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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第3章 短編集
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冬の贈りもの 前編

 11月も終わり頃、来月にむけて朝比奈はまた一つ企んでいた。


「来月の予定どんな感じ?」

「月初めは忘年会ラッシュで、中盤から冬休みにかけては休み前の追い込みで仕事忙しいわよ。うちは28日から休みだからね」


「でも今年は23日から3連休だよね」

「休日出勤してでも、あんたとクリスマスやる気ないからね」


「……そこまで、露骨に避けなくても……婚約者なんだし」

「仮よ。仮。なんで朝比奈なんかと恋人みたいにクリスマスなんてやらなきゃいけないのよ」


 予想通りの展開だが、上條の強情さは半端じゃない。

 策でもなければ、二人きりのクリスマスになど持ち込めそうにない。


「せっかく実家から蟹送ってくるから一緒に食べようと思ったんだけどな」


 そっぽを向いてた上條がまじまじと僕を見る。


「あんたの実家ってどこだっけ? 蟹って事は北海道とか?」

「いや、金沢だけど。今タラバガニのシーズンだし、焼き蟹とか蟹鍋とかいいよね」


 よだれが垂れそうなほど口を開けて、うっとりする上條。わかりやすすぎる。


「上條甲羅酒好き?」

「もちろん! って……」


「うん。3連休あたり時間があったら僕んち食べにおいでよ」


 甲羅酒に舌なめずりしそうな上條だが、そこで素直に頷かなかった。


「他の日じゃだめなの?」

「その頃送ってもらうように頼んじゃった。冷凍してても鮮度落ちるし」


「じゃあ私ん家直接送ってよ。一人で甲羅酒飲む」

「それないでしょ。酷いよ」


 食べ物で釣れば簡単に引っかかるかと思ったが、なかなか今回の上條は頑なだ。その日は諦めて翌日から僕は対策を練り始めた。


 まずは数日おきに金沢蟹の美味しさや料理について、メールで散々語って興味を引く。

 返信はなかったが、この攻撃が効いているものと信じたい。

 本当は会って話したかったが、上條は忘年会ラッシュで忙しい。


 忘年会ラッシュが終われば、今度は残業続きの日々。期日が迫り僕は焦ってメールではなく、電話をした。

 自分の時間を邪魔されるのを嫌う僕達は普段電話はしないのに。


 何度目かのコールでやっと上條が電話に出た。


『しつこいわよ。ストーカー』

『メール返信ないし。そろそろ気が変わってないかな?と思って』


『だからあんたと3連休過ごす気は微塵もないわよ』

『蟹あっても?』


『……か、かにに……釣られると……思ったら……お、大間違いよ』


 思いっきり動揺しながら言っても説得力ない。


『いいもん。蟹料理の店いくもん』


 ああ……やっぱり蟹メール攻撃は効いてたようだ。今頃上條の頭の中は蟹でいっぱいだろう。


『上條は酔っ払い蟹って知ってる?』

『何それ?』


『元は中国で上海蟹を紹興酒につけた料理なんだけどね。金沢では蟹を日本酒につけて作ってるんだ』

『……』


 電話の向こうで無言で息を飲む音が聞こえた。


『香箱蟹っていう地元でしか食べない小さなメス蟹を使うんだけど、味噌が美味しくて、酒の魚として最高だよ。本当は金沢でしか食べられないんだけど、特別に知り合いに送って貰えるんだけど食べにこない?』


 ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。長い長い沈黙の後、唸るように低い声が聞こえてきた。


『12月23日は蟹祭りの日……』

『へ?』


『12月23日は上條彩花認定、蟹祭りの日だからね。間違ってもクリスマスなんかじゃないんだから!』


 思わず吹き出しそうになるほどおかしな言い訳だ。子供じゃないんだから……。


『わかった。わかった。蟹祭りね。じゃあ他の料理は?』

『ケーキ禁止。私生クリーム嫌いだし。鳥唐揚げとかはあってもいいけど、竜田揚げにしてよね』


 クリスマスムードぶち壊しなリクエストだ。何が何でもクリスマスとは認めないつもりらしい。


『それから、プレゼント禁止。用意してたら、蟹だけ持ってすぐ帰るから』


 完全に裏を読まれてる。プレゼントの候補はすでに絞り済みだったのだが、買う前でよかった。


 こうしてクリスマス……ではなく蟹祭りが実行される事となった。

彩花の食い意地のせいで、食べ物の話につい流れます

酔っ払い蟹食べたい

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