恋の応援 1
12月初旬ともなれば東京も寒くなってくるというのに、この街に来る女性達はオシャレの為に寒さなど関係無いのだろうか?
譲司は表参道駅近くのカフェで人を待ちながら、道行く人々を見つめそんな感想を抱いた。
俺がここを選んだのは、待ち合わせ相手の職場が近いのと、芸能人や目立つ容姿の人々が集まるここなら、かえって目立たないと思ったからだ。
しかし俺一人でもすでに注目を集めている。さらにあの華やかな美女がきたらさらに目立つんだろうな……。
少し冷めたコーヒーを口にしながら、周囲に警戒を怠らない。
こんな所あの人にばれならとんでもない。あの人は今東京にいないが、他の人間から話がまわらないとは限らない。
その時吹いた風と共に空気が変わった気がした。遠目からもよくわかる長身の美女が歩いてくる。
体育会系のくせと身についた女性への敬意に思わず立ち上がった。
「お待たせ、柾木君。そんな立ち上がって迎えてくれなくていいわよ」
ヒールを履いているといっても、背の高い譲司と並んで見劣りしない女性はすくない。
多分170cmはあるだろう。しかも身長に対して顔が小さく手足が長いので余計に背が高く見える。
ビジネススーツに身を包んでもなおわかるグラマラスなスタイル、華やかでありながら知的な美貌。大きな瞳は目元がきりりと引き締まり、長いまつげが作る影が美しい。ふっくらとした形のいい唇をつりあげて微笑めば、紫という恋する相手がいる譲司でさえも思わずにやけてしまう。
モデルに間違われてもおかしくない容姿で、表参道を歩けば大変だろう。
「スカウトに捕まりませんでした?」
「そんなの空気と思って目もあわせないわ」
俺も同じようなものなので笑顔で同意した。彼女の椅子を引いてエスコートしようとしたら、呆れられた。
「ほんと柾木君は女の子には誰にでも紳士よね。そんなんじゃ誤解されるわよ」
「誰にでもじゃないですよ。先輩は特別ですから」
「そういう発言がまた誤解されるの。気をつけなさいよね」
怒ったような口調だが、彼女なりの気づかいに嬉しくなる。最近俺の周りは腹黒ばかりだから、癒されるなぁ……。
二人が席につくと彼女にメニューを渡した。カフェ店員がすぐに注文を取りにやってくる。
「俺はコーヒーをおかわり。先輩はどうします?」
「ビールください」
午後のティータイムといった時間に、カフェで初めからビールとはなかなか男前だ。
運ばれてきたビールを一気に半分飲み干し、幸せ一杯の笑顔で微笑んだ。
「やっぱり昼間から飲む酒は最高ね」
「今日も休日出勤だったんですよね。お疲れ様です」
「最近忘年会続きで、残業できないから仕事貯まっちゃって。まあ1件予定の仕事が先延ばしになったから、今日は早めに切り上げられたけど」
「そんな貴重な時間、俺なんかに付き合わせちゃってすみません」
「いいの、いいの。どうせ予定なんてないし。それに柾木君から呼び出しなんて珍しいじゃない」
「ちょっと先輩の事が心配になって……。でもいつも通りお元気そうでよかった」
「心配って……もしかしてヤツなんかしでかしてるの」
鋭いな。普段は鈍いふりをしてるが、実は彼女はなかなかに切れ者だ。
多分俺が呼び出しをした時からわかっていたのだろう。
「正直に言ってください、上條先輩。何か困っていることありませんか? 朝比奈先輩を怖いと思うことありませんか?」
上條は空になったビールをテーブルに置きながら、探るような鋭い眼差しを俺に送った。
俺は上條の事を先輩として尊敬してる。彼女には幸せになって欲しい。
しかし彼女の婚約者である朝比奈をよく知ってるがゆえに、彼女の事が心配でならない。
最初は朝比奈に脅されて付き合ってるのではないかと不安だった。
付き合ってるという噂が流れた直後の、あまりに唐突な婚約だったから。
しばらく観察していたが上条に変化はなく二人の仲は良好に見えた。
大人の男女が合意で付き合ってるのに、口を挟むべきではない。彼女が幸せになるなら二人の応援もしたい。そう思い始めていたのに、最近また彼女が心配になってきたのだ。
「柾木君に心配されるような事はないわ」
上条はおかわりのビールを頼みながら、そう答えた。




