冬の贈りもの 後編
12月23日当日。
竜田揚げの下拵え完了。上條は生野菜より煮物好きだから、野菜は筑前煮を作ってある。日本酒飲むだろうから、あいそうな酒のつまみを2~3品。まあ今日は蟹あるし少なめでいいか。
用意した料理は純和風でまったくクリスマスらしくなかった。
僕の実家もクリスマスに煮物が出てくる家だったので変わりはないが、世間一般の常識から外れているのはわかっている。
玄関のチャイムが鳴って、我にかえった。ああ……もうそんな時間か。
「寒かったでしょう……」
言いながら玄関の扉を開けて目を疑ってしまった。思わず無言ですぐに扉を閉めた。
「ちょっと、何やってんのよ!」
扉の向こうからいつもの上條の怒り声が聞こえてくる。
ああ……やっぱり見間違いじゃなかったんだ……。
もう一度扉を開けるとやっぱりさっきと同じ。美女が片手に米袋担いで、片手に一升瓶。
「重いんだから。さっさと通してよ」
ぶつぶつ文句言いながら、上條は部屋に入る。
「それ、家から担いできたの?」
「まさか、カートで引いてきたのよ」
外にはカートがあった。米袋はカートに載せたとしても、一升瓶を裸のまま持ってくるか? 普通………。
男前すぎるインパクトに、思わず肩を落としてため息をつく。
「お米と酒どうしたの?」
「あんたと同じよ。実家から送ってきたの」
「上條の実家ってどこだっけ?」
「新潟」
米どころだから、日本酒も美味しいの多いよな……。
なんとなく上條は酒豪の多い四国や九州のイメージだったのだが……。
米を見ると魚沼産の高級米だ。
蟹に釣り合うように無理して調達したのだろうか?
「こんな高い米、ただで親送ってくれたんじゃないでしょ」
「それはあんたも同じでしょ。どうせ金払って蟹取り寄せたくせに」
見抜かれてる。金沢出身は本当だが、普通のサラリーマン家庭が蟹など高級品を送ってくれるわけがない。
なんというか女の子なんだから、もうちょっと可愛く奢られてもいいと思うのだが、上條は絶対理由もなくプレゼントも奢りもさせてくれない。
上條行き付けの店で飲む時も、会計はいつも僕がしてるが、何故か毎回半額しか請求されない。残りは上條のつけで、後で払ってるのだろう。
「この米炊いといて、締めの蟹雑炊にしようか?」
「いいわね」
米を研いで水につけて、鳥唐揚げを揚げながら、和室を見ると、上條はすでにつまみをかじりながら日本酒と睨めっこしている。
「先に飲んでていいよ」
「いいわよ。唐揚げ食べながら飲むから」
「じゃあ先に蟹焼いといて」
すでにテーブルにはコンロと焼き網がセットしてある。
僕が唐揚げを持って和室に行くと、上條は蟹の焼ける臭いに嬉しそうな顔をしていた。
「甲羅酒の前に一杯」
僕は上條のコップに日本酒を注ぐ。
「飲んで忘れる前に渡しとくわ」
上條はそう言ってバックの中から細長い箱を取り出した。
地味な包装紙に包まれ、リボンもないそれを、僕はあっけにとられたように見た。
「何? もしかしてクリスマスプレゼント?」
「違うわよ! 今日は蟹祭りの日だけじゃないでしょ」
「……うそ……なんで知って……」
「仮でも婚約者の誕生日知らないわけないでしょ」
僕の全身の体温が上がって、顔まで真っ赤になった気がする。それぐらい嬉しさと恥ずかしさでいっぱいだった。僕の思惑ばれてたんだ。
僕が上條とのクリスマスにこだわったのは、本当の所クリスマスのふりして、僕の誕生日を一緒に過ごして欲しかっただけなのだった。
一緒にいられれば……プレゼントも何も期待してなかったのだが、こんな不意打ち……嬉しすぎるじゃないか。
「で、でも、僕は上條に誕生日プレゼントあげてないよ」
上條は夏生まれで、誕生日プレゼントをあげようとしたら猛烈な勢いで断られたのだ。
「いいのよ。私はもう貰ってるから」
「へ?」
「これ。学生の割には奮発していいの買ったじゃない」
上條は左手に光る婚約指輪を眺めて言った。
「これで仮はチャラだからね」
僕が彼女を縛りたくてあげた指輪だったのに、彼女はずっと気にしてたのだろうか?
嬉しくて顔がにやけるのが押さえられない。
プレゼント何だろう? 細長い形だと、ネクタイかなんかかな? と思いながら受け取ると意外に重くて驚いた。
「……開けていい?」
ひと仕事終えて満足したように、上條はもう飲み始めている。焼き蟹の美味しさに舌鼓をうちつつ、上機嫌な上條。
「好きにすれば」
包みを開けて中を確認したら、思わずふたをしてしまった。
さっきの玄関の登場の仕方といい、なんでこう心臓に悪そうなインパクトのある行動するかなこの女は?
メガネをふいて、ついでに目頭も揉んでおく。それからあらためてふたを開けて確認したが見間違いではないようだ。
「これ刺身包丁だよね……。なんで?」
誕生日プレゼントが刺身包丁ってすごいセンスだ。突き抜けすぎだろう。
「前に居酒屋の店長と刺身話で盛り上がった時、欲しいって言ってたじゃない」
そんな話したかな? 覚えててくれたのは嬉しいが、これはきっと……。
「これで刺身さばいて上條に食べさせるって事?」
「そういう事」
甲羅酒いいわ~と盛り上がる上條。
「じゃあ今度上條の家でさばいてあげる」
「ダメ。絶対。あんたにうちの敷居はまたがせん」
「なんでそんなに警戒するかな? 男の家で酒飲んでる時点でもう変わらないと思うけど」
「あんたが襲おうとしても、私が張り倒すし」
僕は箱からプレゼントを取り出しながら言った。
「今僕が何持ってるかわかってて言ってる?」
僕は意地悪な笑みを浮かべてささやかな反抗を試みる。
上條は強い眼差しで僕を睨みつけた。
「あんたみたいなモヤシ男、凶器のハンデつきでぶちのめしてやるわよ」
男前な捨て台詞も、すぐに蟹の美味しさで緩んでしまえばかたなしだ。
僕は諦めて、上條に食べ尽くされる前に蟹を食べ始めた。
蟹って食べてると会話なくなるよね。蟹美味しいな……。
彼女からの初プレゼントに嬉しいような、悲しいような。複雑な気分だった。
四季シリーズ終了です
この後も何作か短編をつづけようと思います。
だいぶ時系列がごちゃごちゃなので、活動報告に年表をのせようと思ってます
よろしければ活動報告も時々覗いてやってください




