第14話:忘れられた核兵器と懐かしい顔
核。私が予想もしていなかった言葉だった。
「え、ちょ……ちょっとあの……どういう事ですか……?」
恐る恐る聞く私とは対照的に、ウエキさんは余裕そうにしていた。
「あー、よくある事なんだよね。ほら、ここが忘れ去られたものが集まる場所って事は三瀬川ちゃんも知ってるでしょ?」
「え、はい。そうですけど……」
「今鳴ってるサイレンはここに来た核兵器が発射されそうになると鳴るんだよ」
それはそうなんだろうけど、でも何で核兵器がここに来てるんだろう? あっちではまだ核兵器の完全な廃棄は出来て無い筈なのに……。
「三瀬川ちゃんはさ、今までに廃棄された核兵器の数、知ってる?」
「え……? えっと……分からないです」
「私にも分からないんだ。でもね? 今までに沢山核は廃棄されてきたみたいなんだ。それこそ、私達にも把握出来ないほどにね。これがどういう意味か分かるよね?」
……分かってしまった。出来る事なら分かりたくなかったけど、気付いてしまった。
この街には今、今までに廃棄された核兵器も集まってきてるんだ。きっと核が廃棄されればされるほど、ここの核兵器は増えるんだと思う。
でも、じゃあ何で発射されたりしてるんだろう? いったい誰が? 何のために?
「あの、それは誰が撃ってるんですか?」
「いや? 誰も撃ってないよ? もっと正確に言うなら、自分達で撃ってるって感じかな?」
「そ、それはミサイルそのものがって事ですか……?」
「そそ。まああれはここに居る時点で人を殺せる様な力は失ってるんだけどね?」
それは……何でだろう? 幽霊みたいになってるって事なら、ここに居る私も物を触れたりするのはおかしいし……。
「まっ、何にせよ騒ぐほどの事じゃないよ。ちゃんと対処もしてるみたいだし」
「対処?」
「うん。あいつらが発射されたら、それを迎撃するための部隊が居るんだよ」
どういう事なんだろう……迎撃出来るのに、人を殺す様な力は持っていない? それって実体があるって事なのかな? それとも無いって事なのかな?
私達が話していると、先程まで鳴っていたサイレンがピタリと止んだ。
ウエキさんが立ち上がる。
「おっ、もう終わったかな?」
「な、何とも無かったんですかね?」
「だろうね。しっかしまあよく懲りもせずやるもんだよ。何回も失敗すりゃあ普通諦めるのに、ねぇ?」
もしかして、ウエキさんは何故その核兵器達が自分達で勝手に発射するのかは知らないのだろうか? 何だか、嫌な予感がしてしまう……。
私は立ち上がり、ウエキさんの手を軽く引っ張る。
「あ、あの……」
「ん? どしたの?」
「ウエキさんは……何で発射されてるのか知らないんですか?」
「うん。私がここに来た時からこんな感じだったし、もうそういうもんだと思って気にしてなかったかな」
もしかしたら何でもないのかもしれない。でももし、これに何か理由があるとしたら、大変な事になってしまう気がする……。
「ウエキさん……その核がどこにあるか、分かりますか?」
「うん。知ってるけど危ないかもよ?」
「そうかもしれませんけど、嫌な予感がするんです。もしかしたら悪用されてるのかもしれないし……」
そう言うと、ウエキさんは突然真面目な表情になった。
「……それは、旭がやったかもしれないっ事?」
「違うかもしれませんけど、念のために調べる必要があるんじゃないかなと……」
「……分かった。じゃあちょっと調べてみよう」
そう言うとウエキさんは部屋に置いてあった一枚の紙に字を書き始めた。
多分だけど、神社の方で色々調べてるコトヒラさんがここに来た時のためのものだろう。
手紙を書き終えると、それを近くの机の上に置いた。
「よし! これで多分大丈夫でしょ! さっ、行こっか?」
「は、はい」
私とウエキさんはドードーさんのお店を出ると、ウエキさんの案内で核達が居るという場所へと歩き始めた。
やがて私達は街から外れ、深い森の中へと入り込んでいた。周囲は常に暗く、聞いた事も無い様な動物の鳴き声も聞こえてくる。
私はスカートを握りながら、ウエキさんからはぐれない様に歩いていた。
「ここ……暗いですね……」
「まあこの街は夕方か夜かしか無いからね。どうしても暗めになっちゃうよ」
それはそうなのだろうけど、やっぱり怖かった。
確かにウエキさんが居てくれるからかなり心強くはあるものの、もしもはぐれてしまったらと思うとゾッとする。
そんな事を考えていると、突然ウエキさんが立ち止まった。私は思わずぶつかりそうになってしまう。
「きゃ……! ど、どうしたんですか……?」
「あれだよ。あそこが核達が居る場所」
ウエキさんが指差した方向を見ると、そこには明らかにその場には似つかわしくない工場の様な建物が建っていた。
「な、何だか工場みたいですね」
「うん。元が何の建物だったのかは私も知らないんだけどね」
何だか私が想像していたものとは大分かけ離れていた。もっとミサイル基地の様な建物だと思っていたけど、ここからどうやって発射されるんだろう?
「さて、本当に行く?」
「え、ええ。何か違和感を感じるんです」
私の返事を聞いたウエキさんは再び歩き出して工場の中へと入っていった。私は少し遅れて後に続く。
工場の中に入ると、私はすぐに違和感を覚えた。
工場内の敷地面積が明らかに外から見たものよりも大きかったからだ。
さっき外から見た時はそこまで大きな建物とは思わなかったのに、いざ中に入ってみると予想以上に広く、この建物が異常な存在である事が分かる。
この事にはウエキさんも気付いていた様で、辺りをキョロキョロと見回していた。
「何かここ、広いよね?」
「う、ウエキさんもそう思いますか?」
「うん。今まで外からしか見た事が無かったから気付かなかったけど……これどうなってるんだろ?」
とはいえ、いつまでもここで驚いている訳にもいかないので、私は探索を始める。
まず、近くにあった機械を見る。
テレビの工場取材で見る様な見た目のものばっかりで、素人の私にはよく分からないものの、特に違和感を感じたりはしなかった。ベルトコンベアにも何も乗っておらず、工場そのものは昨日していないという風に感じた。
その時、どこかで聞いた事がある様な男の人の声が響く。
「お前らそこで何してるっ!!」
突然の大声に思わず体が硬直してしまったが、声の主を確認した私は少し安堵した。
「……サキモリさん?」
そこに居たのは、以前私がこの街に来た時に洞窟の中で出会った人、サキモリさんだった。
私の顔を見たサキモリさんは少し驚いている様だった。
「お前……また来たのか?」
「は、はい。ちょっと事情がありまして……」
「あれ? 二人とも知り合いな感じ?」
「はい。まあそんな感じです」
サキモリさんはあの時と同じ様にほとんど表情が変わらない人で、少し無愛想で怖い印象を受ける人だった。
そういえば、この人と一緒にハナコさんっていう人が居た筈だけど、どこに居るんだろう?
「あの、サキモリさん? ハナコさんは今もお元気にしてらっしゃいますか?」
「……出て行ったよ」
「え……?」
「お前が出て行ってからしばらくした後に一人の少女がやってきた。その子が連れて行ってしまった」
いったい誰だろう? 確かハナコさんってちょっと変わった力を持ってたけど、まさかそれを狙う人なんじゃ……。
「そ、それってまずいんじゃ……」
「……いや、あれでいいんだ。あれで、な……」
サキモリさんはどこか寂しそうな顔をする。
「お前も知っているとは思うが、あの子は神代の人間に改造されていた。『八重事代主』。神の一人としてな……」
ウエキさんが尋ねる。
「ストップストップ。私には何の事やらさっぱりなんだけどさ、そのハナコって子を連れ出した女の子って誰なのさ?」
「……すまないが、お前は誰だ?」
「私? 私は花屋やってる植木希だよ」
「植木か。俺は跡部防人。……それでさっきの質問の答えだが、あの少女が誰なのかは今でも分からない。だが、彼女には犬見が神として改造されている事実が分かっている様だった」
分かってた? 何で分かってたんだろう? どこかでその情報を知っていたとかじゃないと無理な気がする。確かハナコさんって手足の骨が無くて車椅子生活なところ以外は普通の人だったし……。
「不思議とあの子になら任せられると思ったよ。あの子なら、必ず犬見を連れ出してくれるとな……」
「……ねぇ跡部ちゃん。この街から出るには何かを忘れていかないといけない。その子達は何を忘れていったの?」
「……俺も分からない。だが、今となってはそんな事はどうでもいい事だ」
「どうでもいい?」
「ああ。俺の目的は犬見を外の世界に出してやる事だったからな……」
どういう事だろう? 確かにサキモリさんはハナコさんの面倒を見てるみたいだったけど、外に出すのが目的だった……?
「あの子は神代にとって都合のいい存在として作られた。人々に神言を授ける存在として、真実を語る存在として、な……。もしここに居れば、あの子は永遠に駒として使い続けられる事になっただろう。ならいっその事外の世界に行かせた方がずっと幸せになれる」
「で、でもサキモリさん! 確かハナコさんって体が……」
「ああ……それでもだ……ここに居るよりはずっと良い。永遠に忘れられてしまうよりかはずっと良い……」
相変わらず表情はほとんど変わっていない様に見えたけど、そのサキモリさんの表情にはどこか恐怖の様なものがある様に感じた。
「なるほどね……どうもその女の子とやらは味方と見ても良さそうだね」
「ウエキさん、それはどういう……」
「たまに居るんだよね、自分からこの街の外に出る人達って。多分その子は他の出たがってる子も一緒に連れて行ったんじゃないかな?」
「でもそれって……アサヒさんと同じ事しようとしてるんじゃ……」
「いや、あいつはここに居る全員を外に出そうとしてる。でもその子は多分自分に同意してくれた人だけを連れて行ったんじゃないかな?」
そういえばそうかも……もしアサヒさんと同じ考えを持ってるなら、全員連れて行くよね……。
ここで私は本題を思い出し、サキモリさんに尋ねる。
「あの、サキモリさん。お話はちょっと変わるんですけど……」
「何だ?」
「どうしてここに居るんですか……?」
「それはこっちの台詞だ。ここに入っていく人影を追ってきた。そうしたらお前達が居たんだ」
ま、まあ確かに不法侵入かもしれない……でも、それだけで後を追うのかな?
「お前達、何でここに来た? 対策部隊の人間しか入れないと通達してある筈だが?」
「あー、それはさ、私が見に行こうって言ったんだよ。ねぇ?」
ウエキさんがこちらに笑顔を向ける。
そんな事は言ってない。私を庇おうとしてくれてるんだ……。
私は怒られる事を覚悟して口を開く。
「ち、違います! わ、私が行きたいって言ったんです!」
サキモリさんは腕を組む。
「……どういうつもりだ? お前の性格なら、こんな危なそうな場所には近寄りたがらない筈だ」
「えっと……おかしいと、思って……」
「何がだ?」
「ウエキさんから聞いた話だと、ここにある核兵器には人を殺したりする様な力は無くて、勝手に飛ぶらしいじゃないですか……それっておかしいですよ……」
「……お前達が知る必要はない」
サキモリさんは何か知っている。私の違和感の答えを知っている。ここで聞かないと二度と聞き出せないかもしれない。
私は全て話してもらうためにアサヒさんがやろうとしている事、そしてユカリちゃんの様子がおかしくなっている事を話す事にした。
「あの、サキモリさん。実は……」
話し終え、サキモリさんの顔を見ると、少し汗が垂れていた。
「まさか……」
「あくまで疑惑ではあるんだけどさ、あいつは少なくとも何か企んでるよ」
「お願いしますサキモリさん! 何か関係してるかもしれないんです!」
サキモリさんは小さく溜息をつくと、背を向けて歩き出した。
「ついて来い。見せてやろう」
「あ、ありがとうございます……!」
「ありがとね、跡部ちゃん」
私達はサキモリさんの後を追って、工場内にあったエレベーターへと入っていった。




