせる。
「可能性としては、あそこだよね」
「多分」
「え、どこなんですか?」
コトヒラさんは鋏を取り出し、見つめる。
「……旭が経営してる湯屋。あそこは選ばれた奴しか入れない。何か結界みたいなのが張ってあるしね」
「私達も入った事ないんだよね。だから、あるとしたら、そこかなぁ……」
それってつまり、幽閉されてるって事だろうか……。
「じゃ、じゃあそこに行けばもしかしたら……!」
「可能性はあるよ。ただ、どうやって入るか……」
コトヒラさんは火ノ神神社の絵馬を取り出す。
「どういう基準で入れるのかが分からない。ヒツケさまに頼むっていうのも最終手段ではある。だけど、失敗する可能性が高い」
私達が悩んでいると、ドードーさんがよちよちとこちらに歩いてきた。
「皆様、どうなされたのですか?」
「え、えっと……あの、湯屋に入る方法を考えてて……」
それを聞いたドードーさんは近くまで寄ってくると、私達一人一人の前で立ち止まり、顔を見てきた。
「あの、どうしたんですか?」
「三瀬川様、以前ドードーが言っていた事を覚えていますか?」
「何ですか?」
「この街にはアルコールによく似た成分のものが散布されているという事です」
そういえばそうだった。私には何も見えないし感じないけど、そういうものが空気中に漂っているらしい。
「えっと、それがどうしたんですか?」
「これはドードーの推察に過ぎないのですが、このアルコールの様なものに酔った者だけがあそこに入れるのではないでしょうか?」
「ドードー、何を言ってるの?」
「この未知の霧は特定の方には影響が無いどころか、感知も出来ないようです。これは意図的なものでしょうか? 偶然でしょうか?」
言われてみれば、私やウエキさん達には全然見えないし、感じもしない。今まで深く考えてこなかったけど、本当にそれって偶然なのかな……?
そう考えていると、突然お店の入り口から大きな呼び声が聞こえてきた。その声はとても聞き覚えがある声だった。
「三瀬川! 居るか!!」
「サキモリさん?」
奥の部屋に私達が居る事に気が付いたサキモリさんは大慌てで靴を脱いで上がり込んできた。
「あれ? 跡部ちゃんじゃん?」
「……知り合い?」
「うん。ほら、核の専門部隊」
「……ああ」
コトヒラさんはウエキさんからの簡単な説明でサキモリさんの事を理解したらしく、サキモリさんの目の奥を見るように見つめていた。
「跡部様、どうなされたのですか?」
「こいつに用がある」
そう言うとサキモリさんは私の前に屈み、目線を合わせた。
「いいか三瀬川、落ち着いて聞けよ」
「え、ええ。何でしょうか……?」
「……黄泉川を見た」
私の背中に悪寒が走った。いつものユカリちゃんだったらそんな事は無い筈なのに、体の奥の本能が危険だと告げている。
「ど、どこでですか……?」
「そこの通りでだ。どうも、旭の所に向かっているらしい……」
それを聞き、私の心臓の鼓動が速まっていくのが分かった。しかし、それはユカリちゃんに見つかってしまうという恐怖によるものというよりも、ユカリちゃんが危険な目に合ってしまうのではないかという不安から来るものだった。
それを見てか、コトヒラさんが口を開く。
「三瀬川、前にも言ったけど、縁は切ってあるから問題ないよ。鉢合わせもありえない」
「跡部ちゃん、その縁ちゃんはさ、何しに行ったの?」
「……そこまでは分からない。だが、かつての俺の知り合いも居た。黄泉川と一緒に暮らしていた奴らも……」
私は思わず立ち上がる。
「あ、あの! そ、その人達って……」
「ああ。恐らくお前が思っている通りの奴らだ。天津罪、水瀬、天願……あいつの、家族だった奴らだ」
懐かしい名前を聞いた私は少しだけ安心した。由紀さんと同じで居なくなってしまったのではないかと思っていたからだ。もしかして、あの人達も由紀さんを捜してるんだろうか?
「……どうする、三瀬川」
「え、え?」
「俺は、旭には聞かなくちゃならない事がある。もしあの場所に行くのなら、俺も同行する」
ウエキさんとコトヒラさんも立ち上がる。
「三瀬川ちゃんが行くんなら私も行くよ?」
「……その人達は、何か策があって行ってる可能性が高い。行くなら今が好機かもしれない」
……そうだ、今が好機だ。アサヒさんを説得して、由紀さんを取り戻す事が出来れば全部解決なんだ。ユカリちゃんだってきっと元通りになる筈だよ……そうに決まってる。本当は怖いけど、でもここで逃げたら、きっと私は後悔する。それに……今の私には、こんなに優しい人達が付いていてくれるんだもん。きっと、大丈夫……。
私は覚悟を決めて顔を上げる。
「……行きます。もう、逃げたくありません……!」
「……分かった」
私からの返事を聞いたサキモリさんは立ち上がり、お店の玄関へと戻った。
「外で待ってる。準備が出来たら声を掛けてくれ」
そう言うとサキモリさんは外に出てしまい、姿が見えなくなってしまった。
「よし! じゃあ行こうか三瀬川ちゃん」
「三瀬川、問題ない?」
「は、はい。行きましょう!」
そう言ってお店を出ようと靴を履いていると、ドードーさんが声を掛けてきた。
「植木様」
「ん? どしたの?」
「これを」
そう言うとドードーさんはお店に並べていた浄玻璃鏡を咥えて、ウエキさんに渡した。
「何でこれ?」
「恐らくですが、あそこには侵入者対策で幻覚の術式が使われているものと思われます。その鏡ならば、惑わされる事はありません」
「なるほどね。まあ特に変わった力も持って無いし、こういうのを持ってても罰は当たらないよね?」
「ドードーには判断しかねますが、この役割はあなたが適任かと思われます」
「……そだね。ありがとう」
「いえ、お気を付けて」
ドードーさんから見送られた私達は、サキモリさんと共にアサヒさんの所へと向かっていった。




