恋の応援 2
上條は仕事用の冷静な表情を作ったまま、素早く頭を回転させた。
目の前の後輩が私を本気で心配してくれているのはわかる。そして朝比奈と私の仲を疑っているのも。
まあ、朝比奈の性格知ってて、喧嘩ばっかりしてた私達が、いきなり付き合ってました、婚約しますなんて疑われても仕方ないわよね。
しかし婚約してから1年たった今頃に、何故こんな質問をしてくるのだろう。
実は私は朝比奈とある約束をしていた。それは偽の婚約者だという事は朝比奈と私だけの秘密にするという事だ。
会社に乗り込んであれだけ言ったのに嘘でした、なんてしゃれにならない。
それに朝比奈の思惑通り、左手の指輪は大きな威力を発揮して、今の所本気で私に手をだそうとするバカな男は少ない。
私はまだこの都合のいい関係を終わらせるつもりはなかった。
人のいい後輩を疑うわけではないが、どこから情報が漏れるかわからないので用心する。
「どうして、私が困ってるだなんて思うの?」
「最近上條先輩と朝比奈先輩喧嘩してます?」
言い争い程度の喧嘩ならいつものことだ。当たり前すぎて喧嘩だと思えないぐらいに。
「してないわよ。というか忙しいから最近会ってないわね」
柾木は引きつった笑顔を浮かべた。
「忙しくて彼氏と会う暇ないのに、俺なんかとお茶してていいんですか?」
「朝比奈は今古谷教授のお供で名古屋の学会でしょ。どうせ会えないんだしいいじゃない」
「まあ、そうなんですけど……だから朝比奈先輩最近荒れてるのかな……」
「もしかして朝比奈、ストレス解消で柾木君をイジメてるんじゃないでしょうね」
「そうじゃないですよ」
わざとらしく笑顔を作っているが、引きつってる。
在学中から気がかりだったのはこの後輩の事だ。
学内で朝比奈の性格の悪さを知る、数少すくないこの後輩は、そのせいで朝比奈に散々利用されている。
『朝比奈問題専用窓口』上條彩花としてはほっておけなかった。だから連絡先を教えて何かあったら相談するように言っておいたのだ。
そろそろ我慢の限界かしらね……。
「遠慮しなくていいのよ。私が今度キツくお灸をすえておくから」
「止めてください。そんな事したらますます酷い事に……って、ああ……」
自ら墓穴を掘って落ち込む後輩はなんとも可愛いもんだ。朝比奈にはこういう隙がないもんなぁ。ちょっと癒やされる。
ハーフのせいか、少し色素の薄い髪や目、掘りの深さと、日本人の柔らかな輪郭が合わさってきつすぎない甘い顔立ち。
身長も180cmを軽く超えている長身にスポーツマンらしくほどよく鍛えられた体はたくましい。
これで女性に優しく紳士的なのだから、『学園の王子』なのも納得だ。
体格的にはもやし朝比奈なんかよりずっと恵まれてるのだから、腕力で跳ね返せばいいものを、この人のいい後輩はそれができないのだ。
「大丈夫。柾木君の事は話さないから」
「俺の事はいいんです。もう慣れましたから。それよりも上條先輩の方が心配ですよ」
あまりに真剣な柾木の態度に、朝比奈との取引を隠す後ろめたさを感じた。
「初めはあんなに女遊びの激しかった朝比奈先輩が婚約だなんて、今度こそ本命の彼女ができたんだと思ったんです。上條先輩は朝比奈先輩の事よく知っててそれでもつきあってるんだと。でも、最近それが怖く感じてきたんです」
「怖い?」
柾木はそこで悩むような感じで押し黙った。
「俺最近好きな子がいるんです。今まで付き合った子と比較できないくらい特別な」
突然の話の飛躍に私の思考がついていかない。
「ああ……朝比奈から聞いてるわ。ずいぶん変わった子を好きになったとか」
「俺も朝比奈先輩を非難できないくらい、たくさんの女の子と付き合ってますけど、彼女は特別でもう彼女以外の人を好きになれないって思ってしまって」
「いいじゃない。本気の恋を見つけられたんだから」
「周りのみんなから反対されるし、何より彼女自身から拒絶されてるのに、諦められずにしつこくつきまとってるんです。ストーカーだ、変態だって言われるけどその通りかもしれない」
思いつめた苦悩の表情の中、瞳に映る狂気に似た揺らめきに、私は冷や汗が流れた。
一人の女に執着し追い求める男の狂気。
恋愛小説だと、これだけ好条件の男に狂うほど愛されるヒロインというのは人気があるが、正直恋愛にさほど興味のない私には理解できない心境だ。
「俺の事おかしいと思いますか?」
「ううん。人の事を好きになる事はいい事よ。私は応援するわ」
「ありがとうございます。そんな事言ってくれるの先輩だけです」
あまりに突っ走り過ぎて本当にストーカーとかは止めてほしいが。今の彼に何を言っても無駄な気がした。
「朝比奈先輩も俺と同じだと思うんです」
「へ?」
突然朝比奈の話に戻って、冷静さが崩れた。今の話、朝比奈に繋がってるの?
「上條先輩と婚約して1年。少しだけど朝比奈先輩は優しくなったし、いい意味で変わったと思うんです」
「朝比奈が優しいね……嘘が美味くなっただけじゃないかしらねぇ」
「朝比奈先輩って誰も好きにならない分、誰とも深入りしないというか、距離感が常にあったのに。大分最近は近くなった気がします」
それは私もわかる気がした。婚約者になったからかもしれないが、3年以上の付き合いでまったく知らなかった朝比奈の一面に、この1年何度驚かされた事か。
「近くなった分わかるんですよ。俺にとっての『彼女』と、朝比奈先輩にとっての上條先輩は同じだって。もし上條先輩が朝比奈先輩から離れようとしたら、多分かなり危険な事になるんじゃないかって心配で」
「まさか……そんな……」
「最近会ってないんですよね。朝比奈先輩は焦ってるんですよ。このまま上條先輩がいなくなるんじゃないかって」
「……」
いつも余裕で嘘臭い笑顔のあの男にも、目の前の後輩と同じ狂気があるというのか?
確かに最近クリスマスに会わないと宣言したのに、朝比奈はいつもと違ってかなりしつこく食い下がっている。
しかしそれは自分の誕生日を仮でも婚約者とすごしたいという朝比奈のワガママ。
朝比奈の考えに気づいていながら拒否してるのは、朝比奈が素直に誕生日を祝ってほしいと言わない事が、しゃくにさわるからなのだが……。そして朝比奈も私に拒否されて意地になっているだけ。
互いに意地を張り合うだけで、私たちの間に恋愛感情なんてないと思ってた。
もしこのまま私が意地をはり通したら、朝比奈はどうするんだろう。
狂気にかられておかしくなるのだろうか?
そんな姿想像もできない。ただ『学園の王子』が狂うほど恋をしているだなんて、誰にも想像できなかった。
朝比奈もそうならないとはいいきれない。私は心の中に暗雲が立ち込めるのを感じた。
譲司はイケメン、彩花は美女って設定だけど
今までちゃんと外見描写してなかったなと反省し
今回は少し描写多めです
初めは譲司と彩花のほのぼのコンビの交流のはずが
書いてるうちに暗い展開に
作者は鬱展開好きですが、最後はハッピーエンド派です




