第13話:植木希の過去
「おーい三瀬川ちゃーん! 大丈夫ー?」
「えっ!?」
私はウエキさんの声で我に返った。
周りを見回すと、ウエキさんのお店ではなく、ドードーさんのお店だった。
「あれ? 私……いつの間に……」
「覚えてない? 私の店で話してたんだけど、三瀬川ちゃん情報が処理しきれてなかったみたいだからさ、一旦ここに連れてきたんだ」
そうだ。確かウエキさんのお店でコトヒラさんと出会って、そこでアサヒさんがしようとしてる事を話し合ってたんだ。由紀さんとこの街の縁を切ろうとしてるとか何とか……。
いや……それだけじゃない。コトヒラさん曰く、ユカリちゃんが私を追って来てるって……。
「あの……コトヒラさんはどちらへ?」
「今、金刀比羅ちゃんが管理してる神社に戻って、旭が残していった絵馬を調べてるよ。それまではここに待機する事になってる」
コトヒラさんの神社……確かあの人は縁切りを仕事にしてるんだったよね。アサヒさんは……それを利用した……。
私は立ち上がる。
「あ、大丈夫? 金刀比羅ちゃんが来るまで時間掛かるだろうし、もうちょい寝ててもいいよ?」
「だ、大丈夫です。それよりも、ドードーさんは?」
私はドードーさんの事が心配だった。先程から姿が見えなかったからだ。
「あードードーちゃんは今商品を仕入れに行ってるよ。何でも秘密の仕入先があるんだって」
良かった……何かあった訳じゃなかったんだ。それなら少し安心かな?
私はホッとし、ウエキさんを見る。
そういえば、この人はどうしてここに来たんだろう? 前に会ったもう一人のウエキさんとの話から考えると、元々は私と同じ世界から来たみたいだったけど……。
「あの、ウエキさん。少しいいですか?」
「うん? どしたの?」
「あの……もし良ければ、ウエキさんがここに来る前の話とか聞きたいなって……」
私がそう言うと、ウエキさんは前髪を指で弄り始めた。
「……そーだね。三瀬川ちゃんには今更隠す必要とか無いかな?」
ウエキさんはその場に座ると、私にも座る様に促してきた。
私は促されるままに座る。
「どっから話そうか……えっと……私は、普通の家庭に産まれたんだ。多分、他とあんまり変わらない家庭」
ウエキさんはどこか自信無さげに話し出した。普通って言っても、人によって色々だもんね……。
「私は小さい頃から植物が好きでね。他の子が友達と遊んでても、私は植物に夢中だった。私にとっては……あの子達が友達と言っても過言じゃなかった」
そういえば、あの時もそんな事を言ってた気がする。
「そのせいで、周りの子から嫌われてね。親も気持ち悪がって、いつの間にか私の周りには味方してくれる人がいなくなっていた」
何でそんな事するんだろう……ウエキさん程じゃないかもしれないけど、私だってお花は好きだし、そんなに気持ち悪がる事なのかな……?
「……で、さ。いつだったかな……もう昔の事だからはっきりとは覚えてないんだけどさ。イジメが始まってね」
私の胸がきゅっとなる。イジメという言葉に反応してしまったのかもしれない。
「別に我慢出来る程度だったんだ。元々人間なんてそんなに興味無かったし。でも……あいつらは、超えちゃいけない一線を超えた……」
私も……他人に興味が無ければ、あんなに苦しまなくて済んだのかな……。
「……あいつらは、私が大切に育ててた花の入った鉢植えを壊したんだ。偶然じゃない。意図的に。花も……ぐちゃぐちゃに踏み潰して……」
どうしてそんな事が出来るんだろう……私には分からない……。
「頭に血が上るのを感じたよ。私は鉢植えの破片を拾って、笑いながら立ち去ろうとしたあいつらを……」
ウエキさんはそこで話を止めた。多分、私の体が震えている事に気付いたからだろう。
私自身気付けてなかったが、いつの間にか体が震えていた。
「あはは……ごめんごめん。怖い話になっちゃったね……」
ウエキさんはこちらに笑顔を向ける。そんな気遣いが私にとってはとても辛かった。そんな気遣いをさせてしまった私自信に嫌悪感を抱いた。
「だ、大丈夫ですよ? えと……それから、どうなったんですか……?」
「…………まあ結果から言うと、両方とも死んだんだよね。私もあいつらもさ」
「え? それはどういう……」
「三瀬川ちゃん。私も意外だったよ。人間に興味なんか無くて、別に殺したって何とも思わないって思ってたんだけどね。……いざ殺してみると、とんでもない罪悪感に襲われるんだよ。今までの無関心が嘘みたいにさ。それこそ、生きていられない程に、ね」
それはそうだと思う……。前にこの街に来た時に出会ったハラエさんもきっとこんな気持ちだったんだろうと思う。あの人も、昔は殺し屋をしていたらしいから……。
ウエキさんが自嘲的に笑う。
「結局さ、実際は無関心じゃなかったんだよ。本当は怖かっただけ。自分が受け入れてもらえないんじゃないかって怖がって、何にも喋らない植物に逃げてただけだったんだよ。……だから私はここに来てしまったんだろうね。あいつらは悲しんでくれる人が居たけど、私には居なかった。それが私とあいつらの決定的な違い、なんだろうね……」
やっぱりそうなんだ。この人は優しい人なんだ。優しい人だから、繊細な人だから、人を怖がってたんだ。自分を認めてもらえないのが怖いから、こうやって……笑顔を作ってるんだ……。
「さてっと! これで私の昔話はお終い。どう? 酷いもんでしょ?」
私は何も言う事が出来なかった。いったいどういう言葉を掛ければいいのか分からなかった。どうすればこの人の心を助けてあげられるのか、検討も付かなかった。きっと……認めるって凄く難しい事なんだと思う。
そうやってしばらくの間沈黙を守っていると、突然街を包み込む様なサイレンが鳴り響いた。
「な、何……!?」
「……あー、またかぁ……」
ウエキさんは面倒くさそうな顔をしながら立ち上がり、ドードーさんのお店の扉を閉めた。
「あ、あの……ウエキさん? これって……」
「心配ないよ。よくある事だよ」
どういう事だろう……? 前に私がここに来た時にはこんなサイレン聞いた事がなかったけど……。それにこのサイレン……何か、怖い……聞いてるだけで鳥肌が立ってくる様な……そんな感じがある……。
私は自分の体を抱き締める様に腕を回し、服を掴む。
そんな様子を見てか、ウエキさんは私を抱き寄せ、頭を撫で始める。
「大丈夫……大丈夫だって。また核が撃たれただけだよ」
「か、核ぅっ……!?」
予想だにしなかった言葉が飛び出した事により、私の恐怖心は煽られ、拍動は一気に跳ね上がっていた。




